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“永遠のアメカジ”を知る〜〈ハミルトン〉とは〜 「カーキ」「イントラマティック」、コラボものも… 定番・人気時計【後編】

アメカジの魅力は多々あれど、なかでも「実用性」から目を逸らすことはできない。作業着として誕生したデニム然り、戦果に直結するミリタリーアイテム然り。必要に迫られ、時代に応じた最適解として導き出された服、道具。それらはタフでシンプル、ゆえに普遍的価値を持ち、物の新旧を問わず人々の食指を動かし続ける。

時計もまさに、必要が生んだ発明だ。目には見えない時の流れを時間として可視化するため、未開の大陸へ安全に船を渡すため、人々の生活をより規則正しく豊かなものとするため。大きすぎるほどの要望を詰め込み、その小さき道具は進化を続ける。時計の歴史は人類繁栄の歴史。そう断言しても大袈裟ではないのかもしれない。

さて、〈HAMILTON ハミルトン〉の腕時計だ。先の【前編】で触れたように、“アメリカ生まれのスイス育ち”である名家は、ユニークなクラフツマンシップとフロンティアスピリットを今に継承する。そして腕時計の実用性が疑問視されうるデジタル化された現代においても、その輝きは色褪せない。自然とデニムを履くように、M-65を手に取るように。ハミルトンを腕に巻くことは、実用の先にあるスタイルなのだから。

〈HAMILTON〉の定番人気の時計⑦
「INTRA-MATIC CHRONOGRAPH H
イントラマティック クロノグラフ H 」
手巻きで蘇る正統“リバースパンダ”。

【前編】の「VENTURA ベンチュラ」「Pulsar パルサー」らに勝るとも劣らない他のタイムピースを早速ご紹介……の前に、ブランドの歩みを軽く復習しておこう。

1892年にアメリカ・ペンシルバニア州で創業した〈HAMILTON ハミルトン〉は、鉄道会社や軍に正確かつ丈夫な時計を提供。信頼性が高く評価され、アメリカの代表的時計ブランドへと成長した。優れた技術力だけでなく先見の明も備え、かの“クォーツショック”以前の1957年に世界初の電池式腕時計「ベンチュラ」を開発。その後は1969年にウォッチメイキングの本場であるスイスに拠点を移し、1974年5月には現在も続くスウォッチグループ(当時の合弁会社SSIH)の傘下に収まっている。

【後編】のトップバッターとなる時計は「INTRA-MATIC CHRONOGRAPH H イントラマティック クロノグラフ H 」。ブランドがスイスへと渡る直前である1968年に作られた「Chronograph A クロノグラフA」ならびに「Chronograph B クロノグラフB」を復刻したモデルだ。

HAMILTON_ハミルトン_INTRA-MATIC CHRONOGRAPH H_イントラマティック クロノグラフ H_01

INTRA-MATIC CHRONOGRAPH H イントラマティック クロノグラフ H 」は、‘68年リリースのクロノグラフを元ネタとする。

ダイヤルの3時位置と9時位置にサブダイヤルを配した個性的な顔立ちは、広く“パンダ”として親しまれる意匠。今作はブラックダイヤルをベースとするため、“逆パンダ”とも呼ばれている。ヴィンテージ然とした趣きを彩るのは、古き伝統が息づく手巻き式ムーブメントだ。

腕を少し動かすだけでゼンマイを巻き上げる力を生む自動巻きに対し、自らリューズを操作してゼンマイを巻かねばならない手巻き式時計。手間がかかるからこそ、その分だけ愛おしい。そんな時計好きも少なくないだろう。

黒文字板の逆パンダダイヤルにシボ革のストラップを装備し、ヴィンテージ感たっぷり。

ただし今作には、手巻き式がふさわしいもうひとつの理由がある。それは、揺るぎなき“初代”へのリスペクト。1968年にリリースされた手巻きのクロノグラフをベースとするからだ。その点で、同じく復刻版として発売された自動巻きの「INTRA-MATIC AUTO CHRONO イントラマティック オートクロノ」以上の正統性を担保し、物欲を刺激する。ちなみに同モデルは6時位置にカレンダーを備えていたが、今作ではオリジナルに習って省かれた。

ねじ込み式の裏蓋の内側には、“初代”にリスペクトを込めた手巻きムーブメントが。

それでいて、単なる懐古主義に陥らないのが名門ウォッチメーカーの矜持だ。搭載する手巻き式ムーブメント「H-51」は、60時間のパワーリザーブと毎時2万8800回の振動数を確保。いっそうタフに、正確に。堅牢なスクリューバックの奥に潜む目に見えない心臓部の進化は、我々の生活に力強く寄り添ってくれる。

HAMILTON〉の定番人気の時計⑧
Khaki FIELD MECHANICAL
カーキフィールドメカニカル」
タフで正確な陸のミッションウォッチ。

続いては、ブランドを代表する逞しきアイコンウォッチ「Khaki カーキ」コレクションに属する「Khaki FIELD MECHANICAL カーキフィールドメカニカル」を見ていきたい。

アイコニックな「Khaki FIELD MECHANICAL カーキフィールドメカニカル」は、“ハックウォッチ”としても歴史に名を刻む。

そもそも1917年を皮切りとするカーキコレクションの誕生は、ハミルトンが1914年にアメリカ軍のオフィシャルウォッチサプライヤーとなった史実に由来する。軍との蜜月は第二次世界大戦中も続き、1945年までになんと100万本以上のミリタリーウォッチをデリバリー。卓越した品質は、5つの「Army-Navy ‘E’ Award」を受賞したことからも明らかだ。

派生形の多いカーキにおいて、陸(フィールド)を主戦場とする今作はシグニチャーとも言うべき傑作だ。過酷な状況下での使用を想定し、余分な装飾を排除。潔いミニマルデザインで、生まれながらに与えられた正確な計時という命令を完遂する。

正確な計時と高い視認性に特化したシンプルデザインが、ミリタリーウォッチの本懐を語る。

最大の特徴は、ストップセコンドと呼ばれる機構にあり。リューズを引くと秒針が止まるため、秒単位での正確な時刻合わせが可能に。将校からの「ハック!」の号令に合わせて時刻調整された時計は、軍の緻密な作戦をサポートした。これこそ、カーキフィールドメカニカルが“ハックウォッチ”と呼ばれる由縁だ。

耐久性の高いNATOストラップを装着。スクリューバック上にはハミルトンのロゴが。

ここで紹介する42mmのモデルは、黒文字盤に24時間表記のアラビアインデックスを装備。1960年当時と変わらぬ武骨なスタイルが、実用性の高いNATO ストラップと必然の整合性を見せる。ムーブメントには80時間のロングパワーリザーブを誇る「H-50」を採用し、サンドブラスト加工のSSケースも屈強そのもの。なお、1960年代の原型に忠実な小振りの38mm径モデルも存在する。

HAMILTON〉の定番人気の時計⑨
Khaki NAVY SCUBA AUTO
カーキネイビースキューバオート」
ダイバーズの王道をいく海のカーキ。

カーキが支配する領域は陸のみにあらず。陸・海・空すべてを網羅したロングセラーのうち、この「Khaki NAVY SCUBA AUTO カーキネイビースキューバオート」は海を専門とする「NAVY ネイビー」一派のタフウォッチだ。

手頃な40mm径の「Khaki NAVY SCUBA AUTO カーキネイビースキューバオート」は、普段使いのダイバーズとしても適任。

とりわけこちらは、逆回転防止ベゼルと耐水性の高いねじ込み式リューズを備えてダイバーズウォッチの王道をいく。ちなみに前者は、水中で任務にあたるダイバーにとっての生命線。たとえ時計が何かの拍子にぶつかってベゼルが動いた際も、反時計回りにしか動かない逆回転防止ベゼルであれば、潜水可能な残時間の過剰表示を防いでくれるからだ。

逆回転防止ベゼルやラバーストラップなど、ダイバーズの基本スペックをもれなく搭載。

ベゼルの15分表示までは分針と同じレスキューカラーで区分けられ、水中での視認性が向上。水濡れに強いラバーベルトも堅牢かつ軽快で、海辺はもちろん街中でもセンスフルに活躍する。

スクリューバッグにはSWISS MADEの記載も。

ムーブメントは80時間ロングパワーリザーブの自動巻きで10気圧防水、つまりは海深100mまでの防水性能を謳う。プロフェッショナブルダイバーズほどオーバースペックではないものの、日常生活においては十分すぎる高機能。クールなルックスも相まって、頼らない手、いや腕はない。

HAMILTON〉の定番人気の時計⑩
Khaki PILOT PIONEER AUTO
カーキパイロットパイオニアオート」
必要十分な機構を備えた空の相棒

陸、海、とくればお次は当然、空の時計。1970年代の英国空軍用時計をモチーフとする「Khaki PILOT PIONEER AUTO カーキパイロットパイオニアオート」を紐解いていく。

左右非対称のケースデザインを持つ「Khaki PILOT PIONEER AUTO カーキパイロットパイオニアオート」。

ヴィンテージのアビエーションウォッチよろしく、反射防止効果のあるサファイヤクリスタル風防、視認性の高いカラーリングのダイヤルを採用。また、パイロット用グローブを装着したままでも操作しやすい大きめのリューズを備えている。2時位置と4時位置にそれぞれリューズを配置するため、微妙に左右非対称となったケース形状も見どころだ。

スケルトン仕様のケースバックからは、自動巻きムーブメント「H-10」の勇姿を堪能できる。

ふたつのリューズのうち、2時位置のそれは文字盤外周のインナーベゼルを動かすためのもの。目盛りと数字をあしらったミニッツスケールは、飛行時間を読み取りやすくする。かたや4時位置のリューズは、時刻や3時位置に表示されるデイトなどを調整する際に使用される。

英国空軍の凛々しさを伝える、ストイックなモノトーンデザイン。

ケースは高品質アルミニウム製。実際に航空業界で用いられているこの素材は、軽さと頑丈さが特筆だ。そのため本体約50グラムという圧巻の軽量化が実現され、至高の装着感を叶えてくれる。ケース裏側から覗くムーブメントは、自動巻きの「H-10」。充実の80時間ロングパワリザーブは、日々忙しく飛び回るジェットセッターをも虜にするはず。

HAMILTON〉の定番人気の時計⑪
×〈NEIGHBORHOOD ネイバーフッド〉
×PORTER ポーター〉の
Khaki Field Auto カーキフィールドオート」
ジャパンブランドの両雄に支えられ、
より精悍さを増した陸の王者。

ダイヤル一周分の“12”には及ばないが、前後編合わせて11もの傑作にフォーカスした本稿もいよいよラストだ。トリを飾るのは、カーキフィールドのオートマチックモデル。ただしレギュラーものとは明らかに毛色が異なる、ファン垂涎のコラボレーションウォッチにご登場願おう。

ふたつのビッグブランドを迎え入れ、ファッション的な要素を増した「Khaki Field Auto カーキフィールドオート」。

協業のお相手は、世界に名高いジャパンブランド〈NEIGHBORHOOD ネイバーフッド〉と〈PORTER ポーター〉だ。最強の隣人をゲストに迎えて完成した時計は、2011年12月より発売。10年以上の時を超え、今もレアモデルとして高い人気を博している。リユースマーケットで出会えれば、それはもはや運命。後悔のないよう即ゲットをオススメしたい。時計の針は巻き戻せても、過ぎた時間は取り戻せないのだ。

特徴的な台座付きレザーベルトを含め、オールブラックでソリッドな面持ちに。

本体のベースとなったのは、自動巻きの「カーキフィールドオート40MM」。40mm径のケースサイズは日本人の腕に馴染みがよく、適度なボリュームが存在感を放つ。ガンブラックPVDが施されたマッシブな面持ちは、確かにネイバーフッドらしさを感じさせる渋い仕上がりだ。

HAMILTON_ハミルトン_Khaki Field Auto_カーキフィールドオート_03

ベルト裏に記載されたブランドロゴ。残念ながら、写真のモデルはポーターの刻印がかすれてしまっている。

一方のポーターらしさは、長めの台座が付いた個性的なレザーベルトから見て取れる。上質なカウレザーに、クロコダイルパターンを型押し。ベルト裏側のセンター部分にはネイバーフッドのロゴが確認でき、その下には「made by PORTER」の刻印も施されている。

ブランドの看板だけに、圧倒的なバリエーションを揃えるカーキ。手頃な価格帯ゆえ、多数持ちも視野に入れたい。

蛇足かもしれないが、ロング台座付きのストラップについてのウンチクをひとつ。俳優や映画監督のほかプロレーサーとしても才能を発揮したポール・ニューマンは、同タイプの〈RORELX ロレックス〉の名機「COSMOGRAPH DAYTONA コスモグラフ デイトナ Ref.6239」を愛用していた。その実物がNYにてオークションにかけられると、なんと1780万ドルにて落札。腕時計におけるオークション史上最高額を記録した。

(→〈ロレックス〉に関する別の特集記事はこちら)

ハミルトンの腕時計は、歴史が証明した実用性を軸足に置く。ただし、それだけが魅力でないことも最後に強調しておきたい。必要からファッション的高揚は生じがたい。その傍らにロマンが横たわるからこそ、目指すべきスタイルとなり得るのではないか。

これまで時計が叶えてきた未開の地への冒険も、はたまた名作ウォッチにて掘り起こされる古き佳き時代への憧憬も。そこには壮大なロマンが介在する。時を計るにとどまらない時計の魅力と価値は、先のオークション結果を例に挙げるまでもない。だからこれからも、優れた時計の地位は揺らがない。

力強くも美しい、ハミルトンとともに歩む新しい未来。きっとそこは、ロマンで溢れている。

(→〈ハミルトン〉の定番・人気時計【前編】はこちら)

 

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