FASHION

ワールドクラス・ジャパン “セカイに誇るニッポンのモノ” 〜〈コモリ〉篇〜

かつては、モノづくり大国とも呼ばれた、我らが島国ニッポン。だが時代の流れとともに、あらゆるものがコストの安い海外へと製造拠点を移したことで、“メイド・イン・ジャパン”は付加価値と希少性の象徴となった。その品質の高さゆえに、国内以上に海外での需要が増加していた矢先、世界中が新型コロナウイルスのパンデミック禍に。これにより、これまでの日常も一変。海外での製造・輸入にも大きな影響が……。

そんな状況下もあって、注目されているのが国産のモノ作り。それはファッションもまた然り。もちろんファションラバーにとって、いわゆるドメスティックブランドはお馴染みの存在かもしれない。だが、いやだからこそ、これを機に『knoebrand magazine』を、改めて「ジャパンブランド」を“識る”場としていきたい。そう、企んでいる次第である。

シーズンごとにコンセプトを変えず、
いつどこで着るかという
明確な目的のある服。

これまでも当マガジンでは、世界が認める〈COMME des GARÇONS コム デ ギャルソン〉や〈吉田カバン〉、匠の技術が織り上げた「ジャパンデニム」、裏原宿のストリートから誕生した〈UNDERCOVER アンダーカバー〉と〈A BATING APE ア・ベイシング・エイプ〉…etc.ニッポン発の「ジャパンブランド」を紹介してきた。

(→〈COMME des GARÇONS〉の特集記事はこちら
(→〈吉田カバン〉の特集記事はこちら
(→「ジャパンデニム」の特集記事はこちら
(→〈UNDER COVER〉の特集記事はこちら
(→〈A BATHING APE〉の特集記事はこちら

いずれも数十年以上の歴史を有し、国内外で確固たる地位を築いているブランドである。対して、今回と次回の二度に渡って紹介するのは、それらに比べて歴史は浅いものの、すでに服好きたちを虜にしているジャパンブランドの旗手。まずは、日本人のためのデイリーな服作りを標榜する〈COMOLI コモリ〉から。

ブランドの設立は2011年。洋服が好きで絵を描くのが好きだったから。そんな理由で文化服装学院のデザイナー科に入学した小森啓二郎が、本格的にファッションの世界に足を踏み入れたのは1995年。セレクトショップ「ÉDIFICE エディフィス」に入社し、デザイナーを15年勤めるも、ただ売るために機能やテクニックを強調することには疑問を感じ、独立を決意する。

以降、フリーランスのデザイナーとして幾多のブランドの立ち上げを行ったのち、シーズンごとにコンセプトを変えず、自身が思い描くシーンにフィットし、いつどこで着るかという明確な目的のある服。それこそが本来あるべき姿という想いから、自身の名を冠したブランドを立ち上げた。コモリの誕生である。ちなみに設立初期には、同じくエディフィス出身で〈SUN/kakke サンカッケー〉のデザイナー尾崎雄飛が、“まだ表に出てない日本の良いモノを紹介していきたい”とセールスを担当していたのは、知る人ぞ知る話。いかに本ブランドを取り上げる意義があるかを、雄弁に物語るエピソードだ。

幅広い年代からラブコールを受ける
“日本人のためのデイリーウェア”。

さてもミニマルかつクリーンで上品なアイテムの多いコモリ。個性的なデザインや派手なロゴはなく基本的にシンプル。ただ、そのどれにも共通するのが、心地良さと上質さ。だからこそトレンドにも影響されにくく、幅広い年代からラブコールを受けている同ブランド。そのラインアップから、もはや定番となった代表的アイテムをいくつか見ていこう。

「COMOLI SHIRTS コモリシャツ」
空気を含んだように軽やかなシルエット
“コモリといえばシャツ”の代名詞。

まず取り挙げるならば、ブランド設立当初から作り続けられている「COMOLI SHIRTS コモリシャツ」はハズせない。年に2回、春と秋にリリースされるも毎度の即完売。ファンは皆、口を揃えて“コモリといえばシャツ”と語るだけあり、名品と誉れ高き定番アイテムだ。

定番の「COMOLI SHIRTS コモリシャツ」。様々な生地でリリースされているが、中でも「ベタシャン」の人気が高い。

そもそも同ブランドのトップスは、オーバーサイズで着る前提で作られており、空気を含んだような軽やかなシルエットが特徴。ゆとりある肩幅・身幅でリラックスした着心地を提供しながらも、計算し尽くされたシルエットは美しいドレープを作り出す。これは製品後、過度なプレスをかけずに、洗いざらしのナチュラルな風合いに仕上げていることも関係しているのだろう。

となれば当然、生地にもこだわりが。今回ご紹介するコモリシャツの素材は一見、普通のシャンブレーのようにも見えるが、これは通称「ベタシャン」。そもそもシャンブレーとは、インディゴ(ブルー)の経糸(よこいと)と、生成りの緯糸(たていと)を用いた平織りの生地。一方、経・緯をそれぞれ異なる濃度のブルーで染められた糸で織られたものがベタシャン。通常よりもフラットで青みがかった色味が表れることから、フラット(平べったく=ベタ)なシャンブレー→ ベタなシャンブレー、略してベタシャンという呼称に推移したと思われる。

フラットな色合いは清潔感をもたらす。こうして襟元にフォーカスしてみると、柔らかな質感がより伝わるだろう。

また、この生地は色落ちや、シームのパッカリングなどエイジングが楽しめるのも魅力だ。“新品よりも、着ていって魅力的になる服が好き”というデザイナーの嗜好が反映されている点においても、コモリのアイコニックな素材の1つと言えよう。

「BAND COLLAR SHIRT
バンドカラーシャツ」
“着ることで伝わるこだわり”が
存分に味わえる、大人のカジュアルシャツ。

“着ることで伝わるこだわり”こそが、コモリのシャツが人々を魅了する理由。デザイナーの小森自身が、様々なシャツを見てきた中で得たパターンのノウハウを、自分が一番しっくりくるサイズ感に落とし込んでいるのだから、さもありなん。続いては、そんなこだわりが感じられる、もう1つの定番「BAND COLLAR SHIRT バンドカラーシャツ」をご覧いただく。

もう1つの定番シャツが、この「BAND COLLAR SHIRT バンドカラーシャツ」だ。

ゆとりのある身幅に長い着丈が、インナーとアウターその両方で活躍するストロングポイント。先述の「コモリシャツ」とはまた違い、リラックス感がありながらも肩に沿う綺麗なラインが、独特なバランス感を演出する。これは計算し尽くされたパターニングとサイズフィッティングの賜物で、我われ日本人の平坦な体型にもよく馴染む。

140番手という極めて細い糸で織られたブロード地は、織りから仕上げまで、一貫して糸に負担がかからない旧式の工程で仕上げられている。ゆえに肌触りの面でも出色の出来。軽やかで通気性も良く、季節問わず着用可能。バンドカラーのシンプルなルックスは、さり気なく洒脱な大人のムード。着用者の雰囲気によって表情も変わるので、幅広いオケージョンに対応してくれる。

帯状のパーツのみで構成された襟は、本来カジュアルなイメージだが、着用者の雰囲気によっても表情を変える。

並べてみると着丈の違いは一目瞭然。フワッと空気を纏うようなシルエットも相まって、実に着心地が良さそう。

フンワリと空気をはらんだ佇まいは実に美しく、つい袖を通してみたくなるのも道理。先に述べた、“着ることで伝わるこだわり”が存分に味わえる1着である。

「TIELOCKEN COAT
タイロッケンコート」
トレンチコートのディテールを
削った結果、たまたま誕生した
アイコニックな傑作。

連続でシャツを取り上げたが、定番として愛されているのはシャツのみにあらず。アウター類で筆頭にあがるのが、「TIELOCKEN COAT タイロッケンコート」だ。スタイリストや編集者、ショップスタッフなどの業界関係者にもファンが多く、コモリを代表する傑作アウターとして認知されている。

ファンの多い「TIELOCKEN COAT タイロッケンコート」。今回はウールサージ生地のタイプをピックアップ。

そもそもタイロッケンコートとは、〈Burberry バーバリー〉が1895年に開発したイギリス軍将校向けのコートを指し、トレンチコートの源流にあたる。身体に巻き付けるように着用することから、一般にはラップコートとも呼ばれている。

そんな男臭さ漂う出自のアウターも、コモリが料理するとまた違った味わいに。ダブルブレステッドの丈長フォルムは同様だが、胸ボタンがなく、フロントの開閉を付属の固定ベルトで内側からスリットを通して行う独特な設計が特徴。ゆったりしたサイズ感ながらも、ラグランスリーブのためショルダーラインは体に沿って綺麗に落ち、美しいシルエットを形成。一枚袖が着用時のストレスを軽減し、ベルトを内側のポケットかストラップに収納することで、前開きで羽織った際も洗練された印象を与えてくれる。

構造自体はいたってシンプル。内側からスリットを通した共布のベルトでウエストを締めて着用する。

襟元にはチンストラップを装備。首元より吹き込む風からガードし、体温の低下を防ぐ効果が。

ちなみに、原典に忠実に、それでいて独自のこだわりが随所に詰め込まれたこの傑作も、実は意図して生まれた訳ではない。トレンチコートから日常使いに不必要かと思われるディテールを削ぎ落していった結果、自ずとタイロッケンコートに辿り着いたのだとか。服は目的のためにあるべしというデザイン哲学が如実に表れた、なんとも“らしい”エピソードではないか。

「MACKINAW COAT
マッキノウコート」
見た目はヘビーでも、羽織ればライト
引き算の美学が息づく、
もう1つの定番。

タイロッケンコートを生み出した引き算の美学は、もう1つの名作「MACKINAW COAT マッキノウコート」にも、確実に息づいている。北米、五大湖周辺の開拓者たちが着ていた、アメリカ・ミシガン州の材木の切り出し地の名前に由来するとされる、森林作業用コートがデザインソース。一般的にはアメリカ陸軍が1938年に採用した「M-1938」がよく知られている。このヴィンテージミリタリー愛好家に人気のアウターも、コモリの手にかかれば、洗練されたシティウェアへと姿を変える。

「MACKINAW COAT マッキノウコート」もタイロッケンコートに並ぶ名作。

特徴的なのが、フロントボタンを上まで閉めることで防寒性を高める大ぶりなショールカラーと、“陸軍版Pコート”と呼ばれる一因ともなっているダブルブレステッドのフロントデザイン。また本作は、ヴィンテージのマッキノウコートではウエストベルトが装備されているが、これを排除し、ボタンのみのシンプルな仕様へと再設計。深めのVゾーンを活かして、首元のレイヤリングも楽しめる1着となった。

ここで紹介するモデルでは、重厚感のあるウールやコットンではなく、エジプトの最高級綿「フィンクスコットン」にポリエステルを混紡したライトな生地を採用。表地に撥水加工がされているため、気軽に羽織れてなお機能性も高い。ウールの裏地にも、表面を毛玉状に加工することで毛抜けを防ぐ「ナッピング加工」が施されており、ウォーミーな風合いを増している。また上下で4つ配置されたポケットの利便性も何気に高く、凍えた手を温めると同時に、鍵や財布、スマホなど、日々の営みに必須なアイテムの収納も叶えてくれる。

大ぶりなショールカラーは、フロントボタンを上まで閉めることで防寒性も向上。2通りの着こなしが可能だ。

フロントポケットは上下左右で計4つ。もちろん、使いやすさが考慮されたポジションに配置されている。

かように、細部を紐解けば、働く男たちを支えたウェアとしての痕跡がチラホラ。リラックスした着心地で懐に飛び込んできたと思ったら、ヘビーデューティーという言葉に弱い『knoebrand magazine』世代の男心を絶妙に、そして的確にくすぐってくるのだから、コモリ侮りがたし。
(→「ヘビーデューティー」な傑作アウターに関する特集記事はこちら

「FELTON BELTED PANT
フェルトンベルテッドパンツ」
ウエストベルトが絶好のアクセント
コモリらしいコンフォータブルを体現。

トップスとアウターが揃ったので、最後はボトムスを紹介したい。その名は「BELTED PANT ベルテッドパンツ」。このアイテムもまた、先述のシャツやコートのように、ブランドのスタート当初から変わらず展開され続け、不動の人気を誇るコモリの十八番。

「FELTON BELTED PANT フェルトンベルテッドパンツ」。この他にチノ、ブラックデニムなどの素材違い、タック入りなどのバリエーションが存在する。

出自は、タイロッケンコートと同じくミリタリー畑。1940年代のミリタリーパンツをコモリ流にアレンジしたものとなる。本作における最大の特徴、それはアイテム名が示すように、左右のウエスト部分に取り付けられたベルトだ。両サイドで固定し、後ろで交差させて前面のダブルリングで留める仕様は、デザイン的にも絶好のアクセント。ヒップにゆとりを持たせて、ややテーパードしたシルエットも動きやすく、この2点をもってコンフォータブルを体現している。

左右のウエスト部分に取り付けられたベルトを、後ろで交差させて前面のダブルリングで留める仕様。

今回は、ウール73%×ナイロン27%で織り上げられた、フェルトとメルトンの中間にあたる生地、フェルトンを採用した「FELTON BELTED PANT フェルトンベルテッドパンツ」を用意した。街に溶け込みやすいカーキ色の生地は、ほつれにくく、負荷が掛かりやすいベルト部分などにあえて裁ち切り面を使うことで、経年変化による育てる楽しみも味わわせてくれる。

トレンドを意識しつつ、そこから一定の距離を保てるよう、常に自分らしさを模索している小森とコモリ。服作りで一番大事にしていることは何か?という問いに“着ている人と服の間にある空気感”と答える。この空気感の正体こそが、“和”なのではないだろうか。和は輪に通ずる。

イギリスやアメリカからデザインソースを集めつつも、出来上がったのはどこの国か、どこの時代か分からない服。それでいて日本の気候や体型、そして街並みに自然と馴染み、日々の営みに繋がり溶け込む。タイムレスでボーダレス、されどひたすらユーズフル。まさに“日本人のためのデイリーウェア”の理想形がそこにある。最後にもう一度、繰り返しておく。コモリ、やはり侮れない。

(→ “セカイに誇るニッポンのモノ” 〜〈オーラリー〉篇はこちら

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