FASHION

〈カーハート〉が体現する男の世界。〜過ぎたるタフネスに愛を込めて〜。

残暑はいまだ続くも、朝晩の涼しさに感じる秋の深まり。ムクムクと鎌首をもたげる洒落ゴコロに従い、「ここは1つ、アウターでも手に入れようじゃないか」なんて周囲を見渡せど、街行く人々が羽織るのはどれも小奇麗で洗練されたものばかり。長きに渡るコロナ禍を経て、1に着心地、2に万能性。これぞ令和のニューノームか。無論ノーとは言わないが、ある種の無個性化に「本当にそれでいいのか?」と浮かぶ疑問符。かといって、デコラティブな装飾が個性的かと問われればそうは思わない。我々が求めるのは、あくまでも機能性に裏付けされたプロダクトデザインの妙。ただそれだけなのだから。

さて、そこまで分かってしまえば、答えは簡単明瞭。この秋、我々が相棒とすべきは、機能性の集合知にして体現者たる「ワークウェア」しかない。しかもどうせ選ぶならばホンモノを。それが“働く男の現場”では、いまだ現役として君臨し続ける王者 〈Carhartt カーハート〉ならば間違いない。いざ踏み出そう、タフな秋の装いへの第一歩を。

わずか4台のミシンと5人の従業員から、
すべては始まった。

ワークウェア界の王者の歩みは、1882 年から始まる。この年、ニューヨーク生まれの創業者のハミルトン・カーハートが、最初のビジネスである衣料品の卸売業をスタート。2 年後の1884 年には、さらに業務を拡大化し、家具や手袋などの卸業会社〈ハミルトン・カーハート&カンパニー〉をミシガン州デトロイトに設立。輸送・造船・製造業が年々成長を遂げていくこの街に商機を見出したカーハートの「労働者向けのワークウェアを製造する」という強い決意は、1889 年〈ハミルトン・カーハート・ マニュファクチュア〉設立により結実する。わずか 4 台のミシンと 5 人の従業員、ここからすべては始まった。

ワークウェアの生産業が本格的に始動すると、最初のプロダクトとして丈夫なダック地とデニムで作られたオーバーオールが誕生する。ボディに擦れや破れに強い丈夫な素材を使用し、クオリティにも自信あり。しかも街には労働者の数が増加していた… のにも関わらず、これが売れず飛ばずビジネスは難航。 そこでカーハートは一計を案じる。徹底的に製品づくりを見直すとともに、同地の労働者人口の多数を占めていた鉄道員たちのリクエストを取り入れることにしたのだ。

かくして完成したのが、デニムや 12 オンスのコットンキャンバス素材により、優れた耐久性と極上の着心地を併せ持ち、さらにはツールポケットやハンマーループまで備えた新型オーバーオール。これが狙い通り鉄道員たちに拍手を持って迎え入れられ、ヒットを記録。以降、労働者たちのニーズを満たす耐久性と機能性を備えたカーハートのプロダクトは、アメリカを代表するワークウェアの象徴となっていった。

「CHORE COAT チョアコート」
誕生は約1世紀前、
ブランドを象徴する傑作カバーオール。

1920 年代も半ばになると、同社はオーバーオールを筆頭に、シャツやパンツ、シューズにハンティングウェアに至るまで多様なワークウェアを展開するように。中でも白眉の出来だったのが、ブラウンのダックキャンバス地を使用したカバーオール。これがブランドのアイコンとして、1 世紀近く経った現在もなおファンに愛され続ける傑作「CHORE COAT チョアコート」である。カーハートの名を知る者ならば、まずはコレを真っ先に思い浮べるのではなかろうか。

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誕生から 1 世紀近く経てなお、愛され続けるアイコンといえば「CHORE COAT チョアコート」。

その原点は、カリフォルニア・ゴールドラッシュの時代に誕生した作業着にまで遡る。ここ日本では一般的にカバーオールと呼称されているが、アメリカでは鉄道員たちがよく着ていたことに由来する「レイルローダージャケット」の方が通りも良い。彼らのためのウェア開発を契機に成長を遂げたカーハートにとっても、象徴的プロダクトといえよう。

…なんて大仰に書くも、デザイン自体は 4 ポケット&ボタンフロントと至ってシンプル。そこに 12 オンスのヘビーコットンダック生地の重厚感のある佇まいが、無二の存在感を演出する。また、肌馴染みの良いコーデュロイ素材で切り替えられた襟は、 優れた耐久性と汚れが付着しにくいという W のメリットが。ついでに、貴重品を紛失から守ってくれる右胸のフラップポケットもありがたい。

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コーデュロイとダックキャンバスの武骨なコンビネーションに、機能的なフラップポケットとロゴがアクセントを添える。

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随所に打たれたリベットが、このプロダクトがいかにタフかを視覚的に伝える。

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運動性を高める背面のアクションプリーツと、優れた耐久性の象徴であるトリプルステッチ。

使用により負荷の掛かりやすいポケットの上部や、袖先に施された補強用リベット、さらに堅牢なトリプルステッチの縫製もまた、その優れた耐久性を視覚的に伝える。加えて背面に、腕の稼動範囲を広げるアクションプリーツがあしらわれ、運動性に考慮されている点も見逃せない。

残念ながら写真はないが、一般的な仕様では裏地にブランケット生地を用いているのに対し、ここで紹介するモデルは希少なダック地の 1 枚張りタイプ。ゆえにインナーの調整次第で、春・秋・冬と 3 シーズン着用可能とユーティリティ性も抜かりなし。 あとは新品から育ててエイジングを楽しむか、着倒されて育った1着をリユースで引き継ぐか。実に悩ましい限りである。

(→〈Carhartt〉のカバーオールに関する別の特集記事は、こちら)

「DETROIT JACKET
デトロイトジャケット」
本拠地名を冠した
名作ショートブルゾンは、
あのジョニデも愛用。

ワークウェア視点でいえば、チョアコートのように腰まで覆うミドル丈は、ポケット数を増やすのに適しているため収納力面は優勢。対してショート丈のブルゾンタイプは腰回りを軽快にすることで、機動性に軍配が上がる。このことを念頭に置いた上で、 タウンユース用に選択肢に加えておくべき 1 着が「DETROIT JACKET デトロイトジャケット」である。

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「DETROIT JACKET デトロイトジャケット」もまた定番。その名は、創業地にして本拠地のデトロイトに由来する。

フロントは着脱のし易いジップアップ仕様。左胸のジップ付きポケットと八の字型に配置されたハンドポケット以外に、これといった特色のない簡素なルックスは、ワークウェアとして不要なデザイン性を排した結果であろう。細部をチェックすると、首元を汗や汚れから守るコーデュロイの襟、ボディに使われた 12 オンスのヘビーコットンダック生地といったチョアコートとの 共通点も見受けられる。

逆に異なる部分を挙げるならば、背面ウエスト部にあしらわれたスナップボタン式アジャスターもその1つ。サイズ調整幅が狭いため、どちらかといえば隙間から侵入する外気を防ぐ意味合いの方が強い。だからか現行品ではこのディテールが廃止され、 裾部分も背面の長いドロップテールに変更されている。野暮ったさの残るボックス型も捨てがたいが、昨今のライフスタイルには現行デザインの方がマッチするのだろう。

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必要最低限にして無駄なきシンプルなフロントデザインこそ、ワークウェアの本懐。

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ウエスト部には、サイズ調整用のアジャスターが。現行モデルではオミットされたディテールの1つ。

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ボディの裏を返すと、暖かなフランケット生地のライニングが顔を出す。

トリプルステッチなどの基本スペックは健在。デザインはシンプルで、永く愛用できる逸品と言い切って差し支えないだろう。 ブランケット生地が貼られたライニングは粗雑ながらも暖かく身体を包み込み、その防寒性の高さも特記に値する。右胸に入った企業ロゴの刺繍は古着ゆえの楽しみ。また同時にリアルワーカーに愛されたプロダクトであるという証明ともなっている。

ちなみに本モデルは、ハリウッド俳優でヴィンテージ・アメカジラバーとしても知られるジョニー・デップが着用したことでも有名だ。しっかり着込まれたデトロイトジャケットを、あえてのオーバーサイズで無造作に羽織る。その姿のクールさたるや、 彼のファンならずとも思わずマネしたくなること請け合い。

「SANTA FE JACKET
サンタフェジャケット」
簡素化と装飾性、
相反するデザイン思想を
1つにまとめて。

ショート丈モデルの名作はまだまだ続く。続いては、アメリカ合衆国・ニューメキシコ州の州都であるサンタフェの名を冠した、 その名もズバリ「SANTA FE JACKET サンタフェジャケット」。同地は豊かな歴史と伝統を誇り、旅好きには“芸術と癒しの街” として知られるのだが、40 代以上の KBM 読者諸氏には、かの伝説的写真集のタイトルとしての方がお馴染みか。

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合わせやすいショート型&デザイン性の高さから、人気の「SANTA FE JACKET サンタフェジャケット」。

ボディはヌード…、いや日焼けした肌色にも近いブラウンダック生地を採用。襟部分は、もはや当然となったコ―デュロイ素材の切り替え。その理由は再三触れたので、ここでは割愛。デトロイトジャケットにあったフロント胸ポケットが省略され、収納に関しては防寒を兼ねたハンドウォーマーのみとストイックな姿勢。袖口とボディ裾のリブはデザイン的アクセントだけでな く、風の侵入を防ぐことで防寒性も発揮する。ついでにシンプルな味わいを引き立たすべく、アーチを描くウェスタンヨークで 装飾性という名のスパイスもひと振り。もちろんトリプルステッチ本来の補強という目的も忘れてはいない。

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現在では装飾的意味合いの強いウェスタンヨークだが、本作では“肩部分の補強”という本来の意味合いが色濃い。

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お馴染みのブランドロゴは、胸元ではなくフロント裾に。さりげなくも主張する好ディテールである。

また、他のモデルでは胸元にあるブランドタグをフロント裾に置いた点も特徴的だ。通称「C ロゴ」と呼ばれるこのロゴは、1969 年に誕生。ギリシャ神話で主神ゼウスに乳を与えたヤギの角を意匠化した、豊かさを表すシンボル「コーヌコピア(豊穣の角)」 がモチーフだという。かようにコンパクトで着回しやすい名作アウターながら、他モデルに比べてリユースマーケットでの遭遇率は低め。運良く出会えたなら、即ワードロープに加える算段を。

「ACTIVE JACKET
アクティブジャケット」
アクティブを冠するも、
それ以上にタフさ際立つパーカタイプ。

本来ならば機能性を第一に考えるワークウェアに、ファッション性を求めるのは無理筋というもの。だからこそ、カジュアルさとスポーティーさをバランス良く備えたパーカタイプの有用性は高い。ここで紹介する「ACTIVE JACKET アクティブジャケット」はその代表格だ。定番のブラウンやブラックの他に、写真のような鮮やかなレッドもあり、ただのワークウェアの枠には収まらない懐の深さを感じさせる。しかも生地は、お約束の 12 オンスのヘビーコットンダック。

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真っ赤なダック生地が、見る者に強烈なインパクトを与える「ACTIVE JACKET アクティブジャケット」。

重厚感のあるブラスジップのフロントに、左右で分割されたカンガルーポケット。袖と裾はリブ仕様で防寒性も十分。ボディカラーに対して挿し色効果を発揮し、デザイン性を高める一助ともなっている。全体を通すとカジュアル志向だが、その反面、重厚なトリプルステッチも健在。カジュアルなルックスとタフな作りが生み出す、これぞマッチングの妙。ちなみに春夏仕様で裏地がサーマルやメッシュタイプのものと、裏地が中綿入りフランネルキルティングの秋冬仕様のものが存在しており、こちらは前者にあたる。

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左右に分割されたカンガルーポケットと、真っ赤なボディを引き締めるブラックのリブの対比が美しい。

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カジュアルなアイテムにも、しっかりトリプルステッチ。ヒップホップ的なマッチョズムをも体現する。

80 年代から徐々にストリートへ勢力図を広げていったカーハート。90 年代に突入すると、ワーク由来のタフさが、当時のヒップホップ的美学であるマッチョズムと合致。2PAC など数多くのアーティストが着用し、ストリートのユニフォームとしての地位を確立していく。本作もまた然り。近年、ラッパー/音楽プロデューサーで、稀代のファッションインフルエンサーとしてシーンを牽引し続けるイェ(ex カニエ・ウェスト)が絶妙なサイジングで着こなし、その新たな魅力を提示したことで更なる人気を呼んだ。

「DUCK VEST ダックベスト」
動きやすくて暖かい。
それがイイ、いやそれだけでイイ。

寒風吹きさらす野外での作業に従事するワークマンらにとって、秋冬のウェア選びの要になるのが“運動性と防寒性の両立”。この課題を 1 着で叶えてくれるのが、袖部分をチョップしたベストタイプ。ここでご覧いただく「DUCK VEST ダックベスト」 もまた、傑作として名高い 1 着だ。モデル名が大方の予想通り、表地に使われた 12 オンスのダック地に由来するのだから、直球を通り越して愚直とさえ言える。

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“運動性と防寒性の両立”という働く人々の要望を1着で叶えるのが「DUCK VEST ダックベスト」。

だがその愚直さも、転ずれば質実剛健の証となる。中綿の詰まったダイヤモンドキルトライニングの裏地による保温性は、冬アウターとして十分に機能するレベル。また前面より背面の裾の方が長いドロップテール仕様により、身体をかがめた際にも腰部分が露出せず、体温の流失を防止。首回りのリブニットでフィット感を高め、さらにフロントジップ下のウインドフラップで風の進入をシャットアウト。アクティブジャケットと同型のカンガルーポケットも利便性・収納性が高く、裏地にはしっかりキルトまで。大振りかつ縦長なので、スマホや鍵などの日常必需品をサッと出し入れするのにも適している。

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フィット感に優れたリブ仕様の首回り。下にタートルネックのニットやフーディーを重ねるなど、レイヤリングもしやすい。

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レザーのパッチタグが配された大振りなポケット。使いやすさも考慮された縦長形状にユーザビリティの高さを見る。

ベストというアイテムの特性上、T シャツ、スウェット、ニットと、季節に合わせてインナーを変えていけば 3 シーズン着用可 能。ただ難しいのがサイズ選びだ。小さすぎるとレイヤードの幅が狭まり、運動性も阻害される。逆に大きすぎると、上半身がボックス型シルエットになってしまい野暮ったい。なので、正解はジャスト〜やや大きめということでよろしいか。ちなみにハリウッド俳優のジェイク・ギレンホールもダックベストの愛用者だそう。本モデルを着て街を闊歩する姿がたびたび目撃されている。その汎用性の高さは“カメレオン俳優”のお墨付きというわけだ。

「TRADITIONAL COAT
トラディショナルコート」
独特な形状のフロントポケットに見る、
ワークウェアの矜恃。

アウターの最後は、再びミドル丈モデルで締めさせていただく。モデル名にトラディショナル=伝統的とあるだけに、パッと見でカーハートと分かる定番ディテールが一堂に会する。12 オンスのヘビーなコットンダックのボディは、身頃から袖先まで保温性の高いキルティングライナー張り。恒例のコーデュロイ襟に、上下に計 4 つを配置したフロントポケット。こちらは、グローブを着用したまま使っても不便がないよう大きめの作りで、寒冷地や野外での使用を想定したものであるということが一目瞭然だ。

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程よいミドル丈で、大人の着こなしにも取り入れやすい「TRADITIONAL COAT トラディショナルコート」。

最大の特徴である上下連結式のフロントポケットについて、もう少し言及しておこう。上部は面ファスナーのフラップが付き、 下部は1枚パネルの大容量タイプ。さらに両方のアウトラインを繋げることで、機能面とデザイン性を兼ね備えながら用途ごとの使い分けにも応じる。だが、収納部分はこれだけにあらず。内側の左右にもポケットがあり、ともに面ファスナーとジップで中身をしっかりガード。考え抜かれた機能性と見た目以上の使い勝手の良さに、我々はワークウェアとしての矜持を見る。

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フロントの 4 つのポケット、袖口のリブ、ヒジにもプリーツと、さり気なくも気の利いたディテールがそこかしこに。

フロントは上下から開閉できる2way ジッパーを採用し、冬場の体温調整とインナーへのアクセスを容易に。袖口にはニットリブが備え付けられ、外気が入り込むのを防いでくれる。こう聞くと防寒性に特化したプロダクトと思われがちだが、チョアコートと同様に背面肩部分にはアクションプリーツ、肘部分にも小さなプリーツが施されており、タフな素材でもスムーズに動ける よう運動性も確保済み。街着としてトゥーマッチにならない程度の防寒性を備えた1着をお探しならば、これ以上なく適任かと。

「DOUBLE FRONT
WORK DUNGAREE
ダブルフロントワークダンガリー」
デニム素材のダブルニー、
男心をくすぐる機能派意匠を満載。

ここからは2連続で、カーハートが世に送り出した傑作ボトムスにスポットを当てていく。まずは「ダブルニー」の通称でも知られるこちらから。以前、当マガジンでも定番のダック地タイプを紹介したが、今回用意したのはややマイナーなデニム地タイプ。ともにワーク由来の生地であるという点に差異はなく、その武骨な表情は変わらない。むしろ 15 オンスのヘビーウェイトさにより、素材本来のタフな雰囲気をさらに強めているという捉え方もできる。

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「DOUBLE FRONT WORK DUNGAREE ダブルフロントワークダンガリ―」。定番のダブルニーも素材が変われば、また違った趣きが楽しめる というグッドサンプル。

最大の見所は、しゃがんでヒザを床につくことが多い労働者のために、ダメージを受けやすいモモからスネ部分の生地を 2 重仕立てにしたダブルニー仕様にある。しかも負荷の掛かる部分にはリベットで補強。加えてサイドとヒップの縫製は頑強なトリプルステッチ。ここまで男心をくすぐる惹句が揃えば、タフさも折り紙付き。フロントポケットを通常のデニムパンツに比べ、手の出し入れがしやすい角度に設計する配慮ともども、カーハートらしいユーザーフレンドリー精神が随所に顔を覗かせる。

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右サイドには二重のツールポケット、左サイドにはハンマーループとツールポケットが。日常生活において使用する機会も多くないが、あれば あったで嬉しいディテールだ。

右サイドの二重ツールポケット、左サイドのハンマーループ&ツールポケットと+αのディテールは、デザインとしてではなく 実際に使用することが大前提。ゆえに日常生活においてその機能性を肌で感ずる機会は多くない、ただあればあったで心強きアクセント。最初こそ生地の厚さと固さに閉口するだろうが、穿き込むほどに馴染んでいく感覚もデニムならでは。不便さの先にある“自分だけの快適な履き心地”に辿り着くことができれば、生涯の相棒となる可能性も秘めた1本だ。

(→〈Carhartt〉の「ダブルニー」に関する別の特集記事は、こちら)

「BIB OVERALL ビブオーバーオール」
やたらと多いポケットとビブに、
夢と道具を詰め込んで。

最後は、カーハート最古のプロダクトであると同時に、ブランドの黎明期を支えたボトムス「BIBOVERALL ビブオーバーオール」 にご登場願おう。「BIB ビブ」とは、オーバーオールの特色である胸当て部分を指し、誕生初期のオーバーオールには胸当てのないタイプも存在したことから、胸当て付きのタイプの呼称となったと記録されている。また、ビブという言葉にはヨダレ掛けや前掛けという意味があるが、汚れの付着を防止するだけでなく、細々とした仕事道具を収納するためのツールポケットも兼ねる。

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黎明期からブランドを支え続けるオーバーオール。「BIB OVERALL ビブオーバーオール」はその代表作。

ここで紹介したのは、通常版とは仕様の異なるレアモデル。最大の特徴は、フロントに装着された通称「エプロンポケット」と太もも部分に加えられたパッチポケット。これによって、更に多様なツール類を収納することが可能に。また両サイドにも、先述のダブルフロントワークダンガリ―と同様に、ハンマーループとツールポケットを完備。D.I.Y.を趣味にでもしていない限り、無用の長物と思いがちだが、アウターの裾から覗くことで、スタイリングの物足りなさを解消する一手にもなる。

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太もも部分にはパッチポケットを、フロントには収納力をアップさせるエプロンポケットを増設。

ダックキャンバス地の随所に打たれた数多のリベットが、武骨さに拍車を掛ける。もはやその姿はタフネスの一言。過剰ともいえる収納力の高さから、デイリーユースにおいては“カバンいらず”とも。ここまでで取り挙げてきたアイテムたちを凌駕するギア感が、男の物欲に火を点けるも、先に述べたように遭遇率自体は限りなく低め。欲しくとも見つからない。まさに“垂涎”のアイテムとはこのこと。

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最後にこれだけは伝えておきたい。新品のカーハートの着心地は決して褒められたものではない、と。良くも悪くも、すべてがソフト&イージーになった現代において、分厚い生地も、そこに打たれたリベットも、重くて不便で時代遅れだ。無論、日常生活に使い道のない多すぎるポケットなどの機能性も然り。

だが…いや、“だからこそ良い”のだ。西部開拓時代から綿々と伝わるヘビーデューティーの精神とは、言い換えれば“無駄の継承”に他ならない。だがその無駄にこそロマンを感じるのが男である。分厚く屈強なダックキャンバス地は、ともに時を刻むうちに徐々に体に馴染んでいき、いつしか第二の皮膚となる。その時、初めて知ることとなるだろう。カーハートの魅力とはそういうモノだと。

 

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