FASHION

〈Red Wing レッドウィング〉男の魂を揺さぶる雄叫び。

その名前に、なにか特別な祝福めいたものを感じる方も少なくないはずだ。〈RED WING レッドウィング〉。1990年代、日本におけるアメカジムーブメントの火付け役ともなったブランドは、いまなお我々の心を鷲掴みにする。

硬くて重い、リアルなアメリカ的佇まい。それは、現代でもてはやされるコンフォートなハイテクスニーカーとは真逆の方向を指し示すものかもしれない。しかし、それでいい。むしろ、それがいい。圧倒的タフネスは、いつの時代も“スタイルのある男の象徴”なのだ。

時代の変化に流されない、ワークブーツの絶対王者。彼らが手掛ける名品から、あらためてブランドの魅力を探っていきたい。

シューマンの情熱がブランドのDNAに

最初に、“パーソナル”を軽く押さえておこう。生誕は1905年。アメリカ中西部のミネソタ州にある小さな街「レッド・ウィングシティ」にて産声をあげた。ブランド名の由来となった地名は、開拓当時に一帯を治めていたネイティブアメリカン、ワクタ・レッドウィングにちなむ。

自然に恵まれた当地はレザー作りに適し、ドイツからの移民であった創業者チャールズ・H・ベックマンは、もともと同地域の革工場に勤めていた。根っからの靴好きで、自らを“シューマン”と呼んだ彼は、より良いプロダクトを追求。1912年には「チーフライン」と呼ばれるワークブーツをヒットさせ、その後の大成功の礎を築いていった。

ワークブーツとは、文字通り労働者の作業用ブーツのこと。ハードに働く彼らを満足させる質実剛健なモノづくりは、ブランドの揺るぎなきDNAである。

美しい猟犬の名を冠する、
伝説的ハンティングブーツ

数あるモデルのなかでも、まず頭に思い浮かぶのが「IRISH SETTER アイリッシュセッター」だろう。1952年に発表された画期的なハンティングブーツをルーツに持つが、当時そのキモとなったのが、アイコニックな「トラクショントレッド・ソール」だ。

その分厚く平らな白いソールは、物音を立てずに獲物に近づくよう考案されたもの。しかし、抜群のクッション性と安定感が他の労働者からも支持を得る。数年後には丈やトゥの形状などのバリエーションを広げてアメリカ全土を賑わせた。

抜群のクッション性と安定感を誇る「トラクショントレッド・ソール」。

登場当時に使用されていたオレンジがかった独特のブラウンレザー「オロラセットレザー」で名高いモデル。この革と前述の「トラクショントレッド・ソール」のホワイトとのコンビネーションカラーが、猟犬アイリッシュセッターの毛並みを彷彿とさせることから同じニックネームが名付けられたという。

「6in MOC-TOE 6インチのモックトゥ」も、その“兄弟”のひとりだ。1990年代には、より赤味の深いレザーが使用されたこのモデルが日本のストリートシーンで絶大な人気を獲得。まさに歴史的傑作といえよう。

「IRISH SETTER 6in MOC-TOE アイリッシュセッター 6インチ モックトゥ」

2016年にセレクトショップの雄〈BEAMS ビームス〉限定で1990年当時のディテールが復刻された

黒のアイリッシュセッターにも、
ブランドの信念が息づく

その名声ゆえだろう。由来となった“茶×白”の配色にとらわれず、複数のカラバリ、さらにはトゥの仕様が異なる様々なアイリッシュセッターが存在する。例えば黒い「6in ROUND-TOE 6インチ ラウンドトゥ」のモデル。

「IRISH SETTER 6in ROUND-TOE アイリッシュセッター 6インチ ラウンドトゥ」

もしかすると、90年代にあの藤原ヒロシ氏が愛用したモデルと面影を重ねる方もいるかもしれない(氏がカスタムし、愛用したのはモックトゥだったようだが)。とはいえそこには、ブランドの確固たる哲学が息づく。

上部3段のアイレットがフック仕様となっているのは、ワークブーツとしての着脱の利便性を考慮したため。

レッドウィングにとって、黒のラウンドトゥは実にオーセンティックだ。創業初頭から作られ、スタンダードモデルとして幅広く流通。1941年には「シームレスバック」と呼ばれる1枚革の腰革に進化し、さらには1953年に「トラクショントレッド・ソール」とドッキングした結果、アイリッシュセッターシリーズの仲間入りを果たしたのである。

ちなみに、アイリッシュセッターはその後も紆余曲折を経験している。奇しくも日本においてアメカジブームが巻き起こった1990年代に、アメリカでは逆に市場が縮小。1997年にはレッドウィングとは別の独立ブランドとして、〈IRISH SETTER HUNTING BOOTS アイリッシュセッター・ハンティングブーツ〉が設立された。

その後、ワークブーツが再び勢いを取り戻したこともあり、2011年にはレッドウィング内で新たなアイリッシュセッターシリーズが誕生。ちなみに復活のきっかけとなったのは、日本市場における熱狂的支持者の声だったという。

2018年、正式に通称「プリント犬タグ(四角犬タグ)」が復活した。

レッドウィングはブーツだけにあらず

労働者のための靴。それはなにもブーツだけではない。レッドウィングは短靴においてもマスターピースを有している。そのうちのひとつが「WORK OXFORD MOC-TOE ワークオックスフォード モックトゥ」である。

「WORK OXFORD MOC-TOE ワークオックスフォード モックトゥ」

1930年代頃から作られはじめた軽作業用の短靴が、「トラクショントレッド・ソール」をまとったのが1950年代のこと。そのタフな進化版として誕生した今作は、合わせる服を選ばない万能性も魅力だ。時としてラインナップから姿を消し、その後に復活を繰り返しながらも、変わらぬレッドウィングらしさを伝えている。

フォーマルに通じる流麗な短靴も

同じく短靴ながら、よりビジネス顔を際立たせたモデルも人気が高い。「POSTMAN OXFORD ポストマン オックスフォード」は、1954年に誕生した「ポリスマン、ポストマンまたは駅員用」のシューズだ。

「POSTMAN OXFORD ポストマン オックスフォード」

ドレスタイプのアッパーデザインにブラック版の「トラクショントレッド・ソール」を装着した今作は、クッション性や歩きやすさはそのままにフォーマル感を獲得。古くはUSPS(米国郵便局)に採用され、全米の郵便配達員の足元を支えた。

黒一色のドレッシーなルックスだが、フラットなソールが抜群の歩行性を担保する。

90年代に入ると郵便局の指定靴がスニーカーに変更されたが、いまもアメリカを代表するサービスシューのひとつとして語り継がれる傑作。現代においてはデザイン面でアップデートを遂げ、ワンピース構造となったアッパーは流麗さを増している。ゆえに会社勤めのビジネスパーソンにも、頼れる日常履として受け入れられているのだ。

鉱夫をサポートしたキャップドトゥ

ここからは、再びブーツをピックアップする。「IRON RANGE アイアンレンジ」は、つま先に入った一枚革“キャップドトゥ”が最大の特徴。これは危険と隣り合わせの鉱山で働く鉱夫たちが愛用したデザインで、ブランド本社近くの鉱山地域の名前をとって名付けられたモデルである。

「IRON RANGE アイアンレンジ」

現存する最も古い1910年のレッドウィングのカタログでは37型のワークブーツが登場するが、うち33型がこのキャップドトゥを採用。それらをリファインして生まれた今作は、古き佳きアメリカの堅牢性を備えたヘビーデューティな1足として、確固たる地位を築いている。

レザーを重ねることで安全性を高めたキャップドトゥ。

クラシック・ドレスを体現する6インチ

先立ってドレス顔の短靴を紹介したが、ことレッドウィングにとっての“クラシック・ドレス”は、ショート丈のブーツにあるといっていい。創業者の名前がつけられた「BECKMAN BOOT ベックマン」が、そのオリジンだ。

「BECKMAN BOOT ベックマン」

というのも、ブランドが生まれた当時のアメリカ西部は開拓時代の真っ只中。多くの人間が屋外での作業に従事し、道路は未舗装が当たり前だった。そこを訪れる際は、ジャケットを羽織ったような紳士でも6インチほどのブーツを愛用していたのだ。

当時のアメリカ西部に想いを馳せ、凛としたスタイルにあえてベックマンを合わせる。それは、歴史を知るものならではの作法と言えるかもしれない。

美しいシルエットとセパレートソールがドレッシーさをより際立たせている。

他にはない、正真正銘のペコス

西部の靴と聞けば、自然とウエスタンブーツを思い描くだろう。その代表作こそが、レッドウィングのなかでも指折りの存在感を放つ「PECOS ペコスブーツ」。スペインを発祥とする乗馬靴にワークの意匠を加えた、革新的1足だ。

 

「9in PECOS CUSHION-SOLE 9インチ ペコス クッションソール」

いわゆるカウボーイブーツに見られるような装飾を省き、ミニマルなデザインでよりタフネスを強調。時代の流れとともに本来あったヒールも姿を消し、1961年からは平らな「トラクショントレッド・ソール」が採用された。こちらの「9in PECOS CUSHION-SOLE 9インチ ペコス クッションソール」は、当時の雰囲気をストレートに再現。結果、幅広いスタイルに取り入れやすいシンプルさを手にした。と同時に、今もアメリカの牧場や農場で実際に使われるリアルワークブーツでもある。

なお、現在において「ペコス」は一種のブーツタイプの総称として広く認識されるが、実はレッドウィングの登録商標であり、つまりはレッドウィング以外のペコスは存在しない。この誤解にも、ブランドの凄みが潜んでいる。

ブーツを履く際に重宝するサイドのプルストラップには「PECOS」の文字が刻印されている。

ヘビーデューティを極めたロガー

牧場や農場で働くランチャー、ファーマーと同じく、西部開拓時代から変わらずいまも人々の生活を支える職業に、ロガーが挙げられる。山に長期間こもり、チェーンソーで巨木を切り倒す重労働。彼らがかつて履いた靴は、作業時の安全を確保するため、靴底にグリップ力を高めるスタッズがついていたそうだ。

今作「9in LOGGER 9インチ ロガー」は、その流れを汲む屈強な作りがウリだ。ふくらはぎまで保護する肉厚な9インチ丈、木材の落下などのから足先を守る金属入りのトゥ、耐摩耗性を高めた特殊なレザーを使ったヒールポケットなど、ヘビーデューティなディテールが満載。とりわけ特徴的なヒールと一体になったソールは、「ロガーソール」と呼ばれてモデルのアイコンともなっている。

「9in LOGGER 9インチ ロガー」

ぬかるんだ山の斜面でも滑ることのないよう開発された深いラグを持つ「ロガーソール」は、1980年代に誕生。とある会社との合同開発によって生み出された。当時「クエボーグ社」と名乗っていた彼らは、現在では〈vibram USAビブラムUSA社〉として生まれ変わっている。

〈vibram ビブラム〉製の「ロガーソール」が高いグリップ力を約束。

その姿の裏側にある、開拓時代の羨望

西部開拓を支えた様々な職種。なかでも大きな責務を担ったのが、鉄道機関士である。何十トンもの鉄の塊を水蒸気の力で走らせる蒸気機関車には、多くの少年から羨望が向けられた。それを走らせる彼らの勇姿もまた然りである。

鉄道機関士の履くブーツは「エンジニアブーツ」と呼ばれるが、レッドウィングのそれは1936年発表のモデルが初代にあたる。足首と靴が密着しないプルオン・タイプで、フィット感を調整するアンクルストラップや、ブーツインしたパンツを留めるシャフト上部のストラップが実用性を担保した。

1995年レッドウィング90周年記念のエンジニアブーツ。

もうひとつ、つま先部分に鉄を挟み込んだスティール・トゥも見逃せないポイントだ。このタフなディテールについて、ひとつ知っておきたい表記がある。かつてレッドウィングのエンジニアブーツなどに記された「PT91」「PT99」などの文字。これらはすべてスティール・トゥの安全規格を指している。その規格は時代を追うごとに更新されるため、記号も変化していった。

「PT」とは「Protective Toe」の略号である。

ときに、ブーツは使い込むほどに渋みを増す経年変化も大きな魅力。なかでもエンジニアブーツは、より味わい深い表情が楽しめるモデルとして知られる。写真の「11in ENGINEER STEEL-TOE 11インチエンジニアスチールトゥ」は、通称“茶真”と呼ばれる芯まで染まっていないレザーを使ったもの。履くうちに茶色の芯地が覗く様は、えもいわれぬ高揚感がある。

 

「11in ENGINEER STEEL-TOE 11インチエンジニアスチールトゥ」。市場ニーズの高まりから2014年「茶芯」レザーと細いシャフトという旧モデルの特徴をもった復刻モデルが登場した。

内側をみるとレザーの茶色の芯地が残っているのが一目瞭然。

レッドウィングとはアメリカの歴史、
ロマンそのもの

もうお分かりだろう。開拓者の魂が宿る、レッドウィングのワークブーツ。それはアメリカの歴史そのものであり、ロマンなのだ。

いまを生きる僕らはおそらく、馬に乗って果てない荒野を旅することも、いちから鉄道の線路を引くこともない。適度に軽くて洗える靴のほうが、よっぽど実用的だ。でも、どうしてもレッドウィングに心が惹かれてしまう。それは、僕らに残されたかすかなフロンティアスピリットを呼び覚ます、先駆者の雄叫びのせいかもしれない。

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