〈パタゴニア〉の定番人気アウターとは?【傑作ジャケット編】 「ダスパーカー」「ダウンパーカー」他
〈Patagonia パタゴニア〉。その衣服を身に纏うことは、単なる行為を超えた意思表示であり、そこには“創造主”イヴォン・シュイナードへの敬意と共感が多分に含まれるはずだ。ブランドの根底にあるのは、いわば地球規模の中庸であり配慮。その意志を未来につなぐプロダクトは、今を生きるしかない我々を優しく諭す。
ブランドの代表作であるフリースジャケットについては、前回語った通り。今回は、その他の名作ジャケットにフォーカスを当てていこう。
特大のバイタリエィとマインドを携え、
地球と仲良く遊ぶブランド
〈Patagonia パタゴニア〉。
物事にどれだけ没頭しても、熟練度が80%に達すれば未練なく辞める。そして、まったく違う何かを始める。そう公言するイヴォン・シュイナードは、驚くほど多彩な趣味を持つ。齢80を超えてからもサーフィンやヨガ、ガーデニングなどを楽しんでいるようだが、14歳の頃は南カリフォルニアの鷹狩団体に所属。鷹やハヤブサの調教に熱中し、ある日リーダーからハヤブサの巣まで懸垂下降する方法を教わった。すなわち、クライミングデビューだ。
そこから紡がれるブランドの軌跡は【フリースジャケット編】でご覧いただくとして、何より驚愕なのが創業者のバイタリティ、そしてマインドの大きさであろう。鍛冶屋の真似事からスタートした「ピトン」作りに始まり、岩肌を傷つけないクライミングギア「チョック」の考案、「フリースジャケット」をはじめとする機能的ウエアの開発、世に先駆けたSDGsの実践。それらはすべて、地球と仲良く遊ぶためのものだ。
そう考えると、80%を美学とするブランドの“100%の情熱”が見えてくる。だからこそ〈Patagonia パタゴニア〉の服はいつだって朗らかで、美しい。以下で紹介するフリース以外の名作ジャケットにも、熱き矜持がたっぷりと詰め込まれている。
〈パタゴニア〉人気の傑作ジャケット①
「DAS PARKA ダスパーカー」
ブームを牽引した
アイコニックジャケット。
思い返せば、日本でパタゴニアブームが巻き起こったのは’90年代後半以降。その火付け役となったのはいわゆるフリースではなく、このクライミング用ジャケットだった。
「DAS PARKA ダスパーカー」というモデル名は、外気の冷えを遮断する空気の層(断熱空気層)である「DEAD AIR SPACE デッドエアスペース」の頭文字からとったもの。1992年から2016年まで作られ続け、翌年に一度は廃盤となるも2020年にアップデート版が発表されている。
ここで紹介するのは、リニューアル前のモデル。よりファンクショナルな現行品に比べて多少の重さはあるものの、独特の丸みを帯びたフォルムや味のあるカラーリングが愛おしい。シェルの内部にはダウンではなく化繊の中綿が使われ、水に濡れても優れた防寒性能を維持する。
ブランドを代表するロングセラーゆえ、ディテールからは絶妙な進化の足跡が見て取れる。たとえば左胸のファスナーポケットは、2004年以前のモデルがスクエア型で、それ以降は丸みを帯びた形状に。2002年を境にして、サイドポケットの位置と開閉の向きも変わった。
なお、最初期の1992年製ダスパーカーだけはフードが着脱できる仕様だったようだ。この試行錯誤に潜む向上心や柔軟さにも、実にパタゴニア的な人間的魅力が感じ取れるだろう。
先述した通りブランドの人気爆発を先導した今作だが、その大きな理由として独特のカラーバリエーションが挙げられる。写真のモデルは、ゲッコーグリーンと名付けられた2002年製の1着で、由来は月光ではなく「gecko=ヤモリ」。それ以前にリリースされたコバルトやフェニックスレッド、ブルーリボンといったカラーと並んで大人気の色だ。
2000年発表のアシッドもゲッコーグリーンと似た表情を持つが、そちらは俳優の窪塚洋介がドラマで着用して大きな話題に。当時の熱狂は記憶に新しい。
色に関しては、こんな逸話も残る。過去のマスターピースを血眼で探すパタゴニアコレクターの間では1993〜1994年製の「ブライトパープル」が至上とされ、2007年には某オークションサイトで100万円という落札価格を記録した。リユースマーケットでもほとんどお目にかかれないお宝は、まさに幻の逸品。やはりパタゴニアは、古着といえども単なる服ではない。
(→〈パタゴニア〉の「DAS PARKA ダスパーカー」をオンラインストアで探す)
〈パタゴニア〉人気の傑作ジャケット②
「DOWN PARKA ダウンパーカー」
見た目のレトロさに反し、
機能はモダン。
続いては、2005年製のヘビーアウター。往年のダスパーカー以上にボリューミーなボックスシルエットがさらなる防寒性を予感させるが、その期待は一切裏切られない。「DOWN PARKA ダウンパーカー」を羽織れば、いかなる寒風もどこ吹く風だ。
ある意味で朴訥としたレトロさに反して、機能はモダンウェアに決して劣らず。その肝となるのが、内包した最上級ダウンである。通常は600〜700フィルパワーで良質、700フィルパワー以上で高品質とされるが、こちらは800フィルパワー。規格外の暖かさに触れれば、かの悪魔超人だって微笑むかもしれない。
さて今作、細部にも見どころが満載だ。リップストップボディに施されたシームのユニークな曲線のほか、肩周りと腕先部分の切り替え、前面下部のハンドウォーマーポケットなど見た目と機能の両面でオリジナリティをアピールする。
鮮やかなブライトグリーンを軸とする緑のグラデーションは、まるで未来永劫クリーンな地球環境を願うかのよう。そんな妄想すら楽しくなってくるではないか。
(→〈パタゴニア〉の「ダウンパーカー」をオンラインストアで探す)
〈パタゴニア〉人気の傑作ジャケット③
「INFURNO JACKET
インファーノジャケット」
アウターとフリースを一挙両得。
古き佳きマウンテンパーカーを思わせる質実剛健なデザインが、今あらためて新鮮。現在は廃盤となってしまった「INFURNO JACKET インファーノジャケット」だが、パタゴニアの歴史において他の名作と比べても小さくない輝きを放っている。
シックなルックスにも増してパタゴニアラバーから支持を集めるポイントが、ライナーに付けられたフリースの快適さ。しかもボディだけでなく、袖の内側やポケットの裏地にまでフリース素材を使用している。
ちなみに今回取り上げたモデルは2007年製で、当時のペーパータグまで現存する貴重なデッドストックだ。先立って今作は廃盤と説明したが、それは大人用に限っての話。キッズ用は今も元気にリリースされているので、今作とともに小粋な親子ペアを気取るのも悪くないだろう。
いずれにせよ、アウターとフリースを一挙両得したオールドパタゴニアは、インナーの上に1着纏うだけで心地いいお気軽仕様がうれしい。収納力に秀でた大きめのサイドポケットは手ぶらでの外出もサポートし、なおさら冬場のヘビロテを促進しそうだ。
(→〈パタゴニア〉の「インファーノジャケット」をオンラインストアで探す)
〈パタゴニア〉人気の傑作ジャケット④
「STORM JACKET
ストームジャケット」
4つポケットかつ
ゴアテックスのレア版は必見。
マウンテーパーカー型の良作としては、この「STORM JACKET ストームジャケット」も見逃せない存在。読んで字のごとく、風を内部に通さないナイロンシェルを使ったベーシックなライトアウターだ。
1996年頃から長きにわたって店頭に並んだ今作のなかでも、2003年頃までのモデルがとりわけ人気が高い。当時のモデルを見極める第一のポイントが、左右にふたつずつ付けられた計4つのサイドポケット。収納量が多く、小分け収納にも対応する親切設計ながら、2005年度版のストームジャケットを最後にふたつポケット仕様へと変更され、以降は姿を消した。
また、2002年と2003年のストームジャケットは素材でも他とは一線を画す。この2年間のみ、〈GORE-TEX ゴアテックス〉ファブリックを採用。透湿性に優れた名物マテリアルが、シェル内部を快適環境に導いてくれる。
(→〈パタゴニア〉の「ストームジャケット」をオンラインストアで探す)
〈パタゴニア〉人気の傑作ジャケット⑤
「GUIDE SHELL JACKET
ガイドシェルジャケット」
配色に味がある
ストームジャケット亜種。
前章で紹介したストームジャケットの亜種ともいうべきが、同じく’90年代に生まれた「GUIDE SHELL JACKET ガイドシェルジャケット」。構造的には非常に近しく、大胆な色の組み合わせがストームジャケットとの最大の差となる。
首元や袖の切り替えはさることながらライナーのカラーリングが絶妙で、レトロアウトドア特有の温度感を体現。部分使いされた鮮やかな色は、山などの自然環境下において目立つ安全色として機能することが想像に難くない。
扱いやすいハーフ丈、タフな高密度ナイロンシェルと、シーンを選ばず頼れる利便性もウリのひとつだ。特徴的な色使いは、街映えもしっかり約束。ダークトーンに陥りがちな冬の装いを、パッと華やかに変えてくれる。
ディテールもストームジャケットよろしく合計4つのサイドポケットを持つが、今作は上部ふたつのポケットにのみスナップボタン付きのフラップを装備。たとえ些細でも確実に変化する、別の道を作る。それもまた、パタゴニアの強みに通じる。
(→〈パタゴニア〉の「ガイドシェルジャケット」をオンラインストアで探す)
〈パタゴニア〉人気の傑作ジャケット⑥
「TORRE JACKET トーレジャケット」
ハードシェルに鮮烈カラーを纏わせて。
鮮烈のマンゴーカラーに彩られたこちらは、1998年製の「TORRE JACKET トーレジャケット」。スーパーアルパインジャケットの後継機として1996年〜1999年に製造された同モデルは、当時のフラッグシップとしてファンから崇拝された。
ハードシェルを素材に用い、過酷な登山にも耐える高い耐傷性能を確保。3レイヤー構造のため、防寒面にも抜かりはない。アイコニックなフロント胸部の縦ポケットは、アルパインジャケットにふさわしくハーネスの装着などを邪魔しないデザインだ。
プロ仕様の設計は、脇下に配したベンチレーションでも表現されている。動きやすさをサポートするとともに、衣服内のムレを軽減。首元と同様にボディ本体とは対照的な配色とすることで、デザイン的な動きを生む点も心憎い。
色使いに長けたパタゴニアの仕事は、背面から見ることでより強く実感できる。後身頃の袖周りにのみアクセントカラーを配し、心弾む楽しさを演出。雄大な自然と真に親しむには、機能だけでなく遊び、すなわち心の余裕も必要なのだ。
(→〈パタゴニア〉の「トーレジャケット」をオンラインストアで探す)
〈パタゴニア〉人気の傑作ジャケット⑦
「NITRO II JACKET
ナイトロ2ジャケット」
プロ仕様かつタウンライクな高嶺の花。
登山家やクライマー、スキーヤー、スノーボーダーなど。予測不能な山の天候を生活の一部とするプロにとって、「NITRO II JACKET ナイトロ2ジャケット」は格別の相棒となった。
衣服内への雪の侵入を防ぐパウダースカートや脇下のベンチレーションほか、実用的なファンクションを搭載。そのため発売当初からプライスが高めに設定されており、泣く泣く購入を見送った往年のファンも少なくないだろう。当時は手が届かなかった高嶺の花を手中に収めるには、そう、品揃え豊富なリユースマーケットにぜひとも足を運んでいただきたい。
縦に並んだ胸ポケットが、先述のトーレジャケットに似た印象を抱かせる今作。ただし、こちらは両サイドのポケットがそれぞれ外向きに配置されるため、ポケット内部に手を入れてハンドウォーマーとしても使用可能だ。プロ用でありながら、タウン用としてもいい塩梅。現在に続くパタゴニアらしさが、ここでも垣間見える。
(→〈パタゴニア〉のマウンテンパーカーをオンラインストアで探す)
〈パタゴニア〉人気の傑作ジャケット⑧
「ICE NINE JACKET
アイスナインジャケット」
当時の最先端素材を使った
ハイテクシェル。
前後編でお届けしたパタゴニアのプロダクト群も、いよいよ最終盤を迎える。トリを飾るのは「ICE NINE JACKET アイスナインジャケット」。2000年に登場し、わずか3年間だけ店先に並んだハイテクアウターシェルだ。
スーパーアルパインジャケット、トーレジャケットに続くフラッグシップとして当時のブランドの最上位に位置した歴史的作品は、しなやかなソフトタッチが特徴。その鍵を握ったのが、当時の最先端素材「GORE-TEX XCR ゴアテックス XCR」である。
XCRは「EXTENDED COMFORT RANGE」の略で、「最高かつ広範囲の快適性」を意味する。つまりは透湿性や撥水性を筆頭とするゴアテックスの機能性を最大限に活かした今作は、極めて挑戦的な機能服でもあった。
ミニマルなルックスに隠されたハイスペックという鋭き爪は、ベンチレーションなどの随所にあしらわれた止水ジップ、内側のシームテープからも見て取れる。さらには、ヘビーアウターらしからぬ軽量ぶりも特筆。世紀をまたぐ名作、その風格はいまだ色褪せない。
(→「GORE-TEX」に関する特集記事は、こちら)
(→〈パタゴニア〉のマウンテンパーカーをオンラインストアで探す)
1973年のブランド創設から数えて50年目。2022年9月、83歳のイヴォン・シュイナードは、保有する全株式の譲渡を発表した。約30億ドルともされる莫大な富の主な譲渡先は、地球環境の改善に取り組む非営利団体。このニュースは世界的に取り上げられ、かつてないほどの賞賛を呼んでいる。
サスティナブルと謳いながらも、実態が伴わないケースが少なくないファッション業界。パタゴニアは、その根底から改善を目論む。“ほどほど”を標榜する80%の男がたどり着いた、純度100%の一発回答。地球と仲良く遊ぶための服は、これからさらに輝きを増すだろう。