“永遠のアメカジ”を知る 不朽の名作〈チャンピオン〉の「リバースウィーブ」とは。 【モック・目無し・USMA…珍ピオン 編】
そう歌ったのも、THE BLUE HEARTSだったか。時の流れに飲まれずにして逆らわない不朽のアメカジを前にして、我々は物欲を抑えることができない。容易くは手に入らないレアアイテムであればなおさら。いざクローゼットに加えられたなら、気分はまさに夢見心地だ。
ご存知キング・オブ・スウェット、〈Champion チャンピオン〉の「REVERSE WEAVE リバースウィーブ」。その王道モデルをタグの変遷やプリントバリエーションから紐解いた【前編】に続き、本稿では巷で“珍ピオン”と呼ばれる変わり種にフォーカスを当てる。
いわば、定番中の非定番。エターナルかつユニークな趣きを放つ快作を、両手じゃ抱えきれないほどの8バリエーションで紹介したい。
〈Champion〉
「REVERSE WEAVE」の珍ピオン①
着こなし自在で機能性抜群の
「スナップカーディガン」
では早速、とはいかないのが世の常。先を焦らず、まずはチャンピオンとリバースウィーブの歴史について軽くおさらいしておこう。
ブランドのルーツは1919年と、今から100年以上も昔に遡る。翌年にエイブ&ウィリアム・フェインブルーム兄弟が立ち上げた「チャンピオン・ニッティング・ミルズ社」は当時、ウール製の下着を中心に販売していたそうだ。
やがてアメリカ軍アカデミーやスポーツ界からご指名を受け、1924年にはミシガン大学とのビジネスがスタート。1930年にはレタリング加工が開発され、Tシャツやスウェットシャツへのプリントが可能となる。これにより、製品の“アウター化”が進んだ。
リバースウィーブの誕生は1934年。洗濯後の縮みを防ぐために通常は縦向きの織りを横向きに変更するという“目ウロコ”の発想は、控え目に言って大発明であった。事実、1938年には特許を取得。その後も功績は脈々と受け継がれ、チャンピオンならびにリバースウィーブという呼称は、スウェットシャツの歴史における金字塔として今なお君臨している。
では、本編へ。真っ赤なボディが目を引くこちらは、スウェットシャツやパーカーとは異なるカーディガン型の1着だ。
ところで、此度の珍ピオンはいわゆるミュージアム級のレアものではなく、通常のそれとは毛色の違うモデルを広くピックアップ。その意味では、実際に十分手が届くラインアップとなっているので安心されたし。
さて今作、カーディガンといっても穴にボタンを通す仕様ではなく、スナップ式に留める「スナップカーディガン」だ。刻印入りのメタル製よりもレアとされるボディと同色のスナップボタンを計8つ配し、フルオープン時とクローズ時で印象とシルエットが変化する。
背中の「刺繍タグ」にはMADE IN U.S.Aと記載され、1990〜1995年に作られたプロダクトであることを証明。通常のスウェットシャツより襟のリブは幅広で高め、かたや袖と裾のリブは短めにアジャストされたバランスも物欲をそそる。
リバースウィーブのアイコンである両脇下の「エクスパンションガゼット」の傍らには、日常使いに頼もしいシームポケットを装備する。ボタンの開閉とインナー次第で着こなしは自在、しかも地に足のついた安心設計。珍品以上に名品としての価値が高い、レトロモダンな1着とも言えるだろう。
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〈Champion〉
「REVERSE WEAVE」の珍ピオン②
袖付けの仕様にも個性が宿る
「モックネック」
お次は、爽やかなホワイトボディのリバースウィーブだ。一見オーソドックスに見えて、実は細部に違いがチラホラ。最大のポイントは「モックネック」だ。
「亀の首」を意味するタートルネックよりも低く、一重で立ち上がったこの仕様。モックとは英語で「見せかけの、偽の」を意味するように、タートルにもクルーネックにも見えてさにあらずの個性的ビジュアルを形成する。
そしてもう一点、チャンピオンのモックネックには大きな特徴が潜んでいる。ずばり、袖に注目してほしい。通常のセットインスリーブとは異なり、襟ぐりから脇の下にかけて斜めに切り替えて袖付けした「ラグランスリーブ」になっていることがわかるだろう。
19世紀中頃のクリミア戦争で活躍したイギリス軍のラグラン将軍によって考案されたとされるこのデザインは、肩の部分に縫い目がなく袖周りに余裕がある。そのため腕や肩の機動性が高いうえに着脱が容易で、現在も多くのアスレチックウェアに取り入れられている。
ただし、チャンピオンのスウェットにおいてラグラン仕様はモックネックのみでの採用。その点でも今作は十分に珍しく、さらには1990〜1995年頃のMADE IN U.S.A.を記載する「刺繍タグ」、ありそうで見つからないホワイトボディも相まって、 珍ピオンにふさわしい希少性が宿る。
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〈Champion〉
「REVERSE WEAVE」の珍ピオン③
アイコニックなロゴをあえて省いた
「目無し」
このシャツは、ファンから「目無し」との愛称で親しまれている珍ピオンだ。こと珍しいものに目がなくて……、という意味ではない。目とはすなわち、通常は胸元に入るチャンピオンの刺繍ロゴのこと。そのアイコンが省かれた、アノニマスな珍品を指す。
当然、ロゴがなければ珍しいというわけでもない。フロントに大きなプリントが入るデザインではロゴが省かれるケースも多々見受けられ、そもそも無地ボディのリバースウィーブの左胸にCマークが刺繍されるようになったのは1983年頃から。
つまり、90年代製を示す「刺繍タグ」が付けられたこの程よく色褪せたブルーのスウェットシャツのように、本来あるはずのディテールが何かしらの理由で省かれたプロダクトにのみ、相応の価値が生まれる。
さらに今作からは、もうひとつ風変わりなディテールが見て取れる。通常は2本針で縫われるはずのネック、肩袖や袖口などのリブが、すべて内縫いされているのだ。まさか縫製ミスではなかろうが、このイレギュラーな要素が珍味をより深めている。
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〈Champion〉
「REVERSE WEAVE」の珍ピオン④
そのものずばりに希少性がある
「フルジップパーカー」
予備知識なしで見れば、単なるジップアップフーディだと捉えられて致し方ない。ネイビーの単色ボディの左胸ではCマークがしかと睨みを利かせるため、“目無し”でもない。
では何が珍たる所以か。答えは単純、チャンピオンのクラシカルなリバースウィーブでは、「フルジップパーカー」そのものが少ないのである。
作り自体は王道で、フロント両サイドにはハンドウォームポケットを装備する。フロントジップを跨がない形であしらわれた形も、極めてオーソドックス。言い換えれば、使い勝手のいいお馴染みのデザインだ。
背中の後期トリコタグを見るに、撮影したモデルは1989〜1990年に作られたものだと推測される。ネイビーに塗装され、エレメントが樹脂でできた〈YKK〉製のジッパープルも、その節を後押し。ジップの種類も年代ごとに変遷を見せ、1980〜1983年頃は〈TALON タロン〉の属製、81年からは金属製のYKK製も混在、1983年以降はYKK製だけとなり、後期トリコタグの頃にはプルが塗装されてエレメントは樹脂製に変わったとされるからだ。
ちなみに、フルジップパーカーがラインナップされるようになったのは1980年代初頭から。今では完璧に市民権を得た万能デザイン、さらなる枯渇化の前に入手しておこう。
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〈Champion〉
「REVERSE WEAVE」の珍ピオン⑤
ボディとは別に細部で主張する
「ボーダーリブ」
「OHIO STATE」、つまりはオハイオ州立大学。ラバープリントでその名を記すインパクト十分なカレッジスウェットはそれだけで価値が高まるが、本品のハイライトは別にある。
ネック、袖、裾のリブに配されたボーダー柄。見目麗しいディテールが希少性を物語る、「ボーダーリブ」とも称されるレアモデルだ。
ボーダー柄のリブは通常に比べて厚みがあるのも特徴で、より頑強なイメージに。“オハイオバージョン”以外にもボデイに大学名を入れた同様のモデルが複数確認されているため、運動量が多く随所が摩擦されがちな学生用としてリブが厚めに設計されたのかもしれない。
こちらのモデルは胸ではなく左袖にCマークが見受けられ、後期トリコタグを搭載。したがって、1989~90年代の作品と思われる。トリコタグ、カレッジプリント、ボーダーリブの三要素が揃う個体は、リユースマーケットにおいても年々弾数を減らしている。しからば、一期一会の覚悟で臨みたい。
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〈Champion〉
「REVERSE WEAVE」の珍ピオン⑥
プリントとV字ガゼットで主張する
「USMA」
続いては、「USMA」の名が体を表す潔き珍ピオン。USMAとは、「United States Military Academy 米国陸軍士官学校」の略。そこに通う屈強な士官候補生のためのトレーニングウェアとして納品されたタフネスウェアには、汚れを目立ちにくくするためか通常より濃いめの杢グレーボディが用いられている。
フロントのプリントやボディカラーだけでなく、ほかにも特別なあしらいが。首元のV字ガゼットにご注目いただこう。汗止めや補強だけでなく、リバースウィーブと同じく生地の縮み防止にも効果があるとされるこのディテール。なぜか、米国陸軍士官学校に納品されたモデルには総じて採用されているのだ。
生地は通常よりやや薄く、その理由も不透明。重ね着のためか、はたまた動きやすさのためか。そもそも、なぜ民生品としてこれほど流出しているのか。そういった想像も、ロマンを増大させる隠し味となる。
なお、背タグの仕様は「C」の上に「®(レジスターマーク)」があるトリコタグであり、1983〜1989年頃の個体と判明。同じくトリコタグのUSMAリバースウィーブにはプリントのない無地のデザインも発見されているが、そちらは希少価値がさらに上がる超レア物とのこと。
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〈Champion〉
「REVERSE WEAVE」の珍ピオン⑦
より厚く、暖かい
「ダブルフェイス」には、
決定的な違いがもうひとつ……
フロントセンターに鎮座する、「HAMLINE」のラバープリント。ただし、ミネソタ州に位置するハムライン大学のオフィシャルゆえに珍品なわけではない。実は今作、2つの生地を貼り合わせて1枚のボディにした「ダブルフェイス」のスウェットシャツである。
外見は通常の生地と相違ないものの、着用感には大差あり。必然的に、生地の厚みを強く感じ取ることができる。保温性が高いのも必然で、シャツタイプには珍しいハンドウォーマー用カンガルーポケットとも親和性が高い。
背中の中期トリコタグには、ブランド名とともにREVERSE WEAVEの記載が。しかし、実はこのモデル、リバースウィーブではない。よくよく目を凝らせば、スウェットの編みが横ではなく、縦であることがわかるはずだ。
リバースウィーブ特有のエクスパンションガゼットが当然見当たらず、ガゼットも縫い目もない丸胴と呼ばれる製法を採用。ただでさえ厚みのあるチャンピオンの生地を重ねて使っているため、袖や裾などの生地がずれずに縫製できるようこの手法が選ばれたようだ。
羊頭狗肉ながら、実に理にかなったタフネスウェアとも言える本作。後のダブルフェイススウェットはREVERSE WEAVE表記のない「⻘刺繍タグ」に切り替えられていることからも、レア度は上々であろう。
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〈Champion〉
「REVERSE WEAVE」の珍ピオン⑧
鮮やかな3色が混在した
「アシンメトリー」
さあ、ラストだ。本稿最後方に控えるは、見るも鮮やかなスウェットシャツ。「アシンメトリー」デザインが特徴の今作は、胴と袖に3色が混在することから「3トーン」とも呼ばれている。
写真のモデルは、リバースウィーブでは珍しいブラックボディを採用し、左袖にはエメラルドグリーン、右袖にはパープルを配した90年代らしい色合わせ特徴的。同タイプのモデルは写真の1枚以外にも色のバリエーションが存在し、リユースマーケットでお気に入りを見つけるのままた一興だ。
背タグは、90年代を代表する「刺繍タグ」。ただし記載内容を見ると、SOLID COLORS コットン90%・アクリル10%と並列してSILBERR GRAY コットン89%・ポリエステル8%‧レーヨン3%との表記が。シルバーグレイとは何処の色使い……。いずれにせよ、珍ピオンにはかくも不思議な魅力が潜む。
(→「アシンメトリー」の「リバースウィーブ」をオンラインストアで探す)
アメカジ。絶対定番にして現在進行形で進化する永遠のスタンダードスタイルを、チャンピオン、そしてリバースウェーブは今も牽引する。その姿には問答無用の力強さだけでなく、いい意味で余白のある大らかさ、余裕めいた風格が感じられるのだ。
だからこそ珍ピオンは時代の徒花とはならず、ヴィンテージマーケットにおける立派な花形としての立ち位置を保つ。そのうえで百花繚乱。まったく、恐れ入る。