リーバイス、リー、カーハート、グラミチ…… タイプ別で知る、ヘビーデューティーな定番ボトムス【前編】
【前編】となる今回は、ヘビーデューティーの代表格たるワーク由来のパンツを、タイプ別でご覧いただく。「今さら説明されるまでもない」なんて声も聞こえてきそうだが、そこは雨降り続きで外出も叶わない、そんな梅雨の間のお慰みということで、しばらくのお付き合いをば。
ジーンズに代表される
永久不変のデイリーボトムス
「5ポケットパンツ」。
まずは人生において、所有したことも履いたこともないという人物を探すことが困難と思われるほど、我々の生活の中に溶け込んでいる「5ポケットパンツ」から話を始めよう。その名の通り、フロント・バックに4つ、右フロントポケット上部にコインポケットを1つと、計5つのポケットを備えており、諸君もご存知のジーンズもここにカテゴライズされる。ちなみにコインポケットは、フォブポケットやウォッチポケットとも呼ばれ、懐中時計を収納していたということに由来。これらの事実は、その歴史が一朝一夕のものではないということを示している。
そんなジーンズのオリジンといえば、泣く子も黙る〈LEVI’S リーバイス〉に他ならない。世界で一番歴史があり、世界で一番有名なこのジーンズブランドの起点は、19世紀中頃の1853年にまで遡る。創業者のリーバイ・ストラウスが、1873年に衣料品のポケットを金属リベットで補強する方法の特許を取得。この技術を使い開発された作業用のワークパンツこそが、のちに世界中のジーンズアディクトたちを虜にする名作「501」。控えめに言って、今日までに誕生したすべてのジーンズのルーツといっても過言ではない。
ちなみに、よく言われるGパンは、ジーンズを指す和製語。Gパンの名付け親とされる人物の説によれば、第二次大戦後、日本に進駐してきたGI(アメリカ軍兵士の俗称)たちが、休日になるとよくブルージーンズを穿いていたところから、GIのパンツを略してこの名が生まれたという。この他にもジーン生地のパンツの略など諸説あるが、実際我が国でしか使われていない呼称なので、どれでもよいというのが正直なところ。なにはともあれ、作業着であるワークパンツをファッションアイテムとして普及させた功績はあまりにも大きい。

〈LEVI’S VINTAGE CLOTHING リーバイス ヴィンテージ クロージング〉の「1966MODEL 1996モデル」
今回は、ヴィンテージを忠実に復刻する〈LEVI ’S VINTAGE CLOTHING リーバイス ヴィンテージ クロージング〉シリーズから、作業着であったジーンズが若者達の間でファッションとして浸透していった1960年代に誕生し、その美しい造形から歴代「501」のなかでも最高傑作と賞される「1966MODEL 1996モデル」を用意した。1966年〜1971年までの5年間でしか存在しない、希少な「バータック」と「ビッグE」の組み合わせも完璧に再現するなど、ディテールひとつとっても、ワークウェアが時代に合わせて進化していく道程が見て取れる。

ヴィンテージもかくやという美しい縦落ち、そして股間付近のヒゲが生むコントラスト。この一角だけでジーンズの醍醐味が凝縮されている。

背面のヨークがヒップのフィット感を決定づけると同時に、ジーンズらしい表情を生む。バックポケットのステッチからは製造年代が読み取れる。
当時の粗野なデニムの風合いを、日本を代表するデニムメーカーであるカイハラ社の技術力でリアルに再現。綿糸本来の凹凸が残り、着込むことで増していく独特の風合いはデニムを育てる楽しみに気付かせてくれる。5ポケットパンツの何よりの魅力は、コーディネートへの汎用性の高さにある。たとえばジ―ンズだとしたら、リジットをキレイめに穿くも良し、愛着をエイジングとして刻むも良し。着用者のライフスタイルに合わせて、自由に楽しめる1本といえよう。
タフネスと機能性で
ワーカーを支える頼れる相棒
「ペインターパンツ」。
圧倒的存在感を放つジーンズがワークパンツ界のヒーロー(主役)だとすれば、タフネスと機能性に秀でた「ペインターパンツ」は、ワーカーたちを支える頼もしきサイドキック(相棒)。基本は動きやすさを考慮したワイドなストレートシルエット。そこにスパナポケットやハンマーループ、スケール(定規)ポケットなど、いわゆる大工の七つ道具を収納するポケットが配置されている。なぜか日本ではペインター(ペンキ屋)パンツとして親しまれているが、どちらかといえば、カーペンタ―(大工)パンツと呼ぶ方がしっくりくる佇まい(実際、海外でペインターパンツといえば、胸当て付きのオーバーオールをイメージする場合が多い)。
市場ではインディゴデニムをよく見かけるが、ペインターパンツをはじめとした、ワークウェアで頻用される「HICKORY STRIPE ヒッコリーストライプ」生地についても知っておきたい。誕生は1927年、アメリカ・カンザスを本拠地とする〈H.D.Lee Company H.D.リー カンパニー〉でのこと。同社の創業者はヘンリー・デヴィッド・リー。そう、先述したリーバイスや〈Wrangler ラングラー〉とともに、3大ジーンズブランドとして名を馳せる、のちの〈Lee リー〉である。

〈Lee リー〉の「PAINTER PANTS ペインターパンツ」

腰周りは運動性を考慮してゆったりめ。モモ部分の両サイドにそれぞれ、「ハンマーループ(左)」と「スケールポケット(右)」を備えている。

正式名称は「ヒッコリーストライプデニム」 。デニムの名が付くだけあって、耐久性に関しても文句なし。
もともとは、当時の主要な輸送インフラだった鉄道の作業員のために考案されたというこの生地。過酷な現場で洗濯もせずに毎日着倒して、ボロボロになったら捨てる。当時はデニムがまさに消耗品だった時代。そんななかにあって、ヒッコリーストライプは目の錯覚で汚れが目立たなくなるという理由から重宝された。また、この青と白のコンビネーションが、熱気のこもった蒸気機関車のキャビン内で働く鉄道作業員たちに、一服の視覚的清涼感を与える効果があったとも。そう考えれば、今や新常識となったサステイナブルの先駆けであったと言えなくもない。
その後、よりタフネスを極めたペインターパンツが、アメリカ随一の工業都市として知られるミシガン州・デトロイト発祥のワークウェアブランド〈carharrt カーハート〉にて生み出される。その名は「DOUBLE KNEE PANTS ダブルニーパンツ」。しゃがんでヒザを床につくことが多い労働者のために、モモからスネ部分の生地を2枚仕立てにして受けるダメージを軽減。生地にも船の帆やテントに使われるダック素材を採用し、縫製も3本針ステッチを施すなど、その頑強さは折り紙付き。西部開拓時代から綿々と伝わるマッチョイズムが、随所から顔を覗かせる。

〈carharrt カーハート〉の「Double Knee Pant ダブルニーパンツ」

通常は商品価値を下げてしまうペンキなどの汚れだが、雰囲気とマッチしていることもあり、リユースマーケットでは逆に喜ばれるケースも。

ステッチ部分には「ダック生地」特有のアタリが。通称「Cロゴ」と呼ばれるシンボルは、ギリシャ神話の主神ゼウスに乳を与えたヤギの角「コーヌコピア」がモチーフ。
手に入れた当初は、それこそヒザを折り曲げるのもやっとという固い生地も、汗にまみれて身体を動かし、洗濯を繰り返していくなかで、徐々に身体に馴染んでいく。飛び散ったペンキだって男の勲章。育てる楽しみという点ではジーンズと通ずるものがあるのでは。
ワーク生まれ、
アウトドアフィールド育ち
玄人に愛される「ブッシュパンツ」。
5ポケットのジーンズにない個性を演出しながら、ペインターパンツとはひと味違ったワークテイストを求めるなら、「BUSH PANTSブッシュパンツ」も見逃せない。最大の特徴はフロントビュー。ベルトループと一体化するように貼り付けられた大型のLポケットの上に、さらにフラップ&ボタンダウンポケットを装備。その名の通り、ブッシュ=未開地、茂み、藪という過酷なシチュエーションでの使用が想定されているため、素材は厚手のデニムやコーデュロイが基本。ゆえに「トレイルパンツ」とも呼ばれ、歴史に登場した1970年代頃から今日まで、アウトドアフィールドにおいても活躍。ワークウェアが機能性を求めて進化し続けるなかにあって、当時と変わらぬ姿は、古き良きアメカジファンからレトロアウトドアファンまで、マニアックな玄人を中心に支持されている。ここでは、リーバイス ヴィンテージ クロージングからリリースされた1970年の復刻モデルをチョイス。その細部をご覧いただこう。

〈LEVI’S VINTAGE CLOTHING リーバイス ヴィンテージ クロージング〉の「BUSH PANTS ブッシュパンツ」

L字型のフロントポケットの上に、「フラップ・アンド・ボタンダウン・ポケット」が貼り付けとなっているのが、最大の特徴

70年代ムードを加速させる「BIG E仕様のオレンジタブ」も、もちろん再現。スナップボタンがあしらわれたフラップポケットはマチがないので、すっきりしたヒップ周りを演出する。
インディゴブルーのデニム生地はしっかりとした厚みを感じる12オンス。穿き込む程にコントラストの効いた縦落ちが姿を現す。先述したようにポケット周りのデザインは特徴的だが、股上浅め&細身のストレートカットはクセがなく合わせやすい。定番とはいえ、周囲と若干の差を付けたい、そんな願いにも応えてくれる。
命知らずのクライマーが、
経験を活かして生み出した
「クライミングパンツ」。
【前編】のラストは、先ほどのブッシュパンツよりもう一歩、アウトドアフィールドに踏み出し、「クライミングパンツ」をピックアップ。こちらはワーク由来ではないものの“必要は発明の母”的に生まれ、いまや定番となっているという点で、根底に流れるスピリッツは変わらない。用途は言わずもがな登山用。以前〈THE NORTH FACE ザ・ノース・フェイス〉を取り挙げた際にも触れたが、アメリカでは1970年代半ばから、アウトドア・アクティビティ&エキップメントにおける転換期を迎える。クライマーたちが穿くボトムスもまた然り。それまでの主流だったツィード生地のニッカポッカーズから、ナイロンパンツやジーンズに穿き替える人々が増加。ただこれらには肝心の機動性が伴わず、さらに耐久性も低いなどの問題点が噴出。
(→〈THE NORTH FACE〉に関する記事はこちら〉
そんななかで、伝説的クライマー集団「THE STONE MASTERS」のメンバーだったマイク・グラハムが問題解決に乗り出す。すでにテントやスリーピングバッグなど画期的なクライミングギアを次々と開発していた彼は、自身の経験を生かしたボトムスを開発し始めたのだ。こうして1982年、カリフォルニアの小さなガレージで〈GRAMICCI グラミチ〉のクライミングパンツが産声を上げたのである。不思議な響きのブランド名は、創設者であるマイク・グラハムのニックネームから。
彼のブランドは瞬く間にマーケットで成功を収め、命がけのスポーツがゆえの機能を追求したデザインは、数多くの後発ブランドが倣うこととなり、今ではジーンズにおける「501」的オリジンとして認知されている。ここからはブランドのルーツである機能性を残しつつ、現代のライフスタイルに合わせて進化した「NN-PANTS JUST CUT NN-パンツ ジャストカット」をサンプルに、その特徴的なディテールに寄っていく。

〈GRAMICCI グラミチ〉の「NN-PANTS JUST CUT NN-パンツ ジャストカット」
まずは股下に備えた「ガゼットクロッチ」。これは180度開脚でクライミング時の脚の動きをサポートする同社ボトムスの要。裾にかけて細くなる「テーパードシルエット」は、岸壁での極限状態での視界を確保するのに有用。

180開脚を可能とした股下部分の「ガゼットクロッチ」は同ブランドのアイコン。足の可動域を広げ、自由な動きをサポートする。
片手で調整可能な「ウェビングベルト」は脱ぎ着をイージーに。これらの画期的ディテール群を継承しつつ、本作ではストレッチの効いた細身のフォルムを採用し、今の気分にもアジャスト。常に高みを目指してアップデートし続ける姿勢には、創設者であるマイクのクライマー精神が色濃く感じられる。

こちらもグラミチの代名詞である「ウェビングベルト」。片手でウエストを調節できるというクライミング中に有効なギミック
その後、彼は自身と周囲との間にクリエイティブのギャップに悩みぬいた末、ブランドから離脱し、2000年に新ブランド〈ROKX ロックス〉を創設。極限状況での最高の着心地と快適性の実現をコンセプトに、クライミングをバックグラウンドとしたクロージングを展開し、こちらもシーンを牽引する存在として名を馳せている。興味があれば、両方を穿き比べてみても面白い。

〈ROKX ロックス〉の「CLASSIC ROKX PANT クラシック ロックス パンツ」

〈ROKX〉というブランド名は「ROCK(岩)」と「EXTREME ACTIVITIES(クライミング)」を合わせた造語から。
今回はアメリカ大陸を西から東、また西へ。ワークとアウトドアの4タイプをフィーチャー。それぞれの歴史を紐解いていくなかで、再発見した先達たちの知恵や工夫。それらが用途や目的と合致することで、いつの時代にも色褪せることのないクラシックが生み出されてきたということが、改めてご理解いただけたのではなかろうか。
続く【後編】では、目的を遂行するために生み出されたジャンルの最たるものにして、メンズファッションの永遠の定番・ミリタリー由来の“軍パン”をピックアップ。さて、まだ当分は梅雨空晴れて、夏来たるとはいかなそう。今回紹介した定番ボトムスでどんなコーディネートを楽しもうか。そんな想像を膨らませつつ、もうしばしのお付き合いを……。