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“永遠のアメカジ”を知る〜〈ハミルトン〉とは〜 「ベンチュラ」「パルサー」「ジャズマスター」etc. 定番・人気時計【前編】

生きとし生ける全ての生命に平等に与えられる“時間”。我々の祖先は、本来であれば目には見えないそれを長さの異なる3種類の針で視覚化するだけでなく、懐に入れることでどこにいても時刻を正確に知ることが出来るようにし、さらに持ち運びを容易にすべく手首に巻いた。こうして誕生したのが腕時計である。

やがてそれは、時を知る道具という本来の用途に加え、“良品を身に着けることで自身を格上げする”という服飾品としての性格を持つように。今やスマホさえあれば時間を知ることは容易い。しかし、己の装いに一家言を持つ者にとって、優れた実用性とスタイリングにもたらす存在感、そして物欲を満たすモノとしての魅力を兼ね備えた腕時計を持つことは、何よりの贅沢であり、大人の嗜みに他ならない。

とはいえ常に身に着けると考えるならば、タフでオリジナリティに溢れ、なおかつ長く愛することの出来る“アメカジの如き”相棒を選びたい。そう考えるのがknowbrand magazine読者諸氏であるのも重々承知。そこでピックアップする今回の主役は、アメリカが生んだ名門〈HAMILTON ハミルトン〉。

アメリカ独立の中心地で誕生し、
アメリカの発展と共に成長を遂げた名門。

早速、本題に移りたいところだが、まだ焦る時間ではない。時計の針を戻して、まずは約130年にも及ぶ足跡を1歩ずつプレイバックしてみよう。設立は1892年。都市部以外は山と森が多く、起伏に富んだ地形の中に小さな田舎町が散見されるアメリカ東部のペンシルベニア州。〈HAMILTON ハミルトン〉という社名は、アメリカ独立宣言の起草がなされたことから“アメリカ独立の中心地”とも呼ばれる同地で植民地総督及びフィラデルフィア市長を務めた、ジェイムズ・ハミルトンの名に由来するとか。

創業当初、懐中時計を製造していたハミルトンは、鉄道の発展と共に大きく成長を遂げる。黎明期の鉄道は、正確な時刻で運行することが出来ず、事故を頻発し人々の頭を悩ませていた。そこにハミルトンの作り上げた高精度な懐中時計が導入されたことで、問題解決に大きく貢献。この功績が認められ、名誉ある称号「The Watch of Railroad Accuracy=鉄道公式時計」を獲得し、同社の懐中時計はアメリカ合衆国の鉄道員たちにとって、正確な時を知るための必需品となった。

次なるターニングポイントは1914年。アメリカ軍のオフィシャルウォッチサプライヤーになったのを機に、懐中時計から、より利便性の高い腕時計の製造へと路線変更。第二次世界大戦下では軍用時計を供給し、1942年から1945年まで腕時計やマリンクロノメーターなど100万個以上を納入。工場をフル稼働するも生産が追いつかず、一般用時計の製造を中止したという。その甲斐もあって、戦争機器の生産における卓越性を達成した企業に贈られる「Army-Navy‘E’Award」を受賞し、名声を確固たるものにした。

やや時を遡り、1927年。リチャード・E・バード海軍少尉が飛行機で初めて北極点へ到達。この時、彼の腕に巻かれていた腕時計の存在が知られると、パイロットたちの間でも愛用者が続出。1930年代にはアメリカの主要民間航空会社4社の公式時計に採用。さらにニューヨーク〜サンフランシスコ間の初の大陸横断便の公式タイムキーパーにも選出され、空へも可能性の翼を広げる。そして時は流れて1969年。人類が初の月面着陸を成功させたこの年、創業以来稼働し続けていた米国内工場をすべて閉鎖した同社は、スイスに拠点を移す。

時を同じくして、日本の〈SEIKO セイコー〉が世界初のクオーツ式腕時計を発売。これまでの主流であった機械式を凌駕する精度の高さと、ローコストに業界震撼。世にいう「クォーツショック」が始まり、多くの時計メーカーが時代の波にのまれて消えていく中、ハミルトンもまた大きな決断の時を迎える。1974年5月16日、スイスの時計メーカー〈OMEGA オメガ〉と〈Tissot ティソ〉の合弁会社で後のスウォッチ・グループとなるSSIHの傘下に加わったのだ。以降、本格的なスイスメイドのウォッチメーカーへと生まれ変わり、現在へと至る–。

ザッと足速に駆け抜けたが、ここからがいよいよ本題。この【前編】では、数あるハミルトンの名作の中から、特にアイコニックなモデルに焦点を当てていく。

〈HAMILTON〉の定番・人気時計①
「VENTURA ベンチュラ」レザーベルト
ブランドを象徴する
“キング・オブ・ロックンロール”ウォッチ。

まずはハミルトンを語る上で、避けては通れない象徴モデルについて述べる。デビューは1957年。第二次世界大戦後の好景気によって、中流階級が台頭し、大きな経済発展を遂げたアメリカ。生活が豊かになり、大人でも子供でもない若者=ティーンエイジャーがクローズアップされるそんな時代の真っ只中に、“世界初のエレクトリックムーブメントを搭載した電池式腕時計”という、好奇心を刺激する謳い文句と共に「VENTURAベンチュラ」は誕生した。

HAMILTON_ハミルトン_VENTURA_ベンチュラ_レザーベルト_01

アシンメトリーなフォルムが目を引く「VENTURAベンチュラ」は、1957年に誕生したハミルトンの象徴的モデル。

ヒゲゼンマイの代わりに動力源として新たに搭載された、シャツのボタンほどの小さな水銀電池が同モデル最大の要所である。電気と磁力の力で時計の心臓部=テンプを動かすことから、「電磁テンプ」や「電子テンプ」とも呼ばれ、時計としての精度も飛躍的に向上させた。時計といえば手巻きや自動巻きのように巻き上げられたゼンマイがほどけるパワーで駆動するアナログな機構が当たり前だった当時、1年以上も自動で時を刻み続けるこの時計は、世界中を驚愕させる画期的な発明として、時計史上に大革命をもたらした。

文字盤にはオシロスコープのモチーフや、電子をイメージしたドットインデックスがデザインされている。

世界を驚かせたのは中身だけではない。盾をモチーフとした左右非対称のトライアングルフォルムもまた同様。デザインを手掛けたのは、アメ車の代表格として知られる〈キャデラック〉のデザイナーで、“インダストリアルデザインの鬼才”とも称されたリチャード・アービブ氏。文字盤の3時と9時を結ぶ電気信号を連想させるようなラインは、電気信号を波形で表示し、その信号が時間とともにどのように変化するかを示す機器「オシロスコープ」がモチーフ。電子をイメージしたドットインデックスとともに、電動式という最先端のテクノロジーを表現している。

シンプルな裏蓋には、ブランドの頭文字Hとスイスメイドの文字が刻まれている。

アービブ氏は、ハミルトンからの「実用性はまったく考慮せず自分の望むものを好きにデザインするように」という易しいようで難解なお題に、革新的なフォルムで応えたのである。保守的な意匠が大多数を占めていた1950年代の時計業界に与えた、そのインパクトたるや。電池式時計としてもデザイン・ウォッチの先駆けとしても後世に大きな影響を及ぼしたベンチュラ。そのオリジナルモデルは、アメリカ産業が産んだ金字塔のひとつとして、スミソニアン博物館に収蔵されている。

〈HAMILTON〉の定番・人気時計②
「VENTURA ベンチュラ」フレックスベルト
あのプレスリーが最も愛したという
カスタムメイド。

ところで、ベンチュラといえば忘れてはならないスターが存在する。2022年に伝記映画『エルヴィス』で、再注目された“キング・オブ・ロックンロール”ことエルビス・プレスリー、その人だ。セクシーな歌声と型破りなパフォーマンスで若者を熱狂させるだけでなく、俳優としても活躍した彼は、1961年公開の主演映画『ブルー・ハワイ』の衣装として装着したベンチュラに、まさに『Stuck On You(君に首ったけ)』。複数所有し、プライベートシーンにおいても愛用したことで、同モデルは世界中の革ジャン&リーゼントのロックンローラーからも絶大な支持を獲得。

映画『ブルーハワイ』の1シーン。プレスリーの左手首にベンチュラが確認できる。©️ゲッティ

ここ日本でもクレイジーケンバンドの横山剣氏が「イイね!」と絶賛し、俳優の三石研氏に至っては、自身で別注もするほどゾッコン。かつて原宿・竹下通りに存在した「ロックンロール・ミュージアム」では、様々なロックアイコンと並んで販売されていたことが、ロックンロール・ウォッチとして周知されていたその証左。ここで再びプレスリーに話を戻す。先述のように複数所有していた彼が最も気に入っていたのが、フレックスベルトにカスタムしたモデルだとか。

フレックスベルト仕様になった「VENTURAベンチュラ」。黄金のケースを際立たせる白の文字盤も品が良い。

1965年のクリスマスイブに宝飾店でホワイトゴールドケースのベンチュラを購入し、自らの手でレザーベルトをフレックスベルトに付け替えたといわれている。これによりミッドセンチュリー感が増し、蛇腹式になったコマの1つ1つが伸縮することで、イージーな脱着も可能とする。手首が締め付けられることによる着用時のストレスがないのも、ギターを演奏し、激しく歌い踊る彼のステージパフォーマンスに打ってつけだったのだろう。

フレックスベルトは。蛇腹式になったコマの1つ1つが伸縮することによって、イージーな脱着を可能とする。

フレックスベルトとレザーベルト、両方のタイプを並べた図。どちらも魅力的でどちらか1つには決め難い。

ここで1つ問題が浮上する。フレックスベルトとレザーベルト、並べてみると両方とも魅力的でどちらか1つには決め難いのである。なら答えは簡単。歌手と俳優という2つの顔で活躍したキングよろしく、2つとも持てば良いのだ。人間に左右一対の腕がある理由も見つかった。

〈HAMILTON〉の定番人気の時計③
「Pulsar パルサー」
スペースエイジを虜にした
世界初のデジタルウォッチ。

ベンチュラで確立された先進的デザイン性は、13年の時を経て新たなステージへと進む。人類初月面着陸成功の翌1970年に現れたその時計は、何もかもが違っていた。針も文字盤もないボディの中央にあるのは、長方形のディスプレイ。側面のボタンを操作することで、そこに時・分・秒を示す赤い数字が表示される。これが、当時の最先端技術「LED」を文字盤に搭載した、世界初のデジタルウォッチ「Pulsar パルサー」である。

LEDとは「Light Emitting Diode=発光ダイオード」の略称。現在では長寿命・少消費電力の照明として一般化しているが、開発当初の発光色は赤のみだった。テクニカルな響きのモデル名は、超高精度の周波数でパルス状の電波を放射する中性子星に由来する。

初代パルサーこと通称「P1」は18Kイエローゴールド製で、〈ROLEX ロレックス〉の金無垢モデルを凌駕する2100ドルで400本限定生産された。当時の貨幣価値でおよそ車1台分。当然、〈Tiffany & Co ティファニー〉など高級店での取り扱いであったが、即完売したという。ちなみ1/400本はプレスリーの手に渡り、他方では、時の合衆国大統領であったリチャード・ニクソンに贈る、娘からのクリスマスプレゼントとなった。

同モデルの登場により、世にデジタルウオッチ旋風が巻き起こる。老舗のオメガすら模倣モデルを出すほどの一大ムーブメントとなり、半導体メーカーによるデジタル時計事業参入も白熱化。やがて価格競争の激化で3ドル以下のLEDウオッチまで出回るようになると急速に勢いを失い、1977年にはブーム終焉。ハミルトンもまた、パルサー製造を中止し、商標は売却することに…。

有為転変、まさに諸行無常。されども同作がデジタルウオッチという未知のジャンルを確立した先駆者であることは疑いようのない事実。これに敬意を表し、ここでパルサー誕生50周年を迎えた2020年に復刻された「PSR DIGITAL QUARTZ」をご覧いただこう。

「Pulsarパルサー」の第二世代モデル「P2」を忠実に復刻した「PSR DIGITAL QUARTZ PSRデジタルクォーツ」。最新の3Dスキャン技術によってレトロフューチャーなフォルムを現代へと蘇えらせた。

本作のデザインベースは「P1」ではなく、1973年に発表された2代目「パルサーP2」。同年に公開された映画『007/死ぬのは奴らだ』の劇中で、ロジャー・ムーア演じるジェームズ・ボンドが着用し、ローリング・ストーンズのキース・リチャーズや、ジェラルド・フォード元米国大統領が愛用したことでも有名だ。最新の3Dスキャン技術を用いてオリジナルを忠実に再現しており、サイズも当時と遜色ない40.8mm × 34.7mm。

裏蓋にはパルサーの星のイメージがデザインされている。これも復刻版ならではのディテールの1つだ。

特徴的なクッション型ケースはそのままに、風防部分を当時のルビーからサファイアクリスタルにアップデート。時刻表示部分もまた、液晶と有機ELを組み合わせたハイブリッドディスプレイに進化。これによって一瞬のみだった点灯時間が常時点灯可能に。技術の進歩は“未来を明るくする”とはまさにこのこと。

 

加えてチェックすべきは、フェイス右下にあしらわれたロゴデザイン。オリジナル版では「Pulsar」だったが、復刻版ではレトロな書体の「HAMILTON」に変更。また裏蓋部分にパルサーの星のイメージがデザインされているのも特徴で、この2つをもってオリジナル版との差異は一目瞭然だ。

ハミルトンの革新性を象徴するアイコン、ベンチュラとパルサー。今なお、新鮮な輝きを放ち続けている。

余談だが、パルサーを愛好したのは、ロックンロールのキングだけではない。“キング・オブ・ストリート”こと藤原ヒロシ氏もかつてヴィンテージのパルサーをコレクションしていたことが、90年代のファッション誌には記されている。こうして前述のベンチュラとパルサーを知るだけでも、いかにハミルトンが時計業界に革新をもたらしたブランドであるかが、お分かりいただけたのではないだろうか。

〈HAMILTON〉の定番人気の時計④
「JAZZMASTER OPEN HEART
ジャズマスターオープンハート」
リズミカルに時を刻むハートの鼓動を
目で楽しむ。

さて、ユニークなフォルムのモデルが続いたので、ラウンドケースのオーセンティックな魅力も再確認しておくとしよう。アメリカ南部のルイジアナ州ニューオリンズで産声を上げ、アフリカ系アメリカ人の民族音楽とヨーロッパの音楽技術や理論が融合し、時代の変遷とともに多種多様なスタイルを取り入れながら確立されてきたジャズ。この音楽の名を冠した、機械式時計の人気シリーズ「JAZZMASTER ジャズマスター」に針を落とす。

機械式時計では随一の人気を誇る「JAZZMASTER OPEN HEART ジャズマスターオープンハート」。大胆にカットされたダイアルから覗くメカニカルな心臓部が、男心をくすぐる。

気になるナンバーは、シリーズ随一の人気を誇る名機「JAZZMASTER OPEN HEART ジャズマスターオープンハート」。注目すべきは、文字盤の12時部分から姿を見せるメカニカルな内部機構。これはテンプと呼ばれ、時間を刻む速さと精度に関わる重要性から、人体において生命の根幹たる血液を全身に循環させる臓器、心臓にも喩えられる。今さら説明するまでもないが、オープンハートとはこの心臓部が露出したスタイルを指す。

数種類の楽器が音を重ね繋いでフレーズを演奏することで、1つの曲を紡ぐセッションこそ、ジャズをジャズたらしめる部分であり、他の音楽にはない魅力となっている。大胆にカットアウトされた文字盤の中で大小数多のパーツが誤差なく正確に動き、リズミカルに時を刻む様子は、熟練したジャズミュージシャンたちのセッションにさも似たり。

内部機構が露出しているのは裏蓋も同様。こちらはハーフスケルトン仕様でしっかり丸見え。

見せ場はしっかりステージ裏にも。裏蓋も内部機構丸見えのハーフスケルトン仕様で、身に付けて良し、人に見せて良し、さらに内側から己で眺めても良しの三拍子揃い踏み。洗練さとタフさを兼ねるそれは、まさに用の美。アメリカ生まれ、スイスメイドのハミルトンらしい骨太なクラフツマンシップを体現した1本といえよう。

〈HAMILTON〉の定番人気の時計⑤
「JAZZMASTER MAESTRO
ジャズマスターマエストロ」
モダンなデザインで魅了する
偉大なる指揮者。

お次も、ジャズマスターシリーズの棚からひと掴み。選んだタイトルは「JAZZMASTER MAESTRO ジャズマスターマエストロ」。ダイアルの6時位置に配されたスモールセコンドが、まるでクラシックやオペラにおける偉大なる指揮者“マエストロ”がタクトを自在に操るが如く、完璧なリズムで時を刻むドレスウォッチだ。ジャズが奏でるハーモニーのように、“現代性と革新性”をコンセプトとする同シリーズの中では、上位機種としてラインアップされている。

「JAZZMASTER MAESTRO ジャズマスターマエストロ」。シンプルで品のあるダイアルデザインとレザーベルトが好相性。

シルエット自体は、いたってシンプルなラウンド型のデザインではあるものの、ケース本体や針に文字、さらにはアイコンとなっているスモールセコンドの縁取り部分まで、落ち着きと趣を演出するシックなゴールドで統一。全体の調和を取ることで、大人の品格を備えた完成度の高い1本に仕上がった。

細部にまで向けてみると、視認性を高めるために文字部分を印字するのではなく、別部品で立体的に構成する「アプライドインデックス」を採用している点も興味深い。これもまた、他のジャズマスターシリーズとは一線を画す上級機種たる証。ここにエキゾチックレザーのベルトが放つ高級感が加わることで、オンのスーツスタイルを手元から格上げする好手となり得る。もちろんオフのシーンでも活躍度も高いので、大人のアメカジにも相応しいモダンな表情を楽しむのもまた良し。

裏蓋のスケルトン仕様も嬉しい。ゴールドとシルバーのコンビネーションも品が良く、大人のムード。

褒めどころ多数でもう十分といったところだが、ここでさらに天地を返してスケルトン仕様の裏蓋をチラリ。ゴールドとシルバーのコンビネーションが魅せる品の良さでもうひと推し。細部にまでハミルトンのデザイン・フィロソフィーである“ディティール”への強いこだわりを感じさせる、これぞ名曲。いつの時代も褪せることなく輝き続けるクラシック。

〈HAMILTON〉の定番人気の時計⑥
「BOULTON ボルトン」
アール・デコとアメリカン・クラシックの
融合。

ハミルトンの腕時計は、ミリタリーとアメリカン・クラシックの2つに大別される。【前編】の最後を飾るのは、後者の代表格ともいえる1本。ここまでに取り挙げてきたどのモデルよりも古株で、1940年のデビュー以来、いまなお愛され続けるドレスウオッチの筆頭「BOULTON ボルトン」だ。パっと見の印象はクラシカル。されど細部に目を落とせば、曲線的な長方形のケースフォルムや、ブランドの原点にあるレイルウェイ(線路)模様のミニッツトラックなど、発売当時に流行していたアール・デコ様式の特徴である“簡潔さと合理性を目指したデザイン”が随所に見つかる。

アール・デコ調のクラシカルなフェイスに、ブルーの針が彩りを添える「BOULTON ボルトン」。オリジンは1940年デビューの古株。

ここで紹介するのはインデックスなどが今世風にアレンジされた現行モデルであるものの、時を経ても色褪せることのないタイムレスなデザインの源流はしっかりと継承されている。味わい深い手巻き式ムーブメントもまた然り。毎日巻かなくてはいけない面倒さこそあるものの、約80時間も連続駆動してくれるので精度の高さもお墨付き。

またも余談だが、先述のベンチュラしかり、ハミルトン製の腕時計は度々映画の中にも登場していることはご存知だろうか。スタンリー・キューブリック監督の傑作『2001年宇宙の旅』や、地球に飛来する宇宙人を管理する組織の活躍を描いた『メン・イン・ブラック』、クリストファー・ノーラン監督のSF超大作『インターステラー』などなど、優に500回以上もスクリーンに登場し、ストーリーや主人公の存在感に信憑性を与えるエッセンスとなってきた。

裏蓋にロゴとスイスメイドの文字が。やや湾曲したケースが手首にフィットし、上品な佇まいを引き立たせる。

このボルトンもまた、『インディ・ジョーンズ』シリーズの最終作『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』で、ハリソン・フォード演じる主人公、ジョーンズ博士の腕元を飾っている。なお劇中で着用しているモデルは、スモールセコンド付きの別タイプ。しかしながらアール・デコ調のケースが、映画の時代背景だけでなく、前作の冒険から10年以上の歳月を重ね、真っ当なミドルクラスの1人となったジョーンズ博士のキャラクター像を表現するピースとして実に良い仕事をしている。興味があれば、ぜひ劇場に足を運んで自身の目で確認されたし。

冒頭でも述べたように、今やスマホがあれば事足りる時代。だが“時を知る”以上の機能を有するそれは、我々の大事な時間を、一瞬で虚無の彼方へ消し飛ばす害悪ともなり得る。

「時間というものは我々がもっとも必要とするものだ。 しかし、もっとも無駄な使い方をしてしまうものでもある」。

かつてアメリカ合衆国の黎明期にフィラデルフィア市を建設した政治家、ウィリアム・ペンの言葉である。これを「時計の必要性を説いている」と捉え、ハミルトン誕生の契機となった…かは定かでない。だが、現代に生きる我々に、今最も刺さる言葉であることは間違いない。

続く【後編】では、そんな偉大なる先人の助言をしかと胸に刻みつつ、まだ見ぬベストセラーモデル「イントラマティック オートクロノ」と「カーキ」の2つについて語る。

(→〈ハミルトン〉の定番・人気時計【後編】はこちら)

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