“永遠のアメカジ”を知る〜ハズレなしのシャツ名鑑〜 デニムシャツの絶対定番ブランド御三家 + α編
暢気な冬の名残とせっかちな夏の足音が交差する気候的要因、レイヤードを助ける利便性は言うまでもなく、シャツならではの凛々しさが始まりのシーズンによく似合う。無駄に肩肘張らずとも、自ずと背筋が伸びる。その気持ち良さは春そのものの喜びにも似て、未来永劫変わることがないだろう。
此度の題目は“永遠のアメカジ”を象徴するシャツ、その第二弾。前編のボタンダウンシャツに続き、本稿ではデニムシャツにスポットを当てる。アイビーやトラッドといった少々ノーブルなスタイルに紐づくボタンダウンとは異なり、独特の土臭さが漂うタフなワークウェアだ。
なかでも今回は、アメカジの源流とも言うべきデニム製のウエスタンシャツに着目する。〈Brooks Brothers ブルックス ブラザーズ〉〈INDIVIDUALIZED SHIRTS インディビジュアライズドシャツ〉〈POLO RALPH LAUREN ポロラルフローレン〉を扱った前編と同様、とりわけ有力なブランドとして名高い“御三家”の代表作を中心に紹介していこう。
リアルなアメリカが凝縮した
カウボーイのための実用的シャツ
最初に、ウエスタンシャツの全体像について軽くおさらいを。そもそもウエスタンシャツとは何か。端的に言えば、アメリカ⻄部のカウボーイたちによって愛用され、発展してきたワークシャツの一種。つまりは「カウボーイシャツ」と同義だ。
砂塵舞う荒野を人馬一体となり、暴れ牛と格闘する毎日。西部開拓時代から続くカウボーイの日常は、極めて熾烈だった。それだけに、身を守るシャツの素材にも相応のタフネスが求められる。その意味で、ウエスタンシャツとデニムは切っても切れない関係性にある。
デニムではなく華美なサテン生地を使い、刺繍や変形ポケットなどで飾ったものも見受けられるが、それらは「ウエスタン・フィエスタシャツ」もしくは「ロデオシャツ」と呼ばれる祭事用の服。本来的なウエスタンシャツとは前提から異なる。
頑強なデニム地とともに特徴的なのが、逆山型のショルダーヨーク、フロントのフラップポケット、片手でも開閉が容易なスナップボタン、さらには⻑めの着丈だ。これらのすべてが、馬上での実用性・安全性を踏まえてのディテール。背景となるロマンを含めて、ウエスタンシャツはまさにリアルなアメリカの味が凝縮した絶対的定番アイテムと言えよう。
「デニムシャツ」絶対定番ブランド御三家①−1
〈LEVI’S リーバイス〉
歴史的価値すら宿すオリジンを復刻
ここからは御三家の実力に迫る。初陣を飾るのは、言わずと知れたキング・オブ・デニム〈LEVI’S リーバイス〉だ。
デニム界のオリジネーターがカウボーイ向けのアイテムをリリースし始めたのは、一説によると1930年代頃から。当時、人気を博した西部の観光牧場「デュードランチ」やハリウッド映画の⻄部劇の影響で話題を呼んだこともあり、炭鉱などの労働者たちのアイテムだったデニムがその市場を広げていった。
紹介するのは、1940年代のシャツをモチーフとした1枚。歴史的価値すら宿す“オリジン”をもとに、〈LEVI’S VINTAGE CLOTHING リーバイス・ヴィンテージ・クロージング〉が復刻を手掛けたモデルだ。
リデザインとはいえ、風格たっぷり。奇を衒わない堂々たるシルエット、通称「ロングホーン」と呼ばれる⻑い角を持つ牛の骨が刺繍された背タグからも、往年のムードが感じ取れるだろう。なお、同デザインのリアルヴィンテージには「ショートホーン」の刺繍タグが付くモデルも存在する。
フロント中央に目を移せば、傾斜付き跳ね上げデザインの胸ポケットが力強く主張。「ダイアゴナルポケット」と名付けられたこのディテールは、シャツ全体にシャープな印象を与えるとともに物を出し入れしやすい実用的デザインとしても機能する。
ヨークの切り替えも大きな見所のひとつだ。今作は黎明期のモデルに当たるため、その印象はシンプルで直線的。一説によると本来ヨークは落馬時にカウボーイの肩を守るためにあしらわれた要素だとも言われるが、単なる装飾ではないデザインゆえの説得力がある。
必然性のある機能美は、ボタンからも見て取れる。フロントと袖口のすべてに、着脱が便利なスナップボタンを採用。日常的な脱ぎ着はもちろんのこと、馬具や牛の角などに引っかかった際でもすぐさま外せるよう設計されたというのだから恐れ入る。
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「デニムシャツ」絶対定番ブランド御三家①−2
〈LEVI’S リーバイス〉
ディテールが微妙に変化した1950年代型
続いてもリーバイスだが、こちらは1950年代に作られたモデル。復刻ではなく正真正銘のヴィンテージであり、市場価値の高い1枚だ。多少値が張るとはいえ、将来的にはさらなる高騰が予想される。リユースマーケットでの早々の確保をおすすめしたい。
背タグは、短い角を持つ牛の骨をプリントしたショートホーンタイプ。先に紹介したロングホーンとは異なるが、前述の通り1940年代モデルにもショートバージョンは見られるため、タグの差が年代を見分ける鍵にはなり得ない。
では、どこが変わったのか。大きな変更点は左右の胸ポケットにある。斜めに付けられたダイアゴナルポケットから、ボタンがふたつ付いたW型のフラップを持つデザインに。その見た目から、ノコギリの刃を意味する「ソートゥース」と呼ばれるフラップポケットへと変貌を遂げた。
ショルダーの切り替えも直線的ではなく、カウボーイシャツのお家芸たる逆山形のステッチングに変化。ヨークにはヴィンテージならではの馬蹄やウェスタンブーツのワッペン跡が残り、当時の面影を忍ばせる。
そのほか、袖の剣ボロのボタンがなくなり、身幅がシェイプされ、前身頃の着丈が後身頃より⻑く設計されるなど、細かなアップデートも散見。絶妙な差異に想像を膨らませつつ、自分らしく着こなしてほしい。
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「デニムシャツ」絶対定番ブランド御三家②
〈LEE リー〉
カウボーイ的魅力は名作「101」と遜色なし
1889年、ヘンリー・デヴィッド・リーが食品と生活雑貨の卸商「エイチ・ディー・リー・カンパニー」を設立。のちにオーバーオールをはじめとするワークウェアの仕入れを開始し、1911年にはカンザス州の自社工場でワークウェアの製造を本格的にスタートする。
そのブランドの名は〈LEE リー〉。アメリカを代表する老舗は、デニムシャツの歴史において無視できない存在のひとつだ。リーバイスに次ぐ御三家の二番手として、申し分のない実力と伝統を誇る。
カウボーイやロデオライダー用のアイテムをリーが製造したのは、1920年代頃からと言われている。その証左となるのが、1924年に誕生したデニム「101」。カウボーイパンツまたはライダースとも称される名作は、実は同年にスタートしたライン「Lee COWBOY カウボーイ」の中心的存在だった。
ウエスタンシャツに話を戻そう。今回紹介するのは、過去の名プロダクトを現代に蘇らせる「Lee Archive リーアーカイブ」による復刻モデル。モチーフとなったのは、極めて希少な1950年代の「RIDER SHIRT ライダーシャツ」だ。
同年代製のリーバイスらと比べても圧倒的に弾数の少ないレアモデルを復刻した1枚は、背タグにいかにもカウボーイ的な勇姿を刺繍。通称「跳ね馬」タグに、脳内で暴れる物欲を重ねずにはいられない。
胸のポケットやヨークも、まさしくウエスタンシャツの王道といった佇まいだ。ポケットはやや低めに設置され、フラップのデザインは1950年製のリーバイスと同じくソートゥース型を採用する。
左胸のフラップには、ブランドのピスネームが付属。当時の面影そのままに、登録商標を表示するレジスターマーク「R」やスペイン語で登録商標を意味する「Marca Registrada」の略称「M.R.」の文字は省略されている。
細かいディテールにも、リーのカウボーイシャツならではの醍醐味が。武骨さがたまらない極太の剣ボロ、潔くシェイプされたタイトな身幅、裾が裂けるのを防ぐ補強用のマチ、労働組合加入メーカーの証でもある「ユニオンチケット」などなど……。
ただし、残念なことに今作はすでに廃盤。リユースマーケットでの再会に期待だ。
「デニムシャツ」絶対定番ブランド御三家③
〈Wrangler ラングラー〉
西部へのロマンをスタイリッシュに具現化
デニムシャツ御三家のラストは、リーバイス&リーと並んで三大デニムブランドにも数えられる〈Wrangler ラングラー〉。他の二社に比べて後発ではあるものの、1904年に創業し、1919年に〈BLUE BELL ブルーベル〉と名を変えた会社を前身とするため、実は長い歴史を持っている。
せっかくなので、ブランドの歩みについて少々掘り下げておこう。件のブルーベル社はワークウエアブランドを展開しており、後に同業種のワークウエアブランド〈BIG BEN ビッグベン〉と合併。さらに1943年には〈CASEY JONES ケーシー ジョーンズ〉という会社を買収し、その配下にあったレーベル〈Wrangler ラングラー〉を吸収する。
日本語で「牧童(ぼくどう)」という意味を持つラングラーは牧場での労働者、すなわちカウボーイを示唆。そのため1947年、満を持してウェスタンウエアランドとしてラングラーが市場に参入することとなったのだ。
では、本筋のデニムシャツを見ていく。紹介するモデルは、1952年に登場したファーストタイプ「27MW」を「Wrangler JAPAN ラングラージャパン」が1990年代に復刻させたもの。オリジナルの27MWはプロでも滅多に出会えないスーパーレアであり、復刻版の今作もネクストヴィンテージとして大きな存在感を放つ。
一目瞭然かはさておき、ラングラーのデニムアイテムは、リーバイスやリーといったカウボーイ市場の既存ブランドとは一線を画している。なぜなら初期のラングラーは、ハリウッド映画の⻄部劇で衣装デザイナーを務めていたロデオ・ベンがデザインを担当していたから。
彼が生み出した作品は、カウボーイ特有の勇ましさを強調してスタイリッシュに表現されたもの。ワークウェアの域を超えた新時代を担うカウボーイウェアとして、当時から大きな注目を浴びていた。
ディテールに目を移せば、確かな違いが見て取れる。これまで紹介した3枚のシャツがすべて6個のフロントボタンを備えるのに対し、今作は8個。ファーストモデルはすべてブロンズ製のスナップボタンで、「W」の刻印が入る。腕を動かしやすい太いアームホールも特徴。着丈は乗馬中の事故防止のためのタックインを前提として、極端に⻑く設計された。
胸ポケットは“ダイアゴナル”ながら、リーバイスよりもシャープな雰囲気に。ブランドの象徴たる「W」のステッチ(Wを発音しないので「サイレントW」と呼ばれる)が刻まれるのも趣深い。バックヨークもデコラティブで、総じてファッションアイテムとしての高い完成度を物語る。
ちなみに、原型となったオリジナルの27MWはサードモデルまで存在し、かの名優ステーィーブ・マックィーンが愛用したことでも知られる。1965年公開の『ハイウェイ(原題 Baby The Rain Must Fall)』では、見事なタックインスタイルを披露。今また新鮮なデニムシャツの着こなしに、惚れ直すこと必至だ。
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「デニムシャツ」絶対定番ブランド+α
〈RALPH LAUREN ラルフローレン〉
西海岸で生まれたデニム製ボタンダウンシャツ
御三家の共演はこれにて幕。が、もうしばしのお付き合いを。アンコールの舞台袖に控えるは、御三家に負けず劣らず高名な〈RALPH LAUREN ラルフローレン〉。アメリカ西海岸に位置するカリフォルニア生まれのブランドが、“ウェスタン”なデニムシャツの殿を担う。
老舗メガブランドが誇る多彩なラインのうち、ここでは〈POLO COUNTRY ポロカントリー〉のシャツを紹介。通称「ポロカン」は1989年から1992年の4年間のみ展開されたヴィンテージ仕様に特化したラインで、ラルフ・ローレン本人の趣味趣向が色濃く反映されたテイストは後に〈RRL ダブルアールエル〉へと引き継がれていく。
インディゴカラーの1枚は、往年のボタンダウンシャツの趣き。ゆとりのあるシルエットで幅広い着こなしにマッチする。オックスフォードよりも厚手でタフなデニム生地は、80〜90sの空気を孕んだ絶妙な色落ちも魅力だ。ボディとは対照的な赤色で刺繍された左胸のポニーロゴもアクセントとなり、シンプルデザインをセンス良く盛り上げる。
最後にもう1枚、ポロラルフローレンのデニムシャツもご覧いただこう。黒く染色した糸で仕立てられる先染めのブラックデニムは、ブルーデニムに比べて流通量が限られる。当然、今作のボタンダウンも稀少性が高い。
先ほどの「ポロカン」との違いは生地の色だけにとどまらず、身幅やアームホールがかなり広めなビッグシルエットを採用。背タグを見ればわかるように、「The Big Shirt」というモデルなのだ。
実はこのシャツ、1990年代のわずかな時期にだけ展開された「Big POLO」から派生したと噂される。オーバーサイジングが主流の現代にあって、その稀少性はさらにありがたみを増すのだ。
アイコンのポロポニーも左胸でなく前身頃右裾にひっそりと佇むなど、ファンならずともニヤリとするディテールも装備。レアモデルながら、未来の定番としての地位を確立してもまったく不思議ではない。
(→〈Ralph Lauren〉のデニムシャツをオンラインストアで探す)
(→〈Ralph Lauren〉に関する別の特集記事はこちら)
シャツ特有の上品さと、デニムならではのタフネス。ウエスタンシャツをはじめとするデニム製シャツには、ある意味で二律背反とも言うべき魅力は潜む。それは、自分だけのスタイルを持ついい大人にとって、決して抗うことができない魔性だ。
永遠のアメカジ、その根幹をなす永遠のシャツ。今春はぜひ新たな相棒とともに、永遠の春を味わってほしい。