しなやかな〈グラミチ〉とともに、あの山を越えていけ。
今夏はこれまでにないほど、身体が汗を求めるだろう。だが一方で、頭はクールに保ちたい。どんなアクティビティに挑むのも、まずは計画ありき。逆に言えば、どんなに高い山だって良い準備さえあればきっと踏み越えていけるのだから。
だから〈GRAMICCI グラミチ〉。アクティブに、スマートに。特別な夏への第一歩は、特別なパンツとともに。
ブランドの礎を築いたのは、
天から多彩を授かった男。
ブランドが誇る名作たちを紹介する前にも、念入りな下準備を。ひとまず歴史から触れていこう。グラミチの創業は1982年。アメリカはカリフォルニア州にて産声を上げた。
日本の1.1倍という面積を誇るこの巨大な州の東部には、かの「ヨセミテ渓谷」が広がる。世界最大の花崗岩「エル・キャピタン」をはじめ、〈THE NORTH FACE ザ・ノース・フェイス〉のロゴモチーフにもなった断崖「ハーフドーム」などの名所が点在し、世界中からクライマーが集まるロッククライミングの殿堂だ。
(→〈THE NORT FACE〉に関連する特集記事は、こちら)
1970年代初頭には、そのヨセミテでフリークライミングという新しいスタイルが誕生した。ムーブメントを先導したのは、伝説的クライマー集団「THE STONE MASTERS」。命知らずの彼らはみな、当時の鬱屈した社会に立ち向かうかのように険しい山に挑戦した。自由と本質を謳歌していた。そして、個性派揃いのメンバーのなかでも一目置かれていた人物が、マイク・グラハムだった。独特なファションセンスを持った彼の愛称は、ずばり「グラミチ」。そう、彼こそがグラミチの創業者である。
マルーンカラーの長髪をなびかせ、しなやかに断崖絶壁を登っていく。その端正なルックスからは想像できないほど力強いクライミングを見せるマイクは、まさに天から二物を与えられた男だった。いや、さらにもうひとつ“ギフト”を授かっていた。クライミングギアの製作においても恐るべき才能を発揮するのだ。
前のギアから始まった彼のクリエイションは、まず仲間内から絶賛を集め、ビッグビジネスにつながっていく。その背景には、1970年代のアメリカにおけるアウトドアウェア全体の流れも関与した。それまで主流だったツィード生地のニッカボッカーズから、ナイロンパンツやジーンズへとトレンドが変化。しかしその新たなウェアは耐久性などの機能面では十分とは言えず、クライマーであるマイクの作る“本格派”が、相対的かつ絶対的に評価を高めていく。
ちなみに、マイクの多彩な交遊録には〈Patagonia パタゴニア〉の創始者であるイヴォン・シュイナードとの関わりも含まれている。事実、マイクはパタゴニアのアイテム製作を担当したことすらあったそうだ。本物は本物を知る。その好例といえよう。
(→〈Patagonia〉に関する特集記事は、こちら)
「G-SHORTS Gショーツ」
画期的な2つのディテールを携えて。
ここからの主役は、今なお世界中で愛されるグラミチの傑作群。トップバッターは、暑い季節に相応しいショートパンツ「G-SHORTS Gショーツ」に一任したい。
1980年代の誕生以来、シルエットやディテールに少しずつ手を加えながら、いつの時代でも圧倒的な支持を得る今作。そこには、創業者のクライマーとしての知見が凝縮されている。最大のキモは、股下に設けられた「ガゼットクロッチ」だ。
クライミング時に必須な開脚を妨げないよう、股下の可動域を180度にまで広げるこのディテール。今でこそグラミチの代名詞ともなったが、当時はあまりに画期的であった。しかもその発想のきっかけが、実はブルース・リーに隠されていたというのだ。
稀代の格闘家・俳優が映画の中で華麗に決めた蹴り技を見て、彼の履いていたカンフーパンツのようなボトムスこそがクライミングに不可欠だと直感。なんともユニークなこの逸話も、人気爆発の要因と見るべきだろう。
またもうひとつ、ウエスト部の「ウェヴビングベルト」も後世に受け継がれる名脇役である。片手で容易に調整可能なこのベルトは、登山家が背負うデイパックのハーネスから着想を得たもの。マイクが前述のパタゴニアらクライミングギアの製造委託を受けていた時期に、自宅ガレージに溢れていた資材から閃いたそうだ。
写真の1本はやや太めのシルエットで、リラックスした履き心地を叶えてくれる。フロントにファスナーを用いないシンプルデザインは、無駄を削ぎ落としたクライミングウェアならでは。
「GRAMICCI PANTグラミチパンツ」
街でも長く愛される
定番のフルレングス。
お次は、揺るぎなき絶対定番のフルレングス。ブランドの名前を堂々と冠した「GRAMICCI PANTグラミチパンツ」にご登場願おう。先のGショーツ同様、ガゼットクロッチとウェビングベルトの二大巨頭は当然備えられている。
シルエットは若干ワイドなテーパード。着用者の体型を問わずコーディネイトの幅が広い、いわゆる鉄板の形だ。ゆえに山だけでなく街での着用率も高く、多くのファッションブランドがコラボレーションを熱望するのも頷ける。
フロントデザインはファスナー付きの前開きとなり、ウェビングベルトにも今作から改良が施されている。片手で締め付けを調整できる点は不変ながら、バックル部分が開閉式に。もし不意に外れても危険性が少なく、かつ着脱すらも容易にする“街向け”のアップデートと捉えられよう。
ところで、グラミチを日本に初めて持ち込んだ人物をご存知だろうか。以前にknowbrand magazineでも取り上げた〈ANATOMICA アナトミカ〉の寺本欣児こそが開拓者である。1991年、アメリカのメイン州にある〈L.L.Bean L・Lビーン〉本店に訪れた氏がグラミチを発見し、並行輸入をスタート。〈Needles ニードルズ〉の生みの親である清水慶三によるショップ「Redwood レッドウッド」の店頭に並んだ。
やはりタフネスかつファッショナブルなグラミチのポテンシャルは、広大な山を持ってしても収めるに十分ではなく、街への普及は必然だったのだ。
(→〈L.L.Bean L・Lビーン〉に関する特集記事は、こちら)
(→〈ANATOMICA アナトミカ〉に関する特集記事は、こちら)
(→〈Needles ニードルズ〉に関する特集記事は、こちら)
「NN-PANT NN-パンツ」
質実剛健にして華麗なる
クライミングパンツ。
写真を見てお分かりの通り、グラミチパンツより幾分スレンダーな仕立て。「NN-PANT NN-パンツ」の美しいシルエットは、ストレッチ生地の採用により快適な履き心地との共存を見せる。
ヒップ周りもコンパクトに設計され、アウトドアウェアにありがちな野暮ったさは皆無。一方でグラミチらしさを代弁する股下のガゼットクロッチ、腰回りのウェビングベルトはしっかりと装備する。華麗に見えて、質実剛健。その巧みな塩梅からか、ここ日本での支持率がすこぶる高い。
人気に拍車をかけた要因として、傑作バリエーションの存在も挙げられる。「STRETCH DENIM NN-PANT ストレッチデニムNN-パンツ」は、ストレッチマテリアルを10オンスのデニムに変更。夏に向けては、涼しげにフェードした写真のようなモデルをおすすめしたいところだ。
なお、モデル名に付く「NN」は「ニューナロー」の略。かつて展開していたナローパンツをブラッシュアップしたパンツとして、ブランドの足跡を刻んでいる。
「LOOSE TAPERED PANT
ルーズテーパードパンツ」
シルエットとレングスの遊びで
軽快なデザインに。
スリムシルエットのNN-パンツとは打って変わって、ルーズフィットのご紹介を。「LOOSE TAPERED PANT ルーズテーパードパンツ」という直球のネーミングが、そのルックスをほぼすべて表現している。
「ほぼ」としたのは、ここまでお見せしたモデルにはない魅力をもういくつか忍ばせているから。まずは軽快なクロップド丈。この絶妙な処理が、ワイドパンツらしからぬすっきりとした足元を実現する。
もうひとつが、フロント左右に付く大きなL字型パッチポケットだ。ベイカーパンツを思わせるディテールは収納力たっぷりで、デザインのアクセントとしても機能。フロントだけでなくバックにももちろんポケットが付き、それらはクライミング由来のベルクロ仕様となっている。
お察しの通り、ガゼットクロッチとウェビングベルトも漏れずに配備。後者はウエスト中央部でのみ表に露出するが、これはチョークバッグをカラビナで吊り下げるクライミング的発想に由来する。
(→「ベイカーパンツ」に関する特集記事は、こちら)
「GADGET PANT ガジェットパンツ」
多彩な収納で手ぶら派も納得。
これまでハイスピードでブランドの作品群を駆け上ってきたが、もうじき本稿も頂上へと到達。ラストは、クライミング中や街中だけでなく夏のアクティブシーンでも大活躍必至の「GADGET PANT ガジェットパンツ」をご覧いただきたい。
ガゼットクロッチ、ウエストの片側にだけ露見したウェビングベルトは言わずもがな、特筆すべき特長はユニークなパターンワークだ。多くのパーツを組み合わせて形成されているため、動きやすさは格別。必然的に縫い合わせが多くなる分、履き込むほどにパッカリングが表れ、独自の味として育っていく。
個性にさらなる追い打ちをかけるのが、両サイドの大振りなポケット。フロントからバックまでぐるりと回り込むデザインは、収納面で比類なき頼り甲斐を発揮する。手ぶらで街を散策するのはもちろん、キャンプなどで様々なツールを携帯する時にも効果的で、まさしく我々の“これから”を期待させる夢のパンツとなりえるのだ。
クライミング。それは単なる山登りにあらず、自らを表現するスタイルだ。グラミチは力強く、そしてしなやかに目標を制覇していく。それはブランドの創設者であるマイク・グラハムが要職を退いた後も変わらない。
道中、マイクは実際にグラミチとは異なるルートを模索。「ROCK(岩)」と「EXTREME ACTIVITIES(クライミンク)」を掛け合わせたネーミングのブランド〈ROKX ロックス〉を2000年に始動させた。
そしてマイクは常に、自らに語りかける。「Who am I, Really?(自分たちはいったい何者なのか?)」と。その答えは、おそらく自分しか知りえない。そして、眼前の山を越え続けることでしか辿り着けない境地なのだろう。