FASHION

こなれた古着ミックスの大定番 〈アディダス〉の名作ヴィンテージジャージの世界。 【個性派モデル編】

加熱するヴィンテージシーンにあって、ジャージの評価が再び高まっている。スポーツウェアだけに着心地が抜群で、ケアも比較的容易。古今の著名人が好んで手に取ったカルチャー的な要素も相まり、エッジィな街着としてのイメージを築く。ジャージではなくトラックジャケットという呼び名が浸透したことも、ファッション的躍進の証左となるだろう。

とりわけ〈adidas アディダス〉のヴィンテージは、高い完成度とデザインの多彩さで他を圧倒する。となると逆説的に、選びの判断に戸惑いが生じるかもしれない。そんな迷える子羊に贈る、『knowbrand magazine』的模範解答。【スタンダードモデル編】に続くその第二弾は、より癖のある表情で着用者のグッドセンスを物語る個性派モデルにフォーカスしたい。

1970年代初期 西ドイツ製
〈adidas アディダス〉のジャージ
胸元で違いを生むブルー2のトーン

1970年代、西ドイツ、アディダス、ジャージ。そのフレーズの羅列から、脊髄反射的にフットボール界の“皇帝”フランツ・アントン・ベッケンバウアーを連想する諸先輩方も少なくないはずだ。実際、彼の名を冠したトラックスーツは〈adidas Originals アディダス オリジナルス〉の定番として今も現役。だがこのヴィンテージは、よりユニークなデザインでオリジナリティを演出する。

1970年代初期の 西ドイツ製〈adidas アディダス〉のジャージ_01

爽やかな配色のなか、胸元のダイヤモンド型デザインが個性的。

まず目に止まるのが、胸部分のデザインだろう。ネイビーのボディと爽やかなバイカラーを形成するダイヤモンド型の切り替えに、ブランドのお家芸たるスリーストライプスがドッキング。左胸にはトレフォイルとブランド名を併記したボックスロゴがあしらわれ、それもまた本体同様のバイカラーになっている点が心憎い。

1970年代初期の 西ドイツ製〈adidas アディダス〉のジャージ_02_襟元

胸元のあしらいの両脇には、お馴染みのスリーストライプスが。ボックスロゴを左胸に配置。

ジップを上げれば顎下まですっぽり覆う通称“襟付き”仕様で、フロント両サイド下部にジップポケットが付くなど、現代に連なるディテールを備えて利便性も上々。袖付けはセットインスリーブで、肩周りの適度なゆとりが動きやすさをサポートする。

1970年代初期の 西ドイツ製〈adidas アディダス〉のジャージ_03_タグ表

いわゆる“襟付き”と呼ばれる仕様。現在においてもオーソドックスなタイプ。

1970年代初期の 西ドイツ製〈adidas アディダス〉のジャージ_05_タグ裏

かすれたタグ裏面の上部に、「MADE IN WEST GERMANY」と記載される。

白い背タグにはトレフォイルがないかわりに、登録商標の証明であるレジスターマークを確認できる。この印がシンプルなブランドロゴの下に記載されたのは、1972年以降のこと。ちなみに、ベッケンバウアーはその年に自身初のバロンドールを獲得した。

再度ジャージに目線を戻そう。本体デザインやタグから総合的に判断すると、今作は1973年以降のモデルとの説が有力だ。タグの背面には西ドイツ製であることが記され、質実剛健なプロダクトにさらなる説得力を加える。

1975年前後 デサント製
フルジップパーカータイプ
〈adidas アディダス〉のジャージ
フットボールTを思わせる
個性派フーディ

今でこそ決して珍しくないが、当時のものを探すとなると途端に球数は限られる。フードのついたパーカタイプのジャージは、数あるヴィンテージアディダスのなかでも希少価値が高いレアアイテムだ。しかもこちらは、フロントショルダーに縫い目がないフットボールTのようなデザイン。通であればあるほど、物欲が刺激されるに違いない。

1975年前後のフルジップパーカータイプ デサント製〈adidas アディダス〉のジャージ_01

1975年製と思しき1着は、フードがついたパーカタイプ。

グッドセンスなルックスも、ファッション好きの琴線に触れる。燃えるような真っ赤なボディとは対照的なネイビーを、アームのスリーストライプス、胸のトレフォイルロゴ、袖と身頃の裾リブに効果的に配置。アウターとしてだけでなく、シンプルなセットアップのインナーに取り入れるなど、季節を問わない活躍が見込まれる。

1975年前後のフルジップパーカータイプ デサント製〈adidas アディダス〉のジャージ_02_フード

フットボールTのような袖付けは、背面から見るとラグラン仕様になっている。

1975年前後のフルジップパーカータイプ デサント製〈adidas アディダス〉のジャージ_03_ポケット

八の字型のジップポケットが付き、実用性も十分。

細かいディテールもまた、実に個性的だ。カンの鋭い読者はすでにお気付きの通り、背中にはタグが付いていない。これは古着ゆえに取れ落ちてしまったわけではなく、左身頃の内側へとアドレスを変更したためだ。そこには、本稿の前編でも触れた「PRODUCED BY DESCENTE UNDER ADIDAS LICENSE」の文字が。

アディダス本社の日本法人ができる以前に同ブランドの飛躍を支えた〈DESCENTE デサント〉は、いわば日の本における育ての親。そう考えると、今作の赤いボディには妙に親近感を覚えてしまう。

1975年前後のフルジップパーカータイプ デサント製〈adidas アディダス〉のジャージ_04_内タグ

タグは背中ではなく、左身頃の内側に付属。ブランドロゴのほか、サイズも記載。

製造年は1975年前後と推定できるが、その裏付けとなるのがタグ下に貼られた別のサイズタグだ。ここにS・M・Lといった表記がされるのは、1975年前後から1980年代前期頃にかけて。サイズ表記が数字の号数だけのものも存在し、それは1970年〜1980年代初期のデサント製とされる。

1970年初期 フランス製
ハーフジップパーカータイプ
〈adidas アディダス〉のジャージ
カンガルーポケットを備えた
ジムナスティックデザイン

続いても、パーカータイプのモデルをピックアップ。ヴィヴィッドなオレンジボディが印象的で、レトロポップな空気を充満させる。その味わい深さをもう一段引き上げるのが、胸元にあしらわれたハーフジップデザインだ。

1970年初期のハーフジップパーカータイプ フランス製〈adidas アディダス〉のジャージ_01

鮮やかなオレンジカラーとネイビーが好相性。フランス製のハーフジップタイプ。

ジムナスティックでいてリラックスした雰囲気も併せ持つハーフジップは、昨今のアパレル業界でも注目されるディテールのひとつ。その点で今作はヴィンテージながらモダンなウェアとも合わせやすく、利便性の高い1着と言えよう。袖や裾にリブがないすっきりとした表情も、着回しやすさに拍車をかける。

1970年初期のハーフジップパーカータイプ フランス製〈adidas アディダス〉のジャージ_02_タグ

フランスメイドを記す青地のタグから察するに、1970年代初期のアイテムか

1970年初期のハーフジップパーカータイプ フランス製〈adidas アディダス〉のジャージ_03_フードとハーフジップ

やや高めのトレフォイルの位置が、無性に気分を高揚させる。

三つ葉が独立したヴィンテージならではのトレフォイルロゴ、セットインスリーブの両袖にあしられたスリーストライプストといった、安定感のあるデザインは健在だ。一方で、フロント下部にはジップポケットではなくカンガルーポケットを装備。これだけでジャージではなくスウェットパーカと呼びたくなるから不思議である。

1970年初期のハーフジップパーカータイプ フランス製〈adidas アディダス〉のジャージ_04_カンガルーポケット

スウェットライクなカンガルーポケット。左右に大きく離れた仕様がキュートだ。

背タグはブルー地に白文字を抜いたもので、1970年代のフランス製に多く見られるデザイン。こちらも御多分に洩れず、「MADE IN FRANCE」と明記される。ロゴの下にはレジスターマークが入り、タグ中央部には「CREATION VENTEX」の文字も。フランス・トロワに本拠地を置いた化学繊維の開発・製造会社〈VENTEX ベンテックス〉の生地を使用した証拠だ。

1975年前後 デサント製
〈adidas アディダス〉の
ジャージセットアップ
配色とシルエットで異彩を放つ
貴重なデッドストック

本来の用途を考えれば、ジャージは上下揃えての着用こそが正義なのかもしれない。思い返せばビースティ・ボーイズのファンクなパフォーマンスも、アディダスのセットアップとともにあった。では、そんな“原理主義者”に響く逸品をご紹介しよう。

1975年前後のデサント製 〈adidas アディダス〉のジャージセットアップ_01

1975年前後に作られたデサント製のセットアップは、デッドストックの激レアアイテム。

シックなグレー地に、どこかアンニュイなサックスブルーをプラス。明るい色が多いヴィンテージジャージにあって、控えめな配色が文字通りの異色を放っている。しかも、生産当時のタグが付いたデッドストック。市場には滅多に出回らない、早い者勝ちのお宝だ。

1975年前後のデサント製 〈adidas アディダス〉のジャージセットアップ_02_トップス

1975年前後のデサント製 〈adidas アディダス〉のジャージセットアップ_03_ボトム

グレー&ブルーの配色だけでなく、洗練されたシルエットもモダンな佇まい。

デザインの鋭さも、“買い”の背中を押す。特徴的な両肩から裾にかけての切り替えは言うに及ばず、襟の左側先端のスリーストライプスがなんともセンスフル。ボトムスはセンタープレスを入れた綺麗なフレアシルエットで、持ち出しの付いたウエストがスラックス的気品を感じさせる。

1975年前後のデサント製 〈adidas アディダス〉のジャージセットアップ_04_タグ

左襟の先端にのみスリーストライプスを施す。背タグはデサント製を証明。

1975年前後のデサント製 〈adidas アディダス〉のジャージセットアップ_05_ポケット

トレフォイルは胸元ではなく左身頃の下部に。ジップポケットは八の字型。

小振りなトレフォイルロゴがフロント左下を飾り、ボディと同系色であしらわれた八の字型のジップ付きポケットとスポーティに調和した。デサント製と記された背タグ、デッドストックを証明する紙タグから察するに1975年前後のプロダクトとも思われるが、当時からアーバンスポーツを匂わすとはさすがアディダス。

1975年前後のデサント製 〈adidas アディダス〉のジャージセットアップ_06_デットストックタグ

デッドストックを証明する、生産当時の日焼けしたタグ。

なお紙タグには「ADA-09WF」と書かれ、「W」の表記とLサイズにしては小さ目であることから、おそらく女性用のモデルと推測できる。

1970年代後期 フランス製
プルオーバータイプの
〈adidas アディダス〉のジャージ
ユニークなバックプリントに妄想も捗る

次に取り上げるのは、コレクターにはたまらないバックプリントが施されたジャージだ。バスを擬人化したであろうイラストとともに赤いフロッキープリントで記されたのは、「A.S.TRANSPORTS URBAINS ANGERS」の文字。「TRANSPORTS URBAIN」は都市交通機関、「ANGERS」はフランス西部に位置する都市の名前である。

1970年代後期プルオーバータイプの フランス製〈adidas アディダス〉のジャージ_01

1970年代後期プルオーバータイプの フランス製〈adidas アディダス〉のジャージ_02_バックプリント

ダイナミックな配色と、背面のフロッキープリント。ジャージ=ユニフォームだと再認識させる。

以上のことから想像するに、本作は当地の交通会社スタッフが着たユニフォーム的存在だった? それともファンアイテム? そんな妄想が広がるのも、ヴィンテージジャージの大きな魅力だ。

1970年代後期プルオーバータイプの フランス製〈adidas アディダス〉のジャージ_03_プリントヨリ

イラストや文字から背景を読み解く。そんな楽しみもヴィンテージならでは。

しかもこちらは、フロントのルックスにも個性が宿る。リブ付きのショールカラーから連なる胸元のデザインは、スナップ式の2つボタン。アウトドアウェアに多く見られるような、プルオーバータイプのジャージなのだ。

1970年代後期プルオーバータイプの フランス製〈adidas アディダス〉のジャージ_プルオーバー

胸元に2つのスナップボタンが付くプルオーバーデザインも個性派の一因に。

配色は力強く、シックなブラックボディでありながら赤いラインで視認性を高めているのもポイント。交通安全を鑑みたユニフォームとしても合格点が与えられるだろう。左胸にはトレフォイルとブランドロゴを、肩口にはスリーストライプスを配置。変わり種のデザインの中にも、王道の風格を確かに感じさせる。

1970年代後期プルオーバータイプの フランス製〈adidas アディダス〉のジャージ_05_背タグ

ブランドタグの脇には、フランス・ドイツ・イギリス・イタリア各国でのサイズを示すタグも。

製造年は1970年代後半と思われるが、その確証となるのはやはり背タグの仕様だ。白地にブルーの文字が入れられたそれは、1970年代後期から1980年代に使われていたもの。メイド・イン・フランスと記され「VENTEX」の記載もあるが、先に紹介したハーフジップジャージのような「CREATION VENTEX」ではなく、「PRODUCTION VENTEX」へと表記が変更されている。

1980年代 デサント製
〈adidas アディダス〉の
ウインドブレーカー
再評価が待ち遠しい“兄弟版ジャージ”

大定番たるアイテムにおける、ひと癖ある変化球モデル。やや天邪鬼的視点で傑作をチョイスした本稿を、さらなる個性派で締めくくりたい。というのも、実のところラストバッターはジャージにあらず。’80年代に少年時代を過ごした読者であれば思わず声を上げたくなるウィンドブレーカーだ。

1980年代 〈adidas アディダス〉のウインドブレーカー_01

元祖・機能派スポーツウェアともいうべきウインドブレーカーも、買い物リストに加えてほしい。

懐かしき“シャカシャカ”、まずはウインドブレーカーの定義からおさらいしよう。直訳すれば防風衣となるそれは、どうやら元はアメリカの商標名だったものが一般名に転じてしまったらしい。ゴルフや野球のプレーヤーが着用した服が元祖とされ、袖口や裾をシャーリングしたブルゾンタイプのデザインを基調とする。

1980年代 〈adidas アディダス〉のウインドブレーカー_02_フード

首回りのジップ内にフードを内蔵。着こなしの自由が、スタイルの幅を広げる。

閑話休題。ナイロン製のこちらはまさに、王道のウインドブレーカーである。ネイビーにホワイトの配色は、“部活感”をも感じさせるノスタルジックな面持ち。スタンドカラーのジップを開けばフードが飛び出すギミックも、今なお少年心をくすぐる。

1980年代 〈adidas アディダス〉のウインドブレーカー_03_ロゴ

トレフォイルとスリーストライプスは抜かりなく。ネイビー地にホワイトのあしらいが、絶妙な抜け感を生む。

1980年代 〈adidas アディダス〉のウインドブレーカー_04_タグ

ロゴとトレフォイルが記された三角タグ。デサント製であることも記載される。

ただし、そのレトロデザインは正しく再評価されてしかるべきだろう。昭和ブームを経た現在であればなおさら。左上腕部のスリーストライプス、胸元のトレフォイルやジップパーツのホワイトが抜け感として機能する点でも調子がいい。襟元の三角タグからデサントが生産したと判断されるが、ハイクォリティな縫製は日本製のメリット。こちらも評価上昇の理由になり得そうだが、果たして……。

〈adidas アディダス〉のジャージ_コラージュ

以上、前後編合わせて13着に及ぶアディダスのジャージを紐解いた。そこには他のヴィンテージ同様、タグや仕様から時代性を読み解く面白さ、貴重なアイテムをディグる達成感などの不可価値が確かに根付いている。

それでも、本質は別にある気がしてならない。コンフォータブルな着用感とクールなデザイン。着て、見て、ダイレクトに生じた初期衝動こそ、ジャージの魅力の原点ではないだろうか。幸い、ジャージの着こなしを“部屋着”と揶揄する声はだいぶ少なくなった。同じくトラックスーツを纏ったクンフーマスターの言葉を借りれば、「考えるな、感じろ」といったところか。

(→【スタンダードモデル編】は、こちら)

ONLINE STORE
掲載商品は、代表的な商品例です。入れ違いにより販売が終了している場合があります。