FASHION

ニッポンの“美しい山”〈モンベル〉に誘われて… 欲しいのは“ホンモノ”のアウトドアウェア

キャンプにトレッキング、紅葉狩りだって乙だ。三密を避けるムーブも手伝って、世は空前のアウトドアブーム、山ブーム。ただし、コロナ禍以前からストリートではアウトドア由来の機能服が人気を集めている。シーンを選ばず使えるタフネスと、モダンなビジュアル。そんな褒め言葉は、ファッション業界においてまるで常套句のように乱発される。

となると焦点を当てるべきは、それが“ホンモノ”であるかどうか。前回の〈ARC’TERYX アークテリクス〉に続き今回ご紹介するのは、“美しい山”というフランス語を語源とするニッポンの雄。まごうことなきヘビーデューティー、気高き〈mont-bell モンベル〉の世界へようこそ。

シンプルなモットーに凝縮した
元トップクライマーのモノづくり。

「自分たちの欲しいものを作る」。このシンプルなモットーが、ブランドの凄みを体現している。〈mont-bell モンベル〉が生まれたのは、今から半世紀ほど前の1975年のこと。少年時代に読んだ名著『白い蜘蛛』に影響を受けてクライマーの道へと進んだ辰野勇が、山岳仲間とともに立ち上げたのがブランドの興りだ。

モンベル創設以前の辰野は、1969年に世界最年少の若さで日本人2番目のアイガー北壁制覇者となるなど、日本のトップクライマーとして名を轟かせた。1970年には日本初のクライミングスクールを開校。その一期生には、ともにモンベルを立ち上げた真崎文明も名を連ねている。スクールを取り仕切る傍ら、辰野はスポーツ用品店や登山道具専門店、商社の繊維部門で経験を積む。そして1975年、28歳の誕生日に商社を退社し、冒頭の信念をもって起業するのである。

創設当初こそ思うようにいかず、辰野の商社時代の伝手から大手スーパーのショッピングバッグを作るなど資金集めに奔走したが、あるアイテムの製造を境に一気に雲が晴れる。それが、ブランドが初めて手掛けた登山用品のスリーピングバッグだった。その際にも商社時代の繋がりが活き、世界的な企業として名高い「Dupont デュポン社」の素材を中綿に採用。画期的な軽さと暖かさで大ヒットとなり、その後のデュポン社との蜜月も決定付けた。

その後は、同じく世界的なアウトドアブランドである〈Patagonia パタゴニア〉と手を組んで販路を海外にまで拡大。モンベル製の素材を使ってパタゴニアがアイテムを製造し、パタゴニア製品の日本販売をモンベルが請け負うなど、いたって良好な関係が続いた。相思相愛の関係性はそのままに、後に両者は決別。以降、モンベルのオリジナルアイテムが存在感を増していく。

前述の通り、創業以来のモットーは「自分たちの欲しいものを作る」。そして同時に、2つのコンセプトを掲げている。「Function is Beauty=機能美」と「Light and Fast=軽量と迅速」。決してデザインだけを優先せず、あくまで自らの経験に照らし合わせた機能美のもとに使用者ファーストの利便性を貫く。これ以上のホンモノがあるだろうか。

 

「CLIMA AIR JAKET
クリマエア ジャケット」
歴史的DNAを宿す傑作フリース。

では、彼らが作り出す「自分たちの欲しいもの」のなかでも、傑作と評判のアイテムを眺めていこう。まずは定番の「CLIMA AIR JAKET クリマエア ジャケット」から。

そもそもモンベルのフリースジャケットはスリーピングバッグと並んで長い歴史を持ち、日本で初めてフリースを作ったのもモンベルだ。初代の「Orlon Fleece Jacket オーロンフリース ジャケット」は1978年生まれ。ウールセーターと同等以上の保温力と耐久性を持ちながら、重さは約半分に抑えた記念碑的存在である。

アウトドア然とした王道ビジュアルの「クリマエア ジャケット」。名前にも用いられた新素材クリマエアは、抜群の保温性と軽量性を誇る。

そこから時代を経て、最新版となるこのフリースジャケットには「クリマエア」なる機能素材が採用されている。滑らかな風合いを持ちながら、あえて繊維を粗めに編むことで軽量化を実現。繊維量を減らす一方で毛足が長い素材が多くの空気を蓄え、保温性の高さは揺るがない。まさに、先に述べた2つのコンセプトを具現化したアイテムと呼べよう。

山で頼れるディテールは、街においても存在感ひとしお。胸ポケットはジッパー付きで、脇下や袖には伸縮性の高いストレッチクリマプラスを採用して身体の動きをサポートする。

袖口にサムホールと呼ばれる穴が存在。親指を通すことで、手の甲まで覆われる仕組み。

当然のごとく、ディテールにもこだわりが。アイコニックなジッパー付きの胸ポケットのほか、伸縮&速乾性に秀でた別素材「ストレッチクリマプラス」を当てた脇下や袖など、見どころは多数存在。親指を通すことで簡易手袋のような機能をもたらす袖口の「サムホール」は、山のみならず冬の街でも頼りになる。 

「STORM CRUISER JACKET
ストームクルーザージャケット」
全方位的に隙のない最高峰モデル。

昨今では誰もが知る「ゴアテックス」だが、モンベルはすでに1982年から定番アイテムに取り入れていた。その名の通り“嵐”にだって立ち向かえる全天候型のジャケット「STORM CRUISER JACKET ストームクルーザージャケット」がそれだ。

名品ゆえ、誕生以降も定期的にアップデートを続ける今作。軽量&耐久性能の高さは更新され続け、現在ではゴアテックスメンブレンの裏地に極めて薄いニット素材を使う。そんな飽くなき挑戦も、山へ真摯に挑む姿勢を代弁するかのようだ。

全天候型の「ストームクルーザージャケット」。ゴアテックスをはじめ、機能素材の恩恵が満載。

表地は、通常のナイロンと比較して約2倍の引き裂き強度を誇る「バリスティックナイロン」。また、選りすぐりの素材だけでなく“調理方法”にもモンベルらしい秘策が施される。縫製箇所を極力減らし、水の侵入の要因となるミシンの針穴や縫い代も最小限に。さらには一本一本の縫い糸にまで撥水加工を施す徹底ぶりだ。

表地はバリスティックナイロン製で、袖口にはしっかりとゴアテックスのロゴが。充実のファンクション、その一端を物語る。

シームテープ、いわゆる止水テープの処理は前回の記事で述べたアークテリクスのそれには及ばないものの、独自技術「スマートソーイング™」を用いることで縫い合わせを抑制。一般的なものより薄い13mmという幅に結実した。

パッカブルの仕様からも、ブランドらしい哲学が見て取れる。

そのほか、バックパックを背負う際に負荷のかかる肩部分は縫い目を一切設けない堅牢な作りに。これぞ、どの角度から切り取ってもモンベルのレインウェア・マウンテンパーカ史上最高峰とも呼べる出来栄え。しかもそれをパッカブルで携帯でき、いざという時にすぐ使える。これ以上、何を望もうか。

「SUPERIOR DOWN
ROUND NECK JACKET
スペリオダウン
ラウンドネックジャケット」
革新的技術と発想で、
ダウンの概念を変える。

防寒着と聞いて、真っ先に思い浮かぶもの。それはダウンではなかろうか。こちらは、モンベルが誇るマスターピース「SUPERIOR DOWN ROUND NECK JACKET スペリオダウン ラウンドネックジャケット」。それまでアウターとして認知されていたダウンに、インナーダウンという新しい概念を植えつけた立役者である。

薄くて暖かく、使い勝手抜群。インナーダウンの元祖ともいうべき「スペリオダウン ラウンドネックジャケット」。

重ね着を前提とするならば、ダウンにありがちな着膨れが天敵となるのは察しの通り。それを鮮やかに打ちのめすのが、ブランド独自の「EXダウン」だ。寒暖差の激しい環境で育てられた水鳥から採取される希少なダウンだけを使い、量より質の方法論で優れた保温性を担保。800フィルパワー(一般的な高品質ダウンが700フィルパワー)の反発力を持ったダウンをシングルキルト構造のシェル素材でサンドし、薄手かつ軽量なウェアに仕上げている。

ラウンド型のネックや薄型のキルティング構造が、レイヤー時のすっきりとした見栄えを支える。

デザイン的なポイントしては、ラウンド型のネック部分が挙げられるだろう。言わずもがな、レイヤー時のすっきりした襟元に配慮したこのディテール。フロントの合わせに採用された薄いスナップボタンとともに重ね着のゴワツキを回避し、軽快な着心地に導いてくれる。カジュアルスタイルはもちろん、スーツの内側にまで潜ませるファンがいるのも頷ける出来栄え。 

「DOWN HANTEN ダウンハンテン」
ユニークなネオジャパニーズ防寒着。

続いても、ダウンを使ったアイテムをご覧いただきたい。と、すでに何やらユニークな雰囲気。その名も「DOWN HANTEN ダウンハンテン」。日本伝統の防寒着「半纏」をモチーフにしたジャパンブランドならではのアイテムは、ダウンウェアの洋服というイメージをものの見事に反転させた。

文字通り、ダウンと半纏をドッキングさせた「ダウンハンテン」。ジャパンブランドらしい意欲作だ。

いわば、綿入れ半纏のモンベル的アップデート作。シンプルなフロントの合わせはまさしく半纏そのものだが、表地には撥水性を持たせて水や汚れに強いタフ仕様に。インサレーションには650フィルパワーのダウンを使う。

特徴的なフロントの合わせは着脱を容易にし、襟元のフリースやフロント下部のポケットなどのディテールでも利便性を高めている。

裏地には帯電防止加工を施し、冬に悩ましい静電気の発生を制御。襟元にはフリース素材が用いられ、フロント下部にはハンドウォーマー代わりになるポケットを配置する。部屋着としての着用はもちろん、街着としてサラっと羽織っても意外と利便性抜群。ウィンターコーディネイトのアクセントに、ぜひ挑戦してみてほしい。 

「FRENCH GUIDE PACK
フレンチガンドパック25」
リユースマーケットで探したい、
レトロで堅牢なシンブルバッグ。

最後はウェアではなく、バッグのお話。山でのアクティブライフには欠かせないバックパックなくして、“ホンモノ”は語れないであろう。「FRENCH GUIDE PACフレンチガンドパック25」の形状は、いたってシンプル。ボディにはポリエステルスパンが、ボトムやストラップ、トップリッドと呼ばれる雨を防ぐ蓋のパイピングにはヌメ革が使われ、レトロかつタフなムードを漂わせる。

シンプルレトロな風貌にタフネスを秘める「フレンチガイドブック25」。25の数字はリットル容量を意味。

一方、直接身体に触れる背面はより機能的な面持ちとなる。背当てにはクッション材が用いられ、ショルダーストラップは厚めに設計。ウエストベルトも備えられ、たとえ険しい山道で背負ってもズレることなく快適さを約束する。

厚めのショルダーストラップに加え、ウエストベルトも装備。収納物が取り出しやすい大口のポケットも嬉しい。

巾着のようにドローコードで調整できる大容量のメインコンパートメントとは別に、トップリッド裏側と背面内側にはジッパー付きのポケットを装着。小物や書類を整理してしまえる点は、山派にも街派にも嬉しいポイントだろう。

ヌメ革のパッチにはブランドロゴを刻印。その下には「FUNCTION IS BEAUTY」の文字も添えられる。

フロント下部のレザーパッチには、ブランドロゴとともに「FUNCTION IS BEAUTY」の文字が堂々と刻まれる。まさしくモンベルといった、完成度の高いバックパックだ。なお、現行モデルはトップリッドを開かずに荷室にアクセスできるサイドジップが備わるなど、随所にアップデートが見られる。ただしチェストストラップは廃され、なんともいえない絶妙なレトロ顔は減退した格好だ。愛らしい今作をお求めならば、ぜひリユースマーケットに足を運んでほしい。

以上、アークテリクスとモンベルの2回にわたってヘビーデューティーなアウトドアブランドの魅力をお伝えした。国内外の両雄は、これからも揺るぎない“ホンモノ”であり続けるだろう。それこそ、ただそこに悠然とそびえる美しい山のように。

ファッションの秋、行楽の秋。緊急事態宣言解除にも背中を押され、低下する気温とは裏腹に外出への熱は高まっていく。着実に、そして力強く踏み出す第一歩が、“ホンモノ”とともにあらんことを。 

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