〈ディッキーズ〉とは〜「アイゼンハワー」「ワークシャツ」…【トップスの人気モデル編】… ~“永遠のアメカジ”を知る〜
永遠の定番。それは詭弁かもしれない。ただし、時を超えてなお愛される強きプロダクトは、少ないながらも確かに存在する。これまで手に取った人々、かたや作り続ける人々。各々の想いが乗った、依り代のようなアイテム。それを次世代にも繋いでいこうと願う現在進行形の意思が、本来あり得ない“不変”を実現させる。
アメリカの老舗ワークウェアブランド〈Dickies ディッキーズ〉の服もまさに、稀少な永遠性の実例。先の〈パンツ編〉に続き、今回は名作トップスに焦点を当てる。
〈Dickies ディッキーズ〉
定番人気の名作トップス①
「EISENHOWER JACKET
アイゼンハワージャケット」JT75
ワークの意匠を伝えるミニマルデザイン。
モノの詳細に触れる前に、まずは概要から。木を見て森を見ずでは本末転倒。〈Dickies ディッキーズ〉というメガブランドについて、軽くおさらいしておきたい。
生みの親は、従兄弟同士にあたるC.N.ウィリアムソンとE.E.ディッキー。彼らが1918年に立ち上げた〈U.S.オーバーオール〉社を前身とする〈Williamson-Dickie Mfg. Co. ウィリアムソン-ディッキー製造会社〉の時代から、伝説は歩み始める。
「874」の原型であるワークパンツ「KHAKI カーキ」をはじめ、1920年代から労働者を支えたディッキーズのウェアは、第二次大戦を経ても本質を見失わず。ただひたすらに、当時のアメリカの“仕事”を前進させた。一方、タフでシンプルなデザインは’90年代のストリートファッションでも話題の中心に。新しいカルチャーと結びつくことで、ワークの枠を超えた特別なアイテムに昇華されている。
さて、前出の「874」が抜群の知名度を誇るディッキーズだが、実はトップスの完成度もパンツのそれに比類。その代表格が「EISENHOWER JACKET アイゼンハワージャケット」だろう。
ミニマルなボディデザインとショート丈のルックスが、スイングトップのようにも見える今作。とはいえディテールに目を凝らせば、ワークウェアの真髄とも言える実用性の高さが垣間見える。
フロントにはオリジナルの真鍮ジップを備え、スムーズな開閉とともに唯一と言ってもいい装飾性をプラス。背面裾のボタン式アジャスターでシルエットが調整でき、レイヤード次第で真冬まで対応する。左のアームに付いたペンポケットも、“働く服”に欠かせない利便性をアピールする。
生地は「874」と同じT/Cツイルで、セットアップとしての着用も可能だ。65:35という割合でポリエステルとコットンを混紡した素材は、汚れとシワの付きにくさと良好な肌触りを両立。それを地厚に仕立てることで、多彩な労働環境にアジャストしてみせた。
アイゼンハワーという聞き慣れた名は、かのダグラス・マッカーサーの副官を務めたことでも知られる軍人兼政治家ドワイト・D・アイゼンハワーに由来する。彼の考案したジャケットが原案となったと言われるが、真偽のほどは定かではない。そんな謎めいた背景もファンの心をくすぐり、語り継ぎたい魅力の一部となっていくのだろう。
この服の愛用者は、有名無名問わず数知れず。例えば著名ラッパーのイェもそのひとり。彼がまだカニエ・ウェストと呼ばれていた2019年、黒い874と合わせたモノトーンコーディネイトでNYのファッションイベントに参列している。
(→〈ディッキーズ〉の「アイゼンハワージャケット」をオンラインストアで探す)
〈Dickies ディッキーズ〉
定番人気の名作トップス②
「LONG SLEEVE WORK SHIRT
ワークシャツ ⻑袖」574
「874」の同胞として誕生した金字塔的シャツ。
続いては、オールシーズンで着られる定番のデイリーウェア。ワークパンツの絶対王者が874であるならば、それと対になるワークシャツの金字塔がこちらの「LONG SLEEVE WORK SHIRT ワークシャツ ⻑袖」、通称「574」である。
アウターにもインナーにも使われるシャツだけに、パンツやジャケットと同じT/Cツイルを生地に採用するものの薄手に設計。5.25オンスに仕立て、動きや重ね着を邪魔しないよう考慮されている。そのうえで、吸湿発散性や形状記憶性能は譲らず。丈夫さも兼ね備え、ヘビーユースをものともしない。
ジャケットのようなアームのペンポケットこそ省かれたが、両胸のフラップポケットのうち左胸の内部にペンを挿せるような仕分けが。ボタンには割れにくいメラニンボタンが採用されるなど、簡素なデザインに見えてしっかりと地に足がついている。
アメリカの本国基準だけに、サイジングは少々オーバー気味。肩周りと腰回りともにゆとりあるデザインは、ビッグシルエット全盛の昨今で重宝されるだろう。裾はスクエアテールでやや長めの着丈だが、ここには確固たる理由がある。炭鉱などでの作業中に肌をしっかり守り、かつ邪魔にならないよう、タックインを前提で作られているのだ。
ちなみに、ワークパンツ874とワークシャツ574はリリース当初の1920年頃、「ワークセット」という名でセット販売がされていたという。カラーバリエーションも豊富な両者だけに、自らの感性にピタリとくる組み合わせを探すのも楽しい。
(→〈ディッキーズ〉の「ワークシャツ 長袖」をオンラインストアで探す)
〈Dickeis ディッキーズ〉
定番人気の名作トップス③
「SHORT SLEEVE WORK SHIRT
ワークシャツ 半袖」1574
レイヤード次第でマルチに活躍。
数あるワークシャツのなかでも、ディキーズのそれは一種の指針として君臨する。シンプルで汎用性が高く、ゆえにバリエーションの展開も容易。色数の多彩さについては先に述べたが、仕様の違うシャツもまた多くの人に愛されている。
「SHORT SLEEVE WORK SHIRT ワークシャツ 半袖」は、文字通りショートスリーブの作業用シャツだ。基本的な作りは長袖と変わらず、T/Cツイルの生地も踏襲して相変わらずの高い強度を誇示する。
身を守るという一点においてはロングスリーブに軍配があがるものの、着回しにおける守備範囲の広さは劣らず。インナーにサーマルなど防寒性のあるロングスリーブを挿せば、夏場に限らず活躍してくれる。
御多分に洩れず今作も色展開が豊富で、アメリカ・ニカラグア・ホンジュラス・メキシコといった時代ごとに異なる生産国など、フリークを虜にする要素も散在。ぜひリユースマーケットにて、自分だけのお宝を掘り当ててほしい。
(→〈ディッキーズ〉の「ワークシャツ 半袖」をオンラインストアで探す)
〈Dickeis ディッキーズ〉
定番人気の名作トップス④
×〈TRIPSTER トリップスター〉
「紳士服のディッキーズ」のジャケット
紳士たる大人のため、
モダンに変貌したディッキーズ。
お次は本項で紹介する最後のアイテム。ラストは少々趣向を変えて、モダントラディショナルなスペシャルコラボレーションで締めくくりたい。
〈Supreme シュプリーム〉をはじめ、2023年の春夏だけに限っても〈WACKO MARIA ワコマリア〉や〈BEDWIN&THE HEARTBREAKERS ベドウィン アンド ザ ハートブレイカーズ〉など名だたるブランドと数え切れないほどのコラボレーションを成功させてきたディッキーズ。とりわけ野村訓市氏率いる〈TRIPSTER トリップスター〉と手を組んだセットアップは、爆速でソールドアウトする人気アイテムだ。
氏ならではのウィットが滲む公式のプロモーションムービーでも強調されるように、「紳士服のディッキーズ」と名付けられたこのジャケット。テーパードが効いた共地のパンツとのコンビネーションは言わずもがな、単体としても実に使い勝手がいい。クリエイターのほか、ライターや俳優、ラジオパーソナリティなど多くの顔を持つ野村氏が考案するだけに、多様なシーンにフィット。合わせ次第でワークにもドレスにも変貌する、“働き者”の1着に仕上がっている。
初代モデルがリリースされた2018年を皮切りに毎年発表され、2023年SSまでに5つのバリエーションが登場。写真はそのうちの最新モデルだ。ポリエステルウールのサージ生地で作られ、上品な見え方と滑らかな質感が特徴。一方でシルエットは大きめで、気楽なフォーマルを提唱する。
また今回は新たにハーフライニングの裏地付きへとアップデートを遂げ、ほぼオールシーズンで快適に着用できるようになった。そのうえでチェストポケットが配置され、サイドポケットはこれまでのパッチタイプからフラップ付きのスリットポケットに変更となった。
さらに左のポケット上のディッキーズタグは手縫いで4点留めされ、簡単に取り外せる仕様に。実はこれ、ロゴの露出が躊躇われる格式高い場でも着られるようにとの配慮から。その紳士的気遣いには、思わず舌を巻く。
(→〈ディッキーズ〉×〈トリップスター〉のアイテムをオンラインストアで探す)
働く。人間の本質ともいうべきその行いを助けるべく、ディッキーズはワークウェアを一世紀以上も作り続け、ついには永遠の定番としての地位を確立した。今でこそ、“仕事着”としてディッキーズを着る人間は限られるだろう。しかし、その屈強で勤勉な魂は輝きを失わない。
これから先も、世の中は必ず変化する。純粋に正しいと信じていた物事が、周囲から非難される未来だってやってくるかもしれない。それでも自らのビジョンは見失わず、精一杯働き、生きていきたい。ディッキーズの服が、そうあり続けるように。