マストバイの〈リーバイス〉「ブラックデニム」 手に入れるなら“いま”!? 【定番人気ボトムス編】
気温だけでなく、物価の上昇も止まらない。食料品を筆頭に、生活必需品の価格高騰は日々の暮らしに警鐘を鳴らす。直近はコメ不足にも陥った。総じて先が読みにくい“いま”、それでもいかに予測して行動するか。どう足掻いても、未来は僕らの手の中だ。
ヴィンテージシーンも激動の渦中。当然ながら過去は遠くなるばかりで、市場在庫はみるみる枯渇していく。デニム、とりわけオリジンとして名高い〈LEVI'S リーバイス〉の「501xx」や「506xx」(通称1st)は、重要文化財級のレアリティに。背中にT字の切り替えが入ったビッグサイズの「506XXE」にいたっては、状態によって1,000万円オーバーの値札が付くこともあるらしい。
そうした状況にあって、にわかに脚光を浴びるリーバイスがある。それこそ本稿の主役、ブラックデニムだ。「デニム=インディゴ」という概念は、まさしく過去のもの。“いま”の気分に突き刺さるモノクロームの花形は、価格上昇中とはいえ比較的まだ手が届きやすい。やはり、未来は僕らの手の中。動くなら、“いま”。
変わりゆくヴィンテージシーンで輝く
“ブラック”リーバイスの存在感
前後編の2回にわたって〈LEVI’S リーバイス〉のブラックデニムを紐解いていくが、まずは前哨戦からご覧いただきたい。ブランドの歴史とともに、黒い1本が注目される理由について軽く触れていく。
リーバイスの創業は1853年、アメリカ・サンフランシスコにて産声を上げた。転機は1873年にやってくる。ブランド設立から20年後のその年、衣料品のポケットを金属リベットで補強するアイデアで特許を取得。金字塔、「501」誕生の瞬間である。以来、現存するすべてのデニムは501の影響下から逃れられていない。そう断言していいだろう。
501だけでなく、リーバイスには多くのヘリテージが眠る。それらのブルーデニムは総じて、ここ10年の間に価値が急上昇。高嶺の花と化した。1960年代以前のモデルはもちろん、1970年代製造のデニムすら弾数は減り続け、たとえ奮発して手に入れたにせよ気軽に穿けるレベルにはない。そんなデニムはもはや、カジュアルウェアではないのだ。
となると必然的に、狙い目は“以降”のデニムとなる。いわゆる、1986年までに作られた「赤耳」や、USA製501などの“ニューヴィンテージ”。その流れのなかで、ブラックデニムはひときわ大きな存在感を放つ。
インディゴカラーに比べて圧倒的に数が少なく、食傷気味なブルーデニムのカウンターとしても物欲をくすぐる。モノトーンのルックスはY2Kファッションも追い風となり、ワードローブに取り入れやすくもなっている。
そして日本での注目度に比べて、本国アメリカでさほど重視されていないのもポイント。それでも世界規模で人気に火がつくのは、すでに時間の問題でもある。いずれにせよ、“いま”は待ってはくれないのだ。
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〈Levi’s リーバイス〉
ブラックデニムの定番アイテム①
均一な色落ちを特徴とする
「501」先染め
さて、ここからは個々のブラックデニムにフォーカス。先鋒はやはり、泣く子すら喜ぶ大定番「501」に任せるとしよう。
写真のモデルは、1989年製の黒い501。見てお分かりの通り、バックポケットにフラッシャーが付いたままのデッドストックだ。この年代の501は、色の差に関係なく総じてややタイトなシルエットが特徴。バックポケットは高めに位置し、脚⻑効果が期待できる。
ちなみに、リーバイス本社保管の資料によると1903年のカタログにはすでに「Black Denim」のラインアップが記載されており、今作は比較的年代が新しいもの。かたやファッション的な文脈に立てば、1980年代後半が通説とされる黒い501の登場をもってブラックデニムが普及したと言えよう。
閑話休題。古着好きからは「レギュラー」と呼ばれ、ヴィンテージリーバイスのアイコンである「セルビッジ(赤耳)」も付いていない。そんな501のブラックデニムは、大きくふたつに分類される。「先染め」と「後染め」だ。
今作のような先染めのデニムは、多くが1980年〜90年代前半に作られたとされる。見分けは容易。表地と比べて、裏地が薄いグレーになっていれば先染めの証左となる。
先染めの501が経年変化すると、均一に色が落ちていく。まばらな「縦落ち」とは異なるその整った表情は、麗しく変化した大人のグレーヘアを思わせるもの。これがまた特に若い世代においては新鮮のようで、再評価の一因にもなっている。
ただしこの独特なグレーカラー、過去にもブームを巻き起こしたことをご存知だろうか。1980年代に流行した「渋カジ」の派生形であるモデルカジュアル、通称「デルカジ」の代名詞でもあったのだ。
1991年の秋頃に流行し始めたというこのスタイルは、黒シャツに派手なネクタイを合わせ、アウターは黒のマウンパ。そしてボトムスには程良くフェードしたブラックの501、足元には黒のサイドゴアブーツもしくはドレスシューズという、モデル顔負けのモノトーンコーディネイトが主流だった。
なかには、当時一斉を風靡した〈Tony Lama トニーラマ〉のウエスタンブーツを合わせるタフガイも。その際にはブーツが裾に収まりやすいよう、501の裾のアウトシームを割いてブーツカットにすることもあったそうで……。いやはや。
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〈Levi’s リーバイス〉
ブラックデニムの定番アイテム②
王道の縦落ちやアタリが楽しめる
「501」後染め
前述したように、ブラックの501には2タイプが存在。次に紹介する後染めはどちらかと言えば後期の501に分類されるモデルで、先染めとはまた異なる風合いが楽しめる。
後染めかの見極めポイントも、やはり裏側にあり。先染めの裏地は白みがかったグレーカラーなのに対し、後染めの裏地は表地と遜色ないほどに黒い。並べてみれば、一目瞭然。そして表地の色落ちにも、一目でわかる違いがある。
フラットに退色していく先染めと比べると、後染めの501はよりヴィンテージ然としたアタリが見られる。股の部分には、堂々たる「ヒゲ」も発現。他の部分の経年変化も立体的だ。余談だが、リユースマーケットでは先染めのほうが高価値とされてきた。
このように絶妙ながら確かな差がつく先染めと後染め、実はそのネーミングには矛盾をはらんでいる。あらかじめ染色した糸で織られたものが先染め、縫製後に製品染めされたものが後染めと思われがちだが、ことリーバイスのブラックデニムにおいてはその認識は誤り。
結論から言えば、両者とも染色された糸で織られたデニムが使われている。つまり、後染めと言っても製品染めされてはいないのである。ではなぜ、後染めの501は先染めのそれよりも黒々としているのか。その理由は、ロープ染色された糸をデニムの経糸と緯糸の両方に使っているからだ。
ロープ状に束ねた糸を染料に漬け、一度引き上げて酸化させる。その工程を繰り返すことで、表面を染めていくのがロープ染色のメソッドである。その本筋は、先染めも後染めも変わらず。ただし後染めの501では縦糸にも緯糸にもロープ染色された糸を使うのに対し、先染めは緯糸に白い糸を使用。だから色の表現に差が出る。非常にややこしいが、要はどちらも“先染め”なのだ。
似ているようで違う、異なるようで同じ先染めと後染めの501。まずは小難しいウンチクからは距離を置き、後にも先にもライバルが存在しない“キング・オブ・デニム”の魅力に染められるのも一興である。
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〈Levi’s リーバイス〉
ブラックデニムの定番アイテム③
着回しやすいテーパードシルエットの
「505」
やはりリーバイス。引き続き定番のロングセラーが顔を並べる。アメリカ⻄部の労働者のための作業着として生まれた501は、アメリカ全土に広がる消費者たちの要望に応える形でアレンジモデルへと派生。1954年にはフロントをジップフライに変えた「501ZXX」が登場するが、ここで紹介する「505」は実質その子孫にあたる。
より正確に“家系図”を振り返るなら、ジップフライの501をテーパードシルエットにした1961年誕生のモデル「551ZXX」が505のジップ、いや実父。1966年の品番変更によって551ZXXは姿を消し、505としてリスタートを切っている。
写真の1本は、ブラックデニムで作られた505。裏地は表地と似て黒々としており、縦糸と緯糸の両方でロープ染色された糸を使う“後染めタイプ”だと判別できる。
あくまで派生形であるため501と大きな差はないものの、テーパードした脚のラインはよりスタイリッシュに映る。太もも周りにゆとりがあり、裾にかけて細く収束していくシルエットはいまやモダンパンツの常套手段だ。
ちなみに、ストリートにおける黒い505の人気は501以上に熱狂的な印象を受ける。カットオフした505にベージュのブーツを合わせるなど、ファッション業界の中でも愛用者は数知れない。
ちなみに、505は「HF」こと藤原ヒロシ氏が愛用していたモデルとしても有名。もとはNIGO氏が好んで穿いていた505に影響されたというが、やや大きめなサイズを腰で穿く彼の505姿は、なお我々のマインドに遺伝子的なナニカを残しているに違いない。
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〈Levi’s リーバイス〉
ブラックデニムの定番アイテム④
裾の広がりに個性を宿す「517」
505と同様のジップフライだが、シルエットはむしろ正反対。「サドルマン」の愛称でも知られる名作ブーツカットデニム「517」も、ブラックカラーになればまたフレッシュな顔立ちとなる。
517の発表は1971年。それは、リーバイスのアイテムに付く赤タブの表記が「LEVI’S」から「Levi’s」に変更された年でもある。
愛称のサドルマンは、サドル(=鞍)を担いだカウボーイのキャラクターとも同一。ゆえにウエスタンブーツをはいた際に収まりのいいフレアシルエットだけでなく、鞍上での動きやすさを考慮した深い股上も特徴とする。
写真の517は先染めモデルで、グレーとブラックの中間のような色がセクシーかつワイルドだ。そのユニークな風合いはレトロ感のあるブーツカットと相まって、次なるトレンドの主役を担いそうな雰囲気。
というのも今から約4半世紀前、2000年頃にもブラックデニムは一部で注目を集めた。そしてその当時、人気を支えたのが今作517だったとか。
良くも悪くも、歴史は繰り返す。であれば、いままたブーツカットを先取りして、末広がりのファッションライフを目指そうではないか。
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〈Levi’s リーバイス〉
ブラックデニムの定番アイテム⑤
シルエットと加工で
無二の“ブラック”を形作る「550」
前編のラストを飾るのは、定番揃いのリーバイスの中では少々の変わり種。懐かしさと新鮮味が同居するヤミツキ必至のデニム、1985年生まれの「550」だ。
腰と腿の周りに大胆なゆとりを保ち、きつめのテーパードがかかる。それはまるで昭和の「ボンタン」のようで、元不良のいい大人には余計にグッと来るものがあるかもしれない。いずれにせよ、公式には「RELAXED FIT」や「TAPERED LEG」と呼ばれるシルエットが最大の見どころだ。
リラックス感溢れるワイドデニムは、身体を締め付けないコンフォートな着用感だって持ち味。スケーターを筆頭に、ストリートキッズに愛されてきた歴史もありがたみを証明する。
写真のモデルはシルエットだけでなく、色味にも独自性が。先染めのブラックデニムに施されたケミカルウォッシュが、圧巻のバイブスを放出。一度モノにするとクセになる。
ケミカル・ブリーチ‧アウトとも呼ばれ、ムラのある独特な脱色効果をもたらすケミカルウォッシュ。漂白剤と軽石をウォッシャーマシーンに入れて加工するスローンウォッシュの一種であるそれは、思えば不遇の時期も味わった。バブル真っ只中の1980年代に大流行し、程なくしてブームが終焉。一転して「ダサい」デニムの枕詞になってしまったのだ。
しかし、多様化が進む現代で復活。昭和レトロが持て囃されるのと同じかそれ以上に、ケミカルウォッシュの立場は逆転した。あえてチョイスするZ世代のファッションを例に挙げるまでもなく、洒落感と抜け感のあるケミカルブラックはアリ寄りのアリだ。
ただし、先染め、後染め、ケミカルウォッシュの差を問わず550の需要はうなぎ上り。早めに入手しておかないと、再び時代の波に翻弄されてしまうかもしれない。
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デニムは青。その既成概念はいま、捨て去ったほうがいい。色眼鏡をかけずにアイテムの本質を見つけ、“格好いい”を素直に取り入れる若者。そして甘酸っぱい青の時代を無事通り越えた大人にも、ブラックデニムはしかと寄り添う。
次回の後編は、パンツではなくジャケットを伴侶にブラックデニムのさらなる魅力を解説。乞うご期待。
(→マストバイの 〈リーバイス 〉の 「 ブラックデニム 」 【 ⼈気 のデニムジャケット Gジャン α 編 】 は こちら)