INTERVIEW
GORE-TEX STORY

〈GORE-TEX〉とは?素材メーカーながら、完成品まで防水性を保証する。ゴアテックスの魅力を紐解く。

GUARANTEED TO KEEP YOU DRY.

〈GORE-TEX ゴアテックス〉の名が世界に響き渡り、そのテクノロジーを活用したウエアが高性能品と広く認識されている理由は、この言葉に凝縮されている。

あなたをドライに保つことをお約束します。

現在において、防水透湿性を備える生地はごまんとあふれている。それでも尚、ゴアテックス製品に高い信頼が寄せられているのは、「業界のパイオニアであること」「防水透湿性を保証していること」が理由に挙げられる。なぜ、これほどまでゴアテックスに惹き付けられるのか。日本ゴア社の小木曽晃子さんにお話を伺い、改めてその魅力を紐解いてみた。

〈GORE-TEX ゴアテックス〉の防水透湿性は
かつてないイノベーションだった。

まずは、アウトドアシーンにおける機能素材の歴史を振り返ってみる必要がある。

20世紀初頭まで富裕層の趣味とされた登山は、大衆文化の発展とともに一般庶民のものとなり、過酷な環境下における行動をサポートする機能ウエアも続々と登場してきた。例えば保温性の点では、重量があるニットセーターに代わってダウンジャケットが1936年に発明され、急速に利用が広まった。また、天候が変わりやすい登山ではレインウエアも欠かせない。当時はゴム引きの防水布が最善手で、たしかに雨風を通さない代わりに重量があり、さらに通気性が一切ないため蒸れによる汗冷えが登山者たちの悩みとなっていた。

「そうした中、世界で初めて、外からの水は通さないが内からの湿気は通すという生地を提供したのが、ゴア社でした」

この防水透湿性を実現しているのが、1969年に開発された「ePTFE」というフッ素樹脂で作られた「GORE-TEX メンブレン」だ。厚さは約0.01mmという薄い膜ながら内部は複層的に絡み合っており、1 c㎡あたり14億個の微細な孔(あな)が空いている。この孔の大きさが水滴に対しては約1/20,000、水蒸気の分子に対しては約700倍であるため、水滴は通さないが水蒸気はすんなり通り抜けるという奇跡的な特性を実現している。

ごく薄い膜でできた「GORE-TEXメンブレン」。

GORE-TEXメンブレンの表面を電子顕微鏡で拡大してみたところ。この孔の絶妙な大きさが、防水透湿性を実現している

これがePTFEの原料となる蛍石。これを出発原料として「GORE-TEXメンブレン」が合成される

「現在、ePTFE自体は珍しい存在ではなくなりました。しかし当社は60年かけて洗練させてきた実績があり、積み重ねてきた技術力と知識量は他社の追随を許しません」

これが先進の技術を求めるアウトドア業界において、常にアドバンテージを取り続けている理由だ。

「GORE-TEXメンブレン」(右)とビニール(左)の透湿性比較実験。お湯を注ぐとどちらも水漏れはしないが、GORE-TEXメンブレンのほうはすぐにコップの内側がくもりはじめる。一方、ビニールのほうは内部に変化がない

保証制度の導入が〈GORE-TEX ゴアテックス〉を
世界的ブランドへと押し上げた。

GORE-TEXプロダクトがブランドとして確立する大きなきっかけとなったのが、1991年から防水性を保証する制度をスタートさせたことだ。

開発元のゴア社は化学メーカーであり、開発当初はGORE-TEXファブリクスもアウトドアブランドの依頼に従って納品しているだけだった。しかし、その納品先が生地特性に無配慮だったり縫製技術が未熟だったりすれば、本来期待されていた機能を実現できないかもしれない。最終製品としても防水透湿性を維持していなければ、GORE-TEXファブリクスのポテンシャルを引き出すことはできない。そこでこの保証制度を開始し、ブランドの製品製造現場に直接関与するようになった。

具体的には、素材提供先メーカーとライセンスプログラムを組み、
・指定条件を満たした認定工場のみでの製造
・商品化される前の厳格なテストの実施
を行っている。

認定工場には、GORE-TEXファブリクスの特性を理解しているか、シームテープを貼るのにゴア社認定のスキルを持っているかといった課題をクリアしていることが求められる。認定工場は世界各地に存在しているが、その数は決して多くはないという。認定を得るため、ゴア社のコンサルタントが技術的なアドバイスを行うこともある。

そして、製品はすべてサンプル段階で厳密なテストを受ける。

「ゴアは社内にウェザーマシンを持っています。様々な雨天条件を再現できるよう設計されたレインルーム内にサンプルを設置し、小雨から暴風雨まで様々な気象条件を再現します。衣服内にセンサーが取り付けられ、水の侵入を確認したら即座にアウト。水がどこから侵入したのか徹底的に検証され、改善されるまで製品化は果たされません」

生地そのものだけでなく、シームテープの貼り付け方やフードの形状など、チェックポイントは縫製や構造にまで及ぶ。

「例えば高所登山用ウエアであれば、横からも吹き付けてくるような強い雨のときに袖口やフードの隙間から雨が入ってきてしまうと、命に関わってくる可能性もあります。そのため、このようなウェアの製品化においてはシビアな試験をクリアする必要があります」

レインルームではウエアの防水設計を試験している

なお、製品によって求められる機能性の度合いは異なる。同じGORE-TEX製品で、ゴア社として保証できる防水透湿性は備わっていても、アウトドア用ハードシェルと街使いを基本としたアウターでは評価基準は異なり、たとえば同じGORE-TEX アウターであっても、必ずしもフードや袖口のベルクロが付いているとは限らない。この他にも数多くのテストを行い、製品の特性に応じて人間が実際に着用してのフィールドテストを行うこともある。

このように製品化にあたってはゴア社も積極的に関わってくるため、ブランドと緊密なコミュニケーションをとり、お互いの品質に対する姿勢に共感しあうことが不可欠だ。

「ブランドとの取り組みを始めるにあたり、そうしたものをいちから積み上げなければならないこともあり、時間をかけて環境を整えています」

素材を売って終わり、ではないのだ。

3つのプロダクトクラスを展開。

ゴア社では、その歴史の中でさまざまな機能素材が生まれてきた。改めて整理したい。

まず正しく認識しておきたいのは、ウエアにおける「プロダクトクラス」と「テクノロジー」だ。プロダクトクラスは製品全体を指す上位のカテゴリで、テクノロジーは生地素材など個々の技術を指している。

現在、ゴア社のプロダクトクラスは、大きく次の3つに分類される。

・GORE-TEX プロダクト
最も汎用性が高く、アウトドアからタウンユースまで最も多くの製品に採用されているプロダクトクラス。

・GORE-TEX Active プロダクト
防水性を備えながら、なによりも透湿性が高く、軽量。激しい有酸素運動において理想的な快適性を実現。

・GORE-TEX Pro プロダクト
高度な防水透湿性を実現しつつ、優れた耐久性を備えた生地とメンブレンを使用。高所登山などに関わるプロのアスリートやガイド向け。

これら3カテゴリには、いずれも品質保証を謳った黒のハングタグが付く

過去には「GORE-TEX XCR®」といったテクノロジー名を刺繍した製品も登場していたが、2010年代前半の刷新で整理統合され、この3つのプロダクトクラスとなった。実際に製品を購入する場合は、まずこの3カテゴリが目安となる。

なお、性能の差は用途による違いであり、優劣ではない。あくまでも製品の用途に最適なテクノロジーを採用している。

以下に挙げるのは、ゴア社が保有するテクノロジーの一例だ。

・GORE-TEX PACLITE® プロダクトテクノロジー
・GORE® マイクログリッドバッカーテクノロジー
・GORE® C-KNIT™ バッカーテクノロジー

いずれも技術的なもので、製品そのものは3つのプロダクトクラス内に属する。

この他、フットウエア用テクノロジーとして「GORE-TEX SURROUND® プロダクトテクノロジー」、「GORE® Invisible Fit プロダクトテクノロジー」がある。

ゴア社のテクノロジーを採用したウェアの中には、特定業界向けの製品もある。この「GORE-TEX PYRAD® ファブリクステクノロジー」は救護活動用に開発されたもので、防水透湿性だけでなく、耐炎性と帯電防止性能を備えている

自由な発想を実現する白のハングタグが登場。

ゴア社の新たなる試みとして2018年秋にスタートした新ブランドが、GORE-TEX INFINIUM™ プロダクトだ。GORE-TEXの素材や技術を応用しつつ、防水性よりも快適性とパフォーマンスが優先される多様なシーンに適した製品群で構成されている。

「GORE-TEX INFINIUM™プロダクト」には、この白いハングタグが付く

「GORE-TEX INFINIUM™プロダクト」より2018年秋に展開される新テクノロジーのひとつが「GORE-TEX INFINIUM™ ソフトラインド・ガーメント」である。メンブレンが露出しているため表面の撥水性に優れ、ソフトな手触りでフリース素材の裏地が保温性も実現している。

モンベルから発売された、「GORE-TEX INFINIUM™ソフトラインド・ガーメント」を採用した「ビエントクロスジャケット」

実は、似たような製品群として「GORE® WINDSTOPPER® ガーメント」がある。


こちらはGORE-TEXと同じePTFEから作られた非常に薄い保護層である「GORE® WINDSTOPPER® メンブレン」を採用しており、優れた防風性と高い透湿性を備えているが、これまでのように防水性重視の製品ではないため、防水性についてはGORE-TEXプロダクトと同等の保証はされていない。だが、軽さ、しなやかさ、デザイン性など表現の自由度が高いため、幅広いシーンで活用できる。

保証制度がGORE-TEXの価値を高めたという歴史的経緯からすると、この2つはやや奇異な存在にも思える。しかし、アウトドアウエアがタウンユースへと進出し、その立ち位置が大きく変化する中、厳密なスペックだけを求めるだけでは技術的な硬直を招いてしまいかねない。これらの取り組みは、時代の変化に柔軟に取り組もうとする姿勢の表れでもあるのだ。なお、そのスタンスの近さから、GORE® WINDSTOPPER®は2019年にGORE-TEX INFINIUM™プロダクト内に統合される予定だ。

今後ゴア社は、GORE-TEXプロダクトとGORE-TEX INFINIUM™プロダクトを2つの柱として展開していくという。

「優れた機能を備えながら、実に幅広いプロダクトを展開しているのがGORE-TEXブランドの魅力でもあります。アウトドアシーンで使えるのはもちろんですが、柔らかくしなやかでありつつ撥水性を備えているなど、タウンユースでも優れた機能を発揮するウエアなどもありますので、ぜひ利用されてみてください」

※オークション、リユースショップ、個人間の売買などで購入した製品は保証対象外となります。

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