メンズが持つべきラグジュアリーとは? 普段使いできる一生モノ〈エルメス〉〈ティファニー〉〈コーチ〉…
今や、止まらぬ円安物価高。値上げ値上げの嵐に困窮するサイフの中身。そんな時代ゆえ、どうしても買物には慎重になる。当然「買って損した」なんて失敗はしたくない。であるならば、流行り廃りに左右されず、末永く愛用できるモノを知り、吟味し、手に入れるのが庶民のライフハック。いやさ広義ではチープ・シック。
そこで今回は、メンズ諸兄が持つべき、普段使いできる“一生モノ”として、ラグジュアリーなアイテムについて考えたいと思う。
ことファッションの世界では、高品質な贅沢品や高級品に“ラグジュアリー”という形容詞が付き、この冠を有する一部のブランドをラグジュアリーブランドと称する。とはいえいたずらに高価なだけではない。深く長きにわたる歴史とその中で培われてきた最上位の技術と品質、これに裏付けされた確固たる権威性。自ずと醸し出されるのは一流、一級、はたまたホンモノの風格。手に入れれば、まさに一生モノとなること間違いなし。本稿がモノ選びに迷える子羊たちを導く、北極星となることを願って—。
メンズが持つべきラグジュアリーな一生モノ①
〈HERMÈS エルメス〉
「Brides de Gala ブリッド‧ドゥ‧ガラ」 のスカーフ
「Carres 90 カレ90」
古き良き昭和の時代、パリ土産といえばカレのコレ
ハイブランドは世に数あれど、トップメゾンの称号に最も相応しきは〈HERMÈS エルメス〉。その中で真っ先にメンズ諸兄に推したいのが1枚の布。だが、ただの布ではない。かのキリストの遺体を包んだ聖骸布もかくやの尊さ、その名は「Carres 90 カレ90」。いわゆる“エルメスのスカーフ”で知られるアレだ。
エルメスといえば「Kelly ケリー」や「Birkin バーキン」「Haut à Courroies オータクロア」といったバッグや、シルバー製のブレスレット「Chaîne d’Ancrele シェーヌダンクル」、Hのバックルがアイコニックな「Constance コンスタンス」のベルトなど、数多くの名作を生み出したことで知られるが、スカーフも知名度では負けていない。なんせ昭和の時代、パリ土産の定番といえばコレだった。
1837年に創業者のティエリ・エルメスが開いた高級馬具工房から始まったエルメスの歴史は、馬車から自動車へと移動手段が移り変わる1900年以降、馬具以外の新たなアイテムを展開する。そして創業から100年後の1937年に登場したのが、シルク素材のスカーフ、カレである。
フランス語でカレは正方形を意味し、90cm×90cmの正方形=カレ90といわれる定番サイズ。様々なモチーフがある中で、販売数がギネス記録にも登録されている不動の人気モデルが「Brides de Galaブリット・ドゥ・ガラ」。モチーフは式典用馬勒(ばろく。馬の頭部にかけて馬を御する革ひもを指す)。
このデザインに関して、公式サイトには「鞍職人としてのエルメスとカレとの初恋を象徴すると同時に、美しくも有益で耐久性に優れているものへの愛着と、ジャン=ルイ・デュマが“儀式のための煌びやかな装束”と表現したところのエルメスのヘリテージを想起させます」とある。
…正直意味は分からない。ただ、ブランドの象徴でもある馬具の中でも、鞍や鐙と同じく最重要な馬勒を左右シンメトリーに大きく配置した大胆なデザインは、落ち着きのあるゴールドの色味も相まって、見る者に優美な印象を与えることはたしか。ただしコーディネートする際は、シンプルに合わせるに限る。
使い方は自由自在。90cm×90cmのキャンバスの中から魅せたい柄を決めて、あとはそれが見えるように首元に巻くだけ。または首から垂らすだけ。いつものコーディネートの幅もグンと広がり、いきおい彩りも増す。まずは難しいことは考えず、気軽に取り入れてみれば良い。ファースト・エルメスはカレのスカーフ。齢を重ね“枯れ”た己が身に色気を取り戻すのにも、これ以上なくうってつけかと。
(→〈エルメス〉の「ブリッド・ドゥ・ガラ」のスカーフ「カレ90」をオンラインストアで探す)
(→〈エルメス〉のスカーフ「カレ90」をオンラインストアで探す)
メンズが持つべきラグジュアリーな一生モノ②
〈HERMÈS エルメス〉
「Lettres Equestres レトルエケストル」のスカーフ
「Carres 90 カレ90」
整然と並んだ馬具に込められた、秘密のメッセージ
続いて紹介するのもカレ90。整然と並ぶイラストは何かの道具のようだ。左上からベルト、ベルト、ひとつ飛ばして、ベルト、ベルト、ベルト…なんてよくよく目を凝らして見ていく内に、どれも馬具であることに気付く。左端に記されたのは「Lettres Equestres レトルエケストル」の文字。こちらがモデル名だ。
フランス語で「Lettres」は手紙、「Equestres」は馬術を意味する。先述のように馬具の製造から始まったエルメスからの何かしらのメッセージが込められているのか…? そんな想像を膨らませながら、いま一度スカーフ全体を俯瞰して見てみると…分かった! 馬具が“HERMÈS”の文字を模してレイアウトされているではないか。
公式サイトを覗くと、本アイテムの説明文には“オブジェの秘密”というキャッチコピーが添えられている。この秘密の暗号を解けた者だけに幸運が訪れるのか、はたまた…。そんな上流階級の知的でノーブルなお遊びも、いつものスタイルに取り入れれば、程よく違和感を与える絶好のスパイスへと変わる。
使い方もベーシックにいくなら、首へ垂らすように掛けるか首元へ巻き付けるか。折ったり結んだりが苦手ならば、親指より少し大きめなスカーフリングを使用するなんて手もアリ。輪の中にスカーフを通すだけで様々なアレンジが簡単にできるので、これをもって自分らしいアレンジを見つけるのもまた楽しい。
先述のブリット・ドゥ・ガラに比べ、全体に等間隔&同面積でイラストが入るため使いやすさでは軍配が上がる。そういう意味でも“らしくない”エルメスをお探しならば、ぜひ選択肢に加えたい。
とはいえ2024年12月現在の国内価格は、渋沢栄一約8人分となかなかのもの。馬繋がりで“競馬の神様”と謳われた競馬評論家・大川慶次郎氏の曾祖父が渋沢栄一である。というトリビアと合わせて覚えれば、まぁ、話のネタにもなり元も取れるか。
(→〈エルメス〉の「レトルエケストル」のスカーフ「カレ90」をオンラインストアで探す)
(→〈エルメス〉のスカーフ「カレ90」をオンラインストアで探す)
メンズが持つべきラグジュアリーな一生モノ③
〈HERMÈS エルメス〉
「Sichuan 四川省」のスカーフ
「Carres 90 カレ90」
モチーフは中国・四川、野生動物たちの楽園を描く
和尚から渡されたお札が、山姥から寺の小僧を救うのは民話『三枚のお札』。では、エルメスのスカーフが3枚揃うとどうなるか。正解は…テンションが上がる。それもこんな個性際立つ、異色のモデルならなおのこと。アイテムは「Sichuan 四川省」のスカーフ「Carres 90カレ90」。Sichuanとは、英語で中国の四川省を指す。
同地は、西にチベット自治区と隣接する7,000メートル級の山々が連なる山岳地域を擁し、その激しい起伏が人と文明を拒み、今もなお希少な動物が多く生息しているという。そんな厳しくも美しい四川の自然の中、ありのままの姿で生きる動物たちのパラダイスを描いたのが、多くのエルメス作品においてアニマルパターンで名を馳せた動物画家の〈Robert Dallet ロバート・ダレット〉その人。
注視すべきはリアルな描写とバランスの取れたモチーフの配置。その中央下部で存在感を放っているのが、四川省を代表する希少動物であるジャイアントパンダ。中国の国宝とも言われ、野生では1,900頭を下回るレッドデータアニマルだ。これにはトットちゃんもビックリ。
それだけではない。ほかにも絶滅危惧種のユキヒョウ、白面金毛のサルといえばのキンシコウ、太い角を持ったヤギ似のウシ科のバーラル、美しい尾を持つ鳥・キジシャコなど、数多くの希少動物たちが90cm四方の中に、生き生きと描かれている。
1995年の初出以降、カレ90の中でも人気のモチーフとして配色を変えながら幾度となくリバイバルもされている。その理由のひとつが“使いやすさ”。芸術性もさることながら、全体のトーンやモチーフの大きさに統一感があり、意外にもどんなコーディネートにも馴染むのだ。
最後にひとつ使える小ネタを。
パンダの語源は、生息地の言葉で“竹を食べる者”を意味する“ネガリャポンヤ”であると言われている。そして元々、パンダは先に発見されていたレッサーパンダに対しての呼称だったが、ジャイアントパンダが後に発見され、類縁関係と見なされたことで両方を区別するため、英語で“より小さい”を意味する“Lesser”を付けたレッサーパンダと、“より大きな”を意味する“Giant”を付けたジャイアントパンダと呼び分けられるようになった。これを知った上で改めてスカーフの右上を見ると…あ、レッサー…!
(→〈エルメス〉の「四川省」のスカーフ「カレ90」をオンラインストアで探す)
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メンズが持つべきラグジュアリーな一生モノ④
〈HERMÈS エルメス〉
「Siffler シフレ」の「犬笛」
吹いても聴こえぬ音色から紐解く、馬と犬の関係性
3度目の正直はあっても、4度目のエルメスはさすがに…という声を危惧し、少し違った角度から、さり気なくエスプリを効かせたアプローチを。それが「Siffler シフレ」の「犬笛」。このSiffler自体が仏語で“口笛を吹く”などの意味があり、ホイッスルそのものを指す。そして犬笛は人間には聴こえず犬にのみ聴こえるホイッスルの一種で、しつけなどの際に用いられる。これをアクセサリーにしたのが本作である。
「馬具や馬をモチーフにしてきたエルメスが、なぜ犬笛!?」と不思議に感じる人もいるだろうが、ヒントはエルメスの歴史が馬具からスタートしていることに関係する。19世紀~20世紀のヨーロッパの貴族階級は馬に乗り、ゲームとしての狩猟を嗜んでいた。この時のパートナーとなったのが猟犬である。
エルメスも20世紀はじめに犬の首輪を制作し、その過程で猟犬をエレガントに守るための意匠としてスタッズなどを落とし込んだデザインを考案。そこで生まれたベルトは、のちの1949年にブレスレットに生まれ変わり、今も人気の「Collier de Chien コリエ・ド・シアン」の起源となった。かように実は縁深い、犬とエルメス。
この前提の上で見てみれば、奇をてらったようにも思えるモチーフにも納得がゆく。ヘッド部分はシルバーではなくスティール。ストラップ部分には伝家の宝刀のレザーを採用。内側には“MADE IN FRANCE”“HERMES PARIS”の印字が光る。
十分な長さもあるため、首から下げてレザーネックレスにもなる。個性的でありながらシンプルなデザインがゆえ、性別を問わずユニセックスでの着用も可能。こういった珍しいアイテムがあるのもエルメスの懐の深さ。遊び心をもってワードローブに迎えれば、また新たな魅力に出会えるに違いない。
先に述べたように、犬笛は犬には聴き取れても、人の耳では聴き取ることができない。これが転じて、特定の集団にしか理解できない暗号や符丁にも似た表現を使い、気付かれないように人々の考えや行動を操る政治手法のことを、犬笛と呼ぶとか。我々もまた、気付かぬ内にエルメスからのメッセージを受信しているのかも…しれない。
(→〈エルメス〉の「シフレ」の「犬笛」をオンラインストアで探す)
メンズが持つべきラグジュアリーな一生モノ⑤
〈COACH コーチ〉
「DUFFLE SACK ダッフルサック」
タフでユースフルを貫く、オールドコーチの大定番
レザーへの飽くなき探求と追求は、かのエルメスにも負けず劣らず。掲げるブランドの名は〈COACH コーチ〉。同社といえば“C”のモノグラムキャンバスで著名なシグネクチャーコレクションを思い浮かべがちだが、本特集でまず取り挙げるのは、コーチの中でも近年人気がとみに高まる「オールドコーチ」。その中でもメンズが持つのに最適と判断して推すのが、このバケツバッグだ。
一般的に、1960〜1990年代頃に製造されたアイテムが“オールドコーチ”と呼ばれる。こういったヴィンテージ的価値に惹かれるのは“モノ好き”の性だが、なぜレザーへのこだわりをフックに、ましてやメンズでコーチを取り挙げるのかと問われれば答えは簡単。同ブランドは元々、革小物などを製造するメンズオンリーのブランドだったからである。
アメリカはニューヨーク生まれのコーチは、マイルズとリリアンのカーン夫妻によって1941年に創業。腕利きの6人の職人が手掛ける革製品の品質が評判を呼ぶ中、1973年にリリースされたのが、逆さ台形の円筒状フォルムから“バケツバッグ”の通称でも親しまれている「DUFFLE SACK ダッフルサック」。
野球選手のミットのように頑丈な上、使い込むほどに柔らかく艶やかに味わいを増す革“グラブタンレザー”を使用し、耐久性と軽さを両立したユースフルなバケツ型のショルダーバッグは大ヒットを記録。のちにシンボル的存在として親しまれるように。
クローム、植物タンニンと2段階のなめし作業を経て完成するグラブタンレザーは、タフでありながらも端正で深みのある表情を浮かべる。それでいて縫製部は丁寧な仕事がなされている。細部に至るまで手抜きなし、男のレザーバッグとはかくあるべし。
その証拠にバッグの内側には、ブランドタグ代わりに高品質の証とされる刻印が。製造国表記は“UNITED STATES”。もちろん、アメカジ好きが脊髄反射で歓喜するアメリカ製だ。同じく手作業で製造されたことを意味する“HANDCRAFTED”の文字も判読できて喜びは二乗。泣く子も黙るグッドスミスのお墨付き。
さて、この刻印も年代ごとに表記法則に違いがあることをご存知か。1960〜1970年代は“MADE IN NEW YORK CITY .U.S.A.”の文字が最下段に一列で入り、1980年代は“MADE IN U.S.A.”や“MADE IN THE UNTED STATES”の文字が最下段に中央揃えで入る。1990年代になると、うって変わって“IT WAS HANDCRAFTED IN THE UNITED STATES OF COMPLETELY〜”の文字が 1行目の最後から3行目までに入る。
また製造国は、アメリカ以外にも中国やイタリア、メキシコなどが存在。どうせこだわるのであれば、誕生の地であるアメリカ製を選んでもらいたい。ただし、リユースマーケットにおいても状態の良い個体は年々減少傾向。見かけたら即購入…の前にしっかりと内側の刻印はチェック推奨1・2。
(→「オールドコーチ」の「シュルダーバッグ」をオンラインストアで探す)
メンズが持つべきラグジュアリーな一生モノ⑥
〈COACH コーチ〉
「TOTEBAG トートバッグ」
信頼と自信、タフでやさしい。そんな男のトート
男のコーチとして“オールドコーチ”を推すからには1アイテムのみでは勿体ない。とはいえ先のダッフルバッグで答えは出てしまっている感は否めない…。ならばバケツ型のスタイルは押さえておきながらも、少しカジュアルさは抑えて、落ち着きのある大人の雰囲気に振ってみてはいかがだろうか。あまりにもヒネリのないモデル名は、裏を返せば信頼と自信の証ともいえる「TOTEBAG トートバッグ」。
素材はダッフルサック同様、140km超えの速球にも耐えうるグラブタンレザーを使用。その優れた堅牢性は言わずもがな。重量感のある書籍や書類の束に13インチのiPadなどのガジェット&周辺機器までひと通り収納してなお、余裕で持ち運べる。
カラバリも当然揃ってはいるが、無骨さを狙うならば男の定番色たるブラックに一票。同ブランドの定番であるブラウンは上品さが魅力だが、こちらはより引き締まった印象を与え、グッと男らしさが前面に。「男がトートバッグを持つなんて…」とお考えならば時代錯誤も甚だしく、ユースフルで何が悪い。「タフでなくては生きていけない。やさしくなくては生きている資格がない」と、かのフィリップ・マーロウも言っているではないか。
この言葉を後押しするディテールが、長さの調整が可能なレザーストラップ。通常の手提げとしての運用方法以外に、ストラップを長く設定することで肩掛けにも対応。これが機能面において非常に有用に働く。また、くすんだ風合いが風情を添えるゴールドカラーのバックル部分も、控えめに、されど力強く存在感を主張する絶好のデザインアクセントに。
リユースマーケットでは、ブランド名が記されたレザーパッチ付属の個体もたびたび発見されるので、狙い撃ちしてみるのも一興だ。ダッフルサックとトートバッグ。オールドコーチの代表的マテリアルであるグラブタンレザーを共に使用しながら、異なる印象を与えるふたつのバッグ。どちらかを選ぶ必要に迫られたならば、いっそ両獲りが最適解。欲望に忠実であることは、時にオトコの美徳となり得るのだ。
(→「オールドコーチ」の「トートバッグ」をオンラインストアで探す)
メンズが持つべきラグジュアリーな一生モノ⑦
〈Tiffany & Co. ティファニー〉
「Silver Accessories シルバーアクセサリー」
実用性と装飾性を兼ね備えながら、ウンチクも満載
いよいよ本稿もラスト。有終の美を飾るのは〈Tiffany & Co. ティファニー〉のシルバーアクセサリーたち。1837年、ニューヨークでチャールズ・ルイス・ティファニーと同級生のジョン・B・ヤングにより創業された文房具と装飾品の店をルーツとするティファニー。その後、装飾品の世界で大きな成功を収め、世界的アクセサリージュエリーのブランドへと成長。現在へと続く“ラグジュアリーアイテム”の概念を創出し、多くの名作・傑作を世に送り出してきた。
アメリカ初のメールオーダーカタログを始めたことでも有名。この伝統は1845年以降、現在まで続いており、“ブルーブックコレクション”の名のもと世界最高峰のジュエリーを掲載し、世のエグゼクティブ&セレブレティたちのバイブルとなっている。今回は、そんなティファニーの数ある名作アイテムの中から、特にメンズに推したい3点をピックアップ。
まずひとつ目は、曲線の美しさに目を奪われる大ぶりのバングル。ジュエリーデザイナーのエルサ・ペレッティが手がけた作品「Bone Cuff ボーンカフ」だ。幼少期から骨に特別な興味を示した彼女により人間工学に基づき制作された同作は、手首にしっくりと馴染む有機的な曲線でデザインされ、右手用と左手用が存在する。
ちなみに、かの「Open Heart オープンハート」も彼女が手がけたもの。それらティファニー在籍時にデザインした作品は現在、大英博物館、ボストン美術館、ヒューストン美術館の20世紀コレクションにも所蔵されており、訪れる者に彼女の偉大さを伝える、モノ言わぬ語り部となっている。
ティファニーが作るシルバーアクセサリーは、どれも実用性と装飾性を兼ね備えている点が特長といえる。ハート型のタグを添えた「Keyring キーリング」もまたそう。本稿の読者の中には、若き時代を思い出し、ノスタルジーを感じる世代も多いだろう。
タグ部分に刻まれた言葉は“ティファニーへご返却ください”という意味の“Please Return To Tiffany”。“もし紛失した場合でもティファニーに届けられた後、持ち主の手元に戻るようにと顧客を想うサービスに由来し、本モデルのシリーズ名にもなっている。実際に当時のキーリングは、一つ一つに異なる製造番号が打刻され、購入者の情報とともに登録されていたという。リセール市場で探す際には、好みの製造番号から選んでみるのも通の戯れ。
最終は「Money Clip マネークリップ」。2019年に誕生したメンズライン「Tiffany 1837 Makersティファニー 1837 メイカーズ」からのエントリー。ティファニーの創業年“1837”と、同社の根底に流れるクラフツマンシップを表す“メイカーズ”。すなわち、モノづくりのルーツを意識しながらもモダンな要素を落とし込み、メンズのライフスタイルに寄り添ったデザインであると謳う。
表面に刻まれているのは、数多のインスピレーションと深い感銘を世に与えたティファニーが誇る自社工房、ホローウェア工房にて生み出される製品と同じ、3つのホールマーク“T & CO MAKERS” “NY” “925”。NYはホームタウンへのリスペクトを、925はシルバーの純度を表す。このシルバー925という表記を設定したのも、実はティファニー。意外な話だが、同社のチーフデザイナーであったエドワード・C・ムーアが、ニューヨーク市警の名誉勲章メダルのためにデザインした“N”と“Y”が組み重なったマークが、のちにニューヨーク・ヤンキースのロゴになったという有名なエピソードもあるし、何となく納得。
リセールマーケットにおけるティファニーのシルバーアクセサリーは、昨今高騰化の一途を辿るエルメスのシルバーアクセサリーと比べれば、まだリーズナブル。本稿の序文でも述べた普段使いできる“一生モノ”としてのラグジュアリーアイテムとしては適任。誰しもが“ティファニーで朝食を”を叶えることができるのだ。
(→〈ティファニー〉のシルバー925の「バングル」をオンラインストアで探す)
(→〈ティファニー〉のシルバー925の「キーリング」をオンラインストアで探す)
(→〈ティファニー〉のシルバー925の「マネークリップ」をオンラインストアで探す)
→〈エルメス〉の「シルバーアクセサリー」に関する特集記事はこちら)
メンズ諸兄に「普段使いできる“一生モノ”として、ラグジュアリーなアイテムを吟味し手に入れること」推奨するのが本稿の目的。ゆえに、気になるアイテムとの出会いがあればこれ幸い。
繰り返しになるが、深く長きにわたる歴史とその中で培われてきた最上位の技術と品質、これに裏付けされた確固たる権威性。そこから醸し出されるホンモノの風格を備えたラグジュアリーなアイテムを手に入れることが、己をひとつ上のステージへと押し上げてくれる道となる。……なんて詭弁にすぎないが、それでも信じて散財することが時に必要だ。無駄と伊達に磨かれてこそ男は輝く。そういう生き物なのだ。