FASHION

“今こそ着たい”ヘビーデューティー・アウトドア 春は〈エル・エル・ビーン〉、やうやう馴りゆく、すぐれたるタフネス。【ウェア編】

いきなりのタイトルに疑問符がついた読者諸氏にまずは一礼。その理由は後に譲るとして……軽く此度の主役をご紹介。1912年の登場から100年以上過ぎてなお、世界中の国々で定番として愛されているヘビーデューティーブランド〈L.L.Bean エル・エル・ビーン〉。

確固たる意志で自然と密なる関係を紡ぐなかで生まれた機能性と、肩の力を抜いてくれる愛嬌のあるルックスに、“いとおかし(時を超えて愛される理由)”を見出し、「Bean Boots ビーンブーツ」や「Boat and Tote ボート・アンド・トート」といったアイコニックな傑作アイテムを紹介した【ギア】編に続き、今回は【ウェア】編。自然ととも生きるアウトドアズマンらに認められたギアに負けず劣らず、安心安定のタフネス。着込むほどに馴染み、そして手放せなくなる定番ウェアにフォーカスする。

「Original Field Coat
オリジナル・フィールド・コート」
随所に残る、
ハンティングウェアの名残。

【ウェア編】の鍵開けはエル・エル・ビーンの象徴的アウターから。その名は「Original Field Coat オリジナル・フィールド・コート」。ハンターでもあった創業者のレオン・レオンウッド・ビーン氏が自身の経験に基づき、機能的なハンティングウェアとして考案。1924年に「Maine Duck Hunting Coat メイン・ダック・ハンティング・コート」の名で販売されるや、当時の水準を超える優れた耐久性と耐候性が認められてベストセラーに。その後の1947年からは現在のモデル名に変わり、いまなお多くのユーザーに支持されている。

llbean_エルエルビーン_wear_17「Original Field Coat オリジナル・フィールド・コート」

「Original Field Coat オリジナル・フィールド・コート」は、ハンティングウェアの系譜に連なる。

本モデルは、出自が狩猟服だけあって肩に取り付けられたガンフラップなど、往時の名残を随所に残す。表地も当然タフで抜群の耐久性。厚く丈夫なコットン・キャンバスは、野外活動下で避けては通れない自然の洗礼から身を守り、襟と袖口に貼られたコーデュロイ生地が着心地の向上とデザイン的アクセントを兼備。“いなたい”ツラして、なんとも気が効いているではないか。

llbean_エルエルビーン_wear_16「Original Field Coat オリジナル・フィールド・コート」

襟と袖口には、着心地を考慮して綿100%のコーデュロイ生地が。この“いなたさ”もまたビーンらしい。胸には、貴重品を紛失する心配のないジップポケットも。

さらにフロントに配置された左右4つのポケットも特徴的だ。ハンドウォーマーとして活躍する上ポケットの底部分が、下ポケットのフラップも兼ねるというユニークな仕様。これは銃弾の薬莢入れとして、取り出しやすさという実用性が求められた結果であろう。なんてウンチクも“モノ好き”には堪らない。

llbean_エルエルビーン_wear_15「Original Field Coat オリジナル・フィールド・コート」

llbean_エルエルビーン_wear_14「Original Field Coat オリジナル・フィールド・コート」

使用頻度の高いフロントポケットは、上下が連携するユニークな仕様。ライナーはシーンに合わせて取り外し可能だ。

極め付けは、袖口まで完全にカバーする取り外し可能なライナーである。これにより年間を通して使えるデイリーライフ・ウェアとなり得るのだが、その恩恵を存分に味わえるのが昼夜の寒暖差が激しい今時分。花冷えの夜にサッと羽織って街へ出る。そんなシチュエーションにもよく似合う1着だ。

「Hi-Pile Fleece, Jacket
ハイ・パイル・フリース」
エベレスト登頂時から、
さらに進化した着心地。

エル・エル・ビーンのあまりにも膨大すぎるデザインアーカイブ。約100年間にわたって歴史を紡いできたアイコニックなモデルがある一方で、比較的歴史の浅いモデルにも名作は存在する。「Hi-Pile Fleece, Jacket ハイ・パイル・フリース」などは、その代表例と言えよう。1990年に開催されたエベレスト国際平和登山時にUSAチームが着用していたフリースジャケットから材を取り、そこからさらに着心地をアップデートして復活。

llbean_エルエルビーン_wear_13「Hi-Pile Fleece, Jacket ハイ・パイル・フリース」

シンプルなデザインと長めの毛足が雰囲気の良い「Hi-Pile Fleece, Jacket ハイ・パイル・フリース」。

ハイ・パイルの名の由来は、そのボディマテリアルにある。毛足の長いポリエステル製フリースが暖かさを逃さず通気性も抜群。思わず触れたくなるテクスチャー感によって、クラシカルな佇まいながらゴワつかず、着心地の良さを保証する。また胸ポケットには【ギア編】でも触れた「カタディンロゴ」(ブランドの拠点であるアメリカ・メイン州にそびえるカタディン山脈に由来。その山脈が夕焼けに照らされた様子を描いたブランドアイコンの1つ)が鎮座し、信頼性に更なる太鼓判を押す。

llbean_エルエルビーン_wear_12「Hi-Pile Fleece, Jacket ハイ・パイル・フリース」

胸ポケットの上には「カタディンロゴ」が。モノトーン配色になるだけで都会的な雰囲気。

なお、バックパック着用時の摩耗が心配されるショルダー&エルボー部分には、ナイロン製パッチが施されているので、どんなにハードに着倒しても心配いらず。この素材同士の質感のコントラストが、ファッションとしての完成度を高める一因ともなっている。

llbean_エルエルビーン_wear_11「Hi-Pile Fleece, Jacket ハイ・パイル・フリース」

着用時に摩耗が心配されるショルダー&エルボーには、ナイロンパッチを配置してダメージ軽減。

ネック部分からの風の侵入を防ぎ、暖かさをキープするスタンドカラーに始まり、クラシックな胸ポケット、質感の違いで奥行きのある表情を演出するパッチ。そのディテールの全てに機能性に起因する理由があり、だからこそ味わえる“用の美”。これぞ名作の所以なり。

「Mountain Classic Anorak
マウンテン・クラシック・アノラック」
レトロ感が魅力、
ニュー・ヴィンテージの急先鋒。

続いてもまた定番なのだが、前述の2つに比べるとルックスは個性的。昨今の90年代リバイバルブームの追い風もあってか、古着業界でもファンが多い「Mountain Classic Anorak  マウンテン・クラシック・アノラック」。今回紹介するのは、もう少し時代を遡り80年代製。ちなみにアノラックは、グリーンランドに住むイヌイットたちが用いたシールスキン(オットセイやアザラシの毛皮)製のフード付防寒着「アノラク」に由来するそう。要するにプルオーバーパーカ。まぁ、そう覚えておけば問題ない。

llbean_エルエルビーン_wear_10「Mountain Classic Anorak マウンテン・クラシック・アノラック」

近年、復刻版も販売されている「Mountain Classic Anorak マウンテン・クラシック・アノラック」。

首元から胸下まで伸びるハーフジップのプルオーバーデザインは、使い勝手こそフルジップに劣るものの、インナーで遊べることから近年とみに人気上昇中。シンサレートの中綿入りで防寒性を確保し、横からアクセスするフロントの大きなカンガルーポケットも目を引く。収納力も十分で、ちょっとした外出程度ならばバッグいらず。

llbean_エルエルビーン_wear_09「Mountain Classic Anorak マウンテン・クラシック・アノラック」

春先に活躍度の高いハーフジップのプルオーバータイプ。インナー選びのセンスも問われる。

ポケット上部のジップポケットもさることながら、その上に走るチロリアンテープも雰囲気あり。時代を感じる切り替えによるマルチカラーとも相まって、古き良きレトロウトドア感を演出する。ちなみに本モデルのカタディンロゴは、古着業界で通称“ナイトカタディン”と呼称されているとか。色数の少なさを夜の月明かりに照らされた自然の姿になぞらえるとは、なんとも粋だ。

llbean_エルエルビーン_wear_08「Mountain Classic Anorak マウンテン・クラシック・アノラック」

カンガルーポケット、チロリアンテープ、そしてカタディンロゴとレトロアウトドア要素の役満状態。

古着の第一次ヴィンテージブームが巻き起った90年代、日本でもアウトドアファッションが大流行。当時、このアノラックにハイテクスニーカーを合わせた憶えのある読者諸氏には懐かしきノスタルジー。やや趣が異なるものの、現代ナイズされた復刻版ならば今も入手可能。ぜひともチェックあれ。

「Irish Fisherman’s Sweater
アイリッシュ・フィッシャーマンズ・
セーター」
本場でハンドメイド、
小細工なしのストロングスタイル。

アウターが続いたので、この辺りでトップスにも目を向けてみよう。今時期に活躍するトップスといえばフーディーやクルーネックスウェットがまず思い浮かぶが、エル・エル・ビーンではセーターがその役割を担う。中でも通称“バーズアイ(鳥の目)”柄の「Norwegian Sweater ノルウェージャン・セーター」がよく知られているが、この「Irish Fisherman’s Sweater  アイリッシュ・フィッシャーマンズ・セーター」を名作と推す声も多い。

llbean_エルエルビーン_wear_07「Irish Fisherman's Sweater アイリッシュ・フィッシャーマンズ・セーター」

冬の海で働く男たちから生まれた「Irish Fisherman’s Sweater アイリッシュ・フィッシャーマンズ・セーター」。

アイルランド島の西側に位置するアラン諸島で生まれ、冷たい冬の海で働く漁師たちにとって防寒着のひとつとなったフィッシャーマンズ・セーター。この質実剛健のワークウェアを製作するに際し、アメリカ生まれのエル・エル・ビーンがどのようにアプローチするのか? その答えは実に簡単明瞭。本場アイルランドにてハンドメイドで仕上げるという、小細工なしのストロングスタイルであった。

llbean_エルエルビーン_wear_06「Irish Fisherman's Sweater アイリッシュ・フィッシャーマンズ・セーター」

llbean_エルエルビーン_wear_05「Irish Fisherman's Sweater アイリッシュ・フィッシャーマンズ・セーター」

タグには「MADE IN IRELAND」「ALL PURE WOOL」の文字が。ボディにはハニカム柄、ケーブル柄、トリニティステッチなど伝統的編み模様が見られる。

もちろん本場で作られるだけに品質もお墨付き。ヨーロッパ製のソフトで高品質なウーステッド・ウール糸を100%使用。油分がしっかり残っているので保温性はもちろん、多少の雨風であればガードしてくれるのだから頼りになる。また、以前にもこのknowbrand Magazineで触れたが、ボディを構成する伝統的な編み模様はそれぞれに意味を持つ。機会があれば、荒れ狂う大海原で戦う男たちにおくられたメッセージの答えを読み解いてみるのも一興かと。

(→伝統的ニットウェアの編み模様に関する特集記事は、こちら

「Chamois Cloth Shirt
シャミー・クロス・シャツ」
見た目にも感じさせる温もり、
ブランド最古のシャツ。

最後は、その優れた性能にカスタマーたちが親しみを込めて“ビーンシャツ”と呼んだ……なんてエピソードもあるほどの名作シャツでお別れ。初出は1927年。当時は「Leatherette shir レザーレットシャツ」としてカタログに登場し、すぐにベストセラーに。その後、改良を重ねる中で着込むほどにシャミーレザーのような風合いになることが知られるようになり、1931年に現在のモデル名になって以降、今なお作り続けられている。正真正銘、ブランドを代表する最古のシャツとはまさにコレのこと。

llbean_エルエルビーン_wear_04「Chamois Cloth Shirt シャミー・クロス・シャツ」

1931年から、90年以上にわたって愛されている「Chamois Cloth Shirt シャミー・クロス・シャツ」。

素材はシャミー・クロス。貴金属や時計、メガネ、カメラのレンズなどの汚れを拭き取るのに用いられるシャミーレザー(セーム革)のように丈夫で、着込むほどに柔らかく肌に馴染む厚手のコットンフランネル生地をこう呼び習わす。高い保温性と耐久性を備え、見た目にも感じる温もりはアウトドアユースに最適ということで多くのアウトドアメーカーが採用。ビーンでは現在、ポルトガルの生地メーカーと共同開発したオリジナルのものが用いられており、丈夫さはそのまま、より暖かくソフトな着心地が楽しめるとのこと。

llbean_エルエルビーン_wear_03「Chamois Cloth Shirt シャミー・クロス・シャツ」

llbean_エルエルビーン_wear_02「Chamois Cloth Shirt シャミー・クロス・シャツ」

タグにもしっかり「Chamois Cloth Shirt」の文字が。素材に対するこだわりとプライドが感じられる。また、斜めにカットされた胸ポケットのフラップも特徴的だ。

両胸のポケットのフラップも斜めのカットが良きアクセントに。シンプルなアイテムだからこそ、こういった僅かなスパイスの一振りが大きな味変効果をもたらす。現在は残念ながら伝統と信頼のアメリカ製の看板は下ろすこととなったものの、ここで紹介したのは泣く子も黙るMADE IN U.S.A.。なんて大仰に書いてはみたが、まだまだ探せば見つかるニュー・ヴィンテージ。

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世界的パンデミックが世の有り様を変えてから迎える3度目の春。いまだ大きく状況が好転することなくとも、白んでいく山際が少しずつ明るくなっていくように、少しずつ世界は黎明へと動き出している。

あぁ「春はあけぼの」。

約1200年前に書かれた随筆『枕草子』の冒頭で、清少納言は春の趣き深い情景を“ほのぼのと夜が明けはじめるころ”と述べた。ならば我々も、平安の世に生きた先達と同じ心持ちでその瞬間(とき)を待とう。実用性に基づく機能性、日常に寄り添うデザイン。それらを過不足なく内包しながらヘビーデューティーであり続けるエル・エル・ビーンの傑作とともに、輝かしき未来を願った「カタディンロゴ」に想いを託して。

(→【ギア】編は、こちら

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