FASHION

今、僕らの足に馴染む“英国”のラバーソール 〜〈クラークス〉篇〜

2020年も間もなく終盤を迎える。今年は例年以上に騒がしく、気兼ねなく外出することもままならいうちに真冬の足音が近づいてきた。そんな閉塞感に反発するかのように、ヘビーアウターを羽織って街へ出る。では、その足元は?

お気に入りのスニーカーもいいだろう。なにせ、ラクだ。しかし、今こそ革靴という選択肢を。冬のボリューミーなコーディネイトに寄り添い、寒さを心なしか和らげてくれる。そのうえで、歩きやすいラバーソールを備えていればベターだ。そして忘れてはならないのが、タイムレスなデザインであること。ひどく不確かな時代だからこそ、長い歴史を乗り越えてきた老舗の傑作と新しい一歩を踏み出したい。

少々回りくどくなったが、ゆえにこの度は英国生まれの革靴を2回にわたって紹介する。では早速ご覧いただこう。

約200年前に端を発する
英国・ストリート発の
コンフォータブルシューズ。

と、その前に。英国のラバーソールについては、こちらの記事で一度触れている。
(→関連する特集「イギリス生まれの風変わりなゴム底シューズが、若者から支持された理由」

今も厚い支持を得る英国ゴム底シューズの“根底”には、機能性とデザイン性を併せ持ち、若者文化へと派生していった経緯があるのだ。そのなかでも今回は、古参中の古参である〈Clarksクラークス〉について紐解いていこう。

1825年に生まれた、ストリート発のクラークス。ただしストリートといってもスタイルのことではなく、イングランド南西部のサマット州にある小さな町の名前である。現在もそこに本社が置かれるが、ストリートは古くから羊や牛の牧畜が盛んな地域。当然のようにクラークスも羊皮や羊毛を生産し、創立当初はそれらを使ったスリッパで名を売った。

言わずもがな、室内で履くスリッパは快適性が第一。その流れを汲み、履きやすさと歩きやすさを追求したカジュアルシューズの生産を始めていくのである。

「DESERT BOOT デザートブーツ」
クレープソールの名を知らしめた
ブランドが誇る最高傑作

約200年に及ぶブランドの歴史の中でも、最高傑作と名高い逸品から見ていこう。今年、70周年の記念モデルでも世間を賑わせた「DESERT BOOT デザートブーツ」。ただし公式には、その誕生は1949年とされているようだ。生みの親は、ネイサン・クラーク。ブランド創始者の一人であるジェームス・クラークのひ孫にあたる、クラーク家の四代目である。

インスピレーションの源は、イギリス軍の兵士が履いていた革靴にあった。第二次大戦中、ネイサンがビルマ(現在のミャンマー)に出兵した際に見かけたその靴は、当時は珍しいスエードのブーツ。柔らかさに衝撃を受けたネイサンは、遠征先で靴をスケッチして本社へ送っている。

しかし発売当初のデザートブーツは、残念ながら本国では受け入れられなかったそうだ。伝統を重んじる英国において、その特殊なデザインゆえに敬遠されてしまった……のかは定かではないが。とはいえ、その後にオーストラリア、アメリカの販路を広げると、アメリカで大ヒットを呼び込み、その後は世界各地で受け入れられていった。

ブランドを代表するミフドルカットブーツ「DESERT BOOT デザートブーツ」。

名前の由来は、上部とソールを「ステッチダウン製法」で固定して“砂漠”の砂が入らないようにしたこと。そんな機能的な1足において、最大の特徴が「クレープソール」だろう。素材には天然素材100%のラバーを使用し、それを長く熟成させることで密度の高いゴムに。柔らかくて優しいクッション性を持ち味とする一方、しっかりと地面を掴むような高い歩行性を実現する。

天然ゴムを贅沢に使用したクレープソールが、高い機能性の土台を支える。

デザートブーツの快適性については、1960年代のモッズが証明している。最初期の彼らはオーダーメイドのウィンクルピッカーシューズ(つま先のとがったレザーシューズ)や革底のチャッカブーツを履くことが多かったそうだが、徐々にデザートブーツへとシフトしていった。彼らも好んだ、踊りやすく、歩きやすいグッドデザイン。我々の足元を託す理由としても、十分ではなかろうか。

「WALLABEE ワラビー」
丸みを帯びた優しいフォルムを
アイコニックなモカシン縫いで飾る

続いては、デザートブーツと肩を並べる二枚看板の相方「WALLABEE ワラビー」を取り上げたい。1966年に生まれ、それから遅れること5年、1971年より日本でも販売がスタートした。角ばった甲部分のU字型ステッチ、いわゆる「モカシン」がアイコニックな今作。つま先のスクエアな形状は締め付けが少なく、長時間の歩行でも疲れにくいというメリットにもつながっている。

愛らしいフォルムのローカットモデル「WALLABEE ワラビー」。

ワラビーというネーミングは、フクロネズミ目カンガルー科に属するワラビーにちなんだものだ。その名に違わず、有袋類であるワラビーが育児嚢で子供を大事に育てるがごとく、足を優しく包み込むような履き心地。ぽってりとしたキュートなフォルムも、愛らしい動物を連想させる。

くるぶし丈の「WALLABEE BOOT ワラビーブーツ」は防寒性にも優れる。

基本的なデザインは同一ながら2種類のレングスを用意。これも人気作の証か。

ソールにはデザートブーツ同様にクレープソールを採用。デザートブーツのそれよりも厚みと柔らかさが増した印象で、ゴム本来の弾力性を余すところなく味わえる。なお、日本では短靴タイプのデザインがよく知られているが、くるぶし丈のミドルブーツに仕立てた「WALLABEE BOOT ワラビーブーツ」も隠れた名品の一つ。防寒をより重視するのであれば、こちらも心強い選択肢となる。

「DESERT TREK デザートトレック」
フロント&リアのビジュアルで
デザートブーツとの違いを見せる

ワラビーと同じ’60年代生まれ。「DESERT TREK デザートトレック」も、クラークスの歴史を彩るタイムピースに数えられる。ジェームスと並ぶもう一人のブランド創設メンバー、サイラス・クラークの直系子孫であるランス・クラークによって考案。彼がオランダ旅行中に発見した靴を基に設計されている。

センターシームとトレックマンが特徴の「DESERT TREK デザートトレック」。

サイドビジュアルはデザートブーツと瓜二つだが、フロントを見れば違いは歴然。独特なセンターシームがあしらわれ、シンプルな佇まいに個性を与えている。ちなみにこのデザインは、見た目だけでなく履きやすさに裏打ちされたもの。足先のスペースに余裕をもたらすことで、快適性を担保するのだ。

フロントだけでなく、リアにも個性的な仕掛けが。「Trek Man トレックマン」の愛称で親しまれるシンボルマークを踵にオン。さりげなくも確かな主張により、後ろ姿も様になる。

別布が当てられた踵には、文字通りトレッキングに励む「トレックマン」の姿が。

ブランドの代名詞たるクレープソールは健在で、製法もデザートブーツの「ステッチダウン」を踏襲する。履き口が広いため着脱しやすく、2アイレットのレースで足首をしっかりホールド。トレックマンさながら、トレッキングでも頼れるほどの機能性も見逃せない。

「NATALIE ナタリー」
クレープソールで囲われた
ワラビーの愛すべき弟分

最後にお届けするのが、1980年代に登場した定番モデル「NATALIE ナタリー」について。ふっくらとしたデザインやアッパーのモカシン縫いを見てお分かりの通り、ワラビーを源流とするカジュアルシューズだ。名前の由来は明らかでないが、どこかワラビーに近いその響きも、“兄弟版”としての印象を色濃くさせる。

ワラビーを源流とする「NATALIE ナタリー」は1980年代に登場。

これまで紹介した3足と違わずクレープソールを使うが、こちらはソールがつま先から踵まで捲き上げるようにぐるりと貼られているのがポイント。靴全体を縦にくわえこむようなユニークな作りで、コーディネイトにアクセントをもたらす。

つま先から踵まで巻き上げられたクレープソールが代名詞。

ややもするとアヴァンギャルドに見えるソールデザインだが、クレープソールの普遍的な佇まいと全体のシンプルさが相まって、意外にもスタイルを問わず合わせやすい。カジュアルな装いにはもちろん、色に気を配ればスーチングとも好相性に。休日だけでなく平日にも、ナタリーの愛らしさを味わってみてほしい。

スエードを筆頭とする上質なアッパー素材に、独創的なクレープソールを組み合わせて。英国が誇る老舗は、スマートかつコンフォータブルな革靴を作り続ける。シンプルなデザインは時代を経ても色褪せず、これから先も履き続けられるという点ではスニーカー以上に“ラク”なアイテムと言えるかもしれない。クラークスとともに歩む年の瀬。その一歩が堅実で、軽快である事を祈ろう。

次回は、英国靴のもう一つの大定番。バウンシングソール、イエローステッチでお馴染みのブランドを取り上げる。乞うご期待

(→「 今、僕らの足に馴染む“英国”のラバーソール 〜〈ドクターマーチン〉篇〜」はこちら

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