FASHION

“本物は揺るがない”。 「ミリタリーパンツ」の名作と種類を知る 〜ユーロミリタリー編〜

機能美の結晶。そう【前編】で総括したように、戦場という特殊なフィールドで育まれたミリタリーウェアは、街で暮らす我々の心も揺さぶる魔性を備えている。戦争は憎むべきものと頭では理解しているものの、無性に惹きつけられてしまう。それが“本物”であればなおのこと、タフで武骨な潔き魂に強烈な憧れを抱かずにはいられない。

今回の主役は、欧州にルーツを持つ6本の“本物”たちだ。USミリタリーとはひと味違った趣きがあるユーロミリタリーパンツは今、プロダクトの新旧を問わず注目度が急上昇している。だからこそ、オリジンを識る価値もひとしお。以下を参考に、ぜひ好みのモデルを狙い撃ちしてほしい。

【ユーロミリタリー編 01】
「M-47」前期モデル
極太ストレートが圧巻の
ヨーロッパ古着の花形的存在

射撃体勢に入る前に、まずは知識の定期点検を。ミリタリーウェアの定義から始めたい。と言っても、答えは単純明快。軍事関係の服の総称である。当然、ミリタリーパンツは軍用パンツだ。

両サイドに大きなポケットが付くカーゴパンツや、フロントの大型L字ポケットがアイコニックなファティーグパンツなど、バリエーションは豊富。前者が荷物を背負えないパラシュート部隊のために採用されたように、すべてのディテールに意味が宿っている。

なお、ミリタリーパンツのそもそもの源流は、どうやらミニマル&タフなチノーズに行き着くらしい。ミリタリーウェアとはつまり、古き佳きワークウェアから派生した“戦場で働く人のための服”という理解で差し支えない。

閑話休題。ここからは本物とのご対面だ。まずはユーロミリタリー人気の火付け役、フランス発祥の「M-47」を深掘りしていく。この文字列を目にして、ファッションフリークであればすでにいくつかのエピソードが頭を駆け巡っているかもしれない。

例えば、1998年AWのショーで裏返したM-47をモデルに履かせたマルタン・マルジェラ。同年、日本ではM-47を履いた15歳の宇多田ヒカルが「AUTOMATIC」でデビューを飾った。本物は本物を愛する。どちらもその好例と言えるだろう。

前期の「M-47」は超ワイドなストレートシルエット。

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大部分のディテールはアメリカ軍の「M-43」をベースとするが、生地には厚みのあるコットンツイルを採用。

さて、モデル名の通り1947年からフランス軍に採用された今作は、その後も60年代まで製造が続けられた。長く活躍した名機ゆえに、時代に応じた多少の変遷あり。現在では前期・後期のふたつに分けるのが一般的とされる。

前期モデルの特徴としてまず挙げられるのが、迫力たっぷりの極太シルエットだろう。【前編】で紹介したUSミリタリーパンツの元祖「M-43」をベースとするため、サイドのカーゴポケットとともにオフィサーパンツ的なストレートラインを備えている。

フロントのトップボタンはふたつ。

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裏地にはサイズを表す「45」ほか、製造年を意味する「1954」を記載するスタンプも。

一方で、M-43とは異なるディテールも装備する。シンプルで簡易すぎるがゆえに“現場”のアメリカ兵から不評を買ったという事実を鑑み、実用的アップデートが施されたのだ。カーゴポケットの上部にスラッシュポケットを設け、バックにもフラップ付きポケットを配置。ポケットの数がふたつから6つに増えたことで、利便性は確実に増した。

また、カーゴポケット自体にも進化の証しが。フラップ下にふたつのボタンを備え、内容量の多少によって2段階の留め分けが可能に。シーンに沿った微調整、これぞフランス的気配りと称賛すべきか。

バックにもフラップ付きポケットを配置。

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前期モデルのアジャスターストラップには付け根部分に閂止めが見られるのも特徴。

膝は別布を当てたダブルニーで、耐久性が求められる生地には厚手のコットンツイルを採用。ミニマルながら力強い表情が、ワイドストレートの頼もしき佇まいと正当なマッチングを見せる。

そのシルエットの先端、パンツの裾にまで目を伸ばせば、痒いところに手が届く粋なあしらいが。戦時中の軽やかな足運びに貢献する裾幅調整用のアジャスターストラップは、翻って現代ではシルエットの変化が楽しめるファッション的意匠として機能する。

ほか、前期モデルはフロントのトップボタンを2個装着。ちなみに最初期のモデルはボタンを3つ備えている。いずれにせよ古い年代型のM-47はとりわけ希少価値は増加傾向にあり、ミントコンディションのアイテムは枯渇気味。発見次第、早急な確保を。

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【ユーロミリタリー編 02】
「M-47」後期モデル
生地とシルエットのマイナーチェンジで
上品な印象を獲得

お次はM-47の後期モデル。約20年間にわたって製造された傑作のなかでも、1960年代に作られたパンツがそう呼ばれている。そこにはリーバイスの“66モデル”同様、僅かながら確かな差が存在。その絶妙なニュアンスを楽しむファンが多いことからも、本物への深き愛情が再認識できよう。

前期モデルとは異なり、「M-47」後期モデルのラインはテーパードを描く。

ユーロミリタリー_ミリタリーパンツ_ミリタリーウェア_M-47後期_02

生地はヘリンボーンに“原点回帰”。

前期モデルとの第一の違いは、テーパードが効いたシルエットにある。裾にかけてややタイトに狭まるラインが、どことなく上品な印象を放出。ミリタリーらしからぬ洗練までも香る、実にヨーロッパ的な出で立ちだ。

フロントのトップボタンはひとつだけに変更。

持ち前のテーパードシルエットは裾のアジャスターで調整可能。

素材はコットンツイルからヘリンボーンに変容。アメリカ産のM-43にも使われていた綾織り生地は、高い強度とともに縫製のしやすさ、さらには着心地の軽さも武器とする。「ニシンの骨」を意味するように、独特の織り柄がビジュアル的アクセントにもなる。

カーゴポケットやバックポケットの仕様は前期のそれと変わらない。

フロントのトップボタンは前期に比べて減り、ひとつだけに。かたや、カーゴポケットのボタンはふたつのままである。裾のアジャスターも健在ながら、付け根のカンヌキは省略されている。必要に応じた足し引きは、究極の機能服がゆえ。あらためて、地に足のついたモノ作りに感心させられる。

前期で見られたアジャスターのカンヌキは省略。

前期で見られたアジャスターのカンヌキは省略。内タグのサイズ表記にも変化が見られる。

ところで、前期・後期ともに裏地に記載されたレトロなサイズ表記も見どころのひとつ。スタンプ左の数字がレングス、右がウエストを表し、前出の前期モデルが「45」だったのに対して写真の後期モデルは「33」との羅列が。

数字が大きくなるにつれてサイズ感もビッグになるのは間違いないが、単位や基準には少々の疑問が残る。その辺りの不思議な感覚もまた、面白いではないか。

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【ユーロミリタリー編 03】
「M-64」
ヒップ周りにヒネリを加えた
戦うパイロットのための服

3本目の本物も、フランス軍からデリバリー。1964年にフランス空軍が採用したM-47の後継モデル、その名も「M-64」である。

「M-65」のシルエットは「M-47」後期モデルと比べていっそう大胆にテーパード。

ユーロミリタリー_ミリタリーパンツ_ミリタリーウェア_M-64_03

生地はコットンサテンだ。

両サイドにポケットが付いたカーゴパンツの体裁を取ることはM-47と相違ないが、その印象は激変。特有の光沢感を備えたコットンサテン地の採用とともにイメージチェンジの大きな要因となるのが、より絞りの効いたテーパードシルエットだ。

落下防止用のボタンを備えるサイドポケット、省略されたバックポケットは、ともに空の戦闘服に求められる機能性を代弁。

また、バックビューにも理由ある変化が散見。常時コックピットに座る空軍兵士の相棒だけに、背面に備えられていたポケットは姿を消した。さらに、摩耗が激しいヒップ部分は裏から生地が当てられた二重構造に進化している。

両サイドのスラッシュポケットは落下防止のためかボタン付きに変更され、カーゴポケットの2段階調整機能を排除する代わりに中身が出にくいよう折り返し式の構造になるなど、細かな修正もファンマインドをくすぐる。

カーゴポケットは収納物のこぼれ落ちを防ぐ折り返し式。

裾にはアジャスターに代わってドローコードが。

裾のあしらいも様変わりし、アジャスターがドローコードへとリニューアル。これにより調整の幅が広がり、より十分なフィット感が得られるようになった。なお、ヒップ同様に裾部分にも裏地が当てられている。

内タグには製造年とサイズ表記が。サイズの読み方は「M-47」と異なるので注意が必要。

写真のモデルは、内タグから察するに1968年製。同じく内タグには「92」と記載され、こちらはウエスト92cmを意味する。左がレングス、右がウエストを示していたM-47とはこの点でも異なるので注意されたし。

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【ユーロミリタリー編 04】
「イタリア軍コンバットパンツ」
今の気分にも合致する
スタイリッシュミリタリー

ところ変わってイタリア。彼の地の陸軍「ESERCITO ITALIANO」が1970〜80年代に採用した野戦用コンバットパンツを紹介したい。ちなみに今作、近年は弾数が激減。ユーズド市場でもなかなかお目にかかれないレアアイテムと化している。

カジュアルにも合わせやすい、すっきりした印象のコンバットパンツ。

ユーロミリタリー_ミリタリーパンツ_ミリタリーウェア_イタリア軍コンバットパンツ_03

ポリエステル×コットンの生地も実用性に富む。

すっきりとしてやや細身、そして美しいテーパードシルエット。“ファッションの国”に相応しいスタイリッシュなミリタリーパンツは、ストリート目線でも好印象に写る。それでいて“本物”の血が流れるのだから、人気が高まるのは必然であろう。

ボタンフライのフロントとフラップ付きのバックポケットは、ミリタリーパンツの王道ともいうべき佇まい。

全体のイメージだけでなく、ディテールも流麗。ミリタリーパンツの代名詞ともいうべきカーゴポケットは見当たらず、両サイドのポケットにはボタン留め仕様のフラップが付く。さらっとしたポリエステル×コットンの質感も、今の気分のデイリースタイルと相性抜群だ。

フロントはボタンフライで、バックにはフラップポケットを完備。この辺りはこれまで紹介したミリタリーパンツと大差はない。となれば、これらはある種の到達点なのだろう。

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別布を当ててステッチングされた膝は、ミリタリーパンツに必須のタフネスを物語る。

膝の仕様はダブルニー。楕円形の当て布にステッチが走るディテールは、ミニマルデザインの中で映える控えめな見せ場のひとつだ。そしてもうひとつ、裾の仕立てに他のミリタリーパンツとは異なる個性が隠されている。

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シャーリングとマチ布付きのジップを備えた裾も今作のハイライト。ジップはイタリアの〈LAMPO ランポ〉製。

ご覧の通り、シルエット調整用のジップを抜擢。ファスナーを開くとマチ布が顔を出し、また違った雰囲気が楽しめる。もっと言えば、このジップ自体にもこだわりが。「世界一美しい」と謳われるイタリアの老舗〈LAMPO ランポ〉製で、ファン垂涎の逸品なのだ。裾はゴムシーリングのため、簡易的な調整ができる点でも秀逸である。

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【ユーロミリタリー編 05】
「イタリア軍グルカショーツ」
涼しげな見た目がリゾートも匂わせる
サマーミリタリーの代名詞

今年の夏も例外なく暑い。であれば、涼しげなミリタリーパンツにも照準を合わせるべし。ご存知「グルカショーツ」も、本物を選べば存在感は格別である。

年頃の読者であれば1980年前後にサファリスタイルで一世を風靡した〈BANANA REPUBLIC バナナ・リパブリック〉のそれを想像するかもしれないが、本来「グルカ」とはネパールの山岳民族から構成される勇猛な戦闘部隊のこと。彼らが好んで履いていたとされるパンツを原型とするのが、各国のグルカショーツだ。話は逸れるが、今や夏の定番として根付いたグルカサンダルも同様の文脈を持つ。

当時のグルカ兵は英国植民地インドの傭兵だったため、イギリス軍のグルカショーツが特に有名。それらはイングリッシュ・グルカショーツやブリティッシュ・アーミーショーツ、もしくはコロニアルアーミーショーツやコロニアルショーツなどと呼ばれる。

ネパール人兵士の履いたパンツをルーツに持つ「グルカショーツ」。戦闘服ながら、ゆったりしたシルエットはリラックス感たっぷり。

ただし、今回取り上げるのはイタリア軍のモデル。ほか、オーストラリア軍にもグルカショーツも存在するが、先ほどの説明を踏まえればイギリス軍のものに比べて希少な固体だと言えよう。王道のベージュカラーではなく、茄子色の風合いも通好み。ネイビーゆえの清涼感も味わえる。

フロントはボタンフライ。バックポケットは片側にひとつだけ。

シルエットはゆったりで、リラックス感上々。リアルミリタリーながら、リゾート的雰囲気を醸す独特のルックスを持つ。膝丈で股上は深く、両サイドにはスラッシュポケットが備えられた。バックポケットは簡素化され、片側にひとつだけ。この軽快さも、ショート丈のビジュアルにマッチしている。

ウエストベルトに配されたダブルストラップが印象的だ。

そしてグルカショーツ最大のハイライトが、腰回りのデザインだ。すべからく幅広のウエストベルトを有し、そのうえで多彩なストラップデザインを持つモデルが顔を揃える。写真のグルカショーツは、シンプルかつエレガントなダブルストラップ仕様。ほかにもダブルストラップが交差するタイプなど、多様なバリエーションが現存する。いずれも真夏のタックインスタイルのアイコンとして、積極的な活用を推奨したい。

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【ユーロミリタリー編 06】
「イギリス軍コンバットトラウザー」
構築的な仕立てから垣間見える
英国テーラリングの誇り

次がいよいよ12本目。アメリカからヨーロッパに及ぶミリタリーパンツを巡る旅も、ようやくゴールが近づいてきた。トリを飾るのは、他国のモデルとは一線を画すイギリス軍のコンバットトラウザーパンツだ。

通称「1960 Pattern」は、股上が深いテーパードシルエットを持つ。

ユーロミリタリー_ミリタリーパンツ_ミリタリーウェア_イギリス軍コンバットトラウザー_03

厚手のコットンサテン製。

今作は英国製ミリタリーパンツのなかでも1960年に支給が始まったモデルであり、その証左となるのが内タグに表記された「1960 Pattern」の文字。それはそのまま、このパンツの通称としても知られている。

デザインにおいて目を引くのは、やはりアシンメトリーなポットの配置だろう。右フロントには縦⻑のマガジン(弾倉)ポケットを、対する左側には大振りなマップポケットを装備。両サイドのスラッシュポケットに加え、このふたつの左右非対称な収納部が構築的なイギリスの仕立てを匂わせる。

アシンメトリーのフロントデザインがアイコニック。フロントはジップフライを採用。

フロントはダブルジップ仕様で、ボタンフライに比べるとモダンな面持ちに。バックスタイルはフロント同様にアシンメトリーデザインが採用され、右側にだけ大型のポケットが配された。バックポケットは取り付け方もユニークで、物が出し入れしやすいように口が斜めになっている。

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バックスタイルもアシンメトリーで、内側にはサスペンダーボタンを装備する。

そのほか、サスペンダーボタンやウエストのアジャスターなど、どこかテーラリングを感じさせるディテールは総じてイギリスの優位性を物語るもの。美しいテーパードシルエットもファッショナブルな、知る人ぞ知る傑作である。

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戦場で磨かれしタフウェア、ミリタリーパンツ。そんなルーツとは裏腹に、ストリートでは今日も多くの着用者が平和裡に闊歩する。カジュアルウェアとして定番化したそれらは、実に多彩で自由。そこに争いのニュアンスは介在せず、だからこそファッションは面白い。

ただし、本物と定番は似て非なるものだ。本物なくして定番は生まれない。ならば、オリジンたるミリタリーパンツにリスペクトを込めて。そして、ネガティブが絶えないこの世界で現状に抗うプライベートアーミーよろしく、永遠のラブ&ピースを祈って。明日もまた、ミリタリーパンツが履きたくなる。

(→「ミリタリーパンツの名作と種類を知る 〜USミリタリー編〜」はこちら)

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