春に走る。前へと歩き出す。人気ブランドのオススメ名作ランニングシューズ 〈ニューバランス〉〈アディダス〉〈リーボック〉編
そう、そんな時に必要なのが「ランニングシューズ」だ……と、少々乱暴な論法とはなったが、ご容赦いただきたい。前編では、スニーカー界のリーディングブランドである〈NIKE ナイキ〉を筆頭に、日本人の足にフィットする〈asicsアシックス〉〈MIZUNO ミズノ〉と3ブランドをフィーチャー。各々が誇る名作モデルをご覧いただいた。続くこの後編では、アメリカはもちろん欧州圏&アジア圏でも人気の高い〈NEW BALANCE ニューバランス〉〈adidas アディダス〉〈Reebok リーボック〉の3ブランドに注目。
今いる場所よりも、もっと先へと進むための相棒。その良き出会いがここにあることを願って。
On your mark!, Get set!, Go!
オススメ名作ランニングシューズ①
〈NEW BALANCE ニューバランス〉
「996」
まずは、knowbrand magazine読者諸氏にもファンの多い〈NEW BALANCE ニューバランス〉にフォーカス。先頭集団として本稿を牽引するのが、巷でやたらと人気が高い「99X」番台の4モデル。その中からスタートと共に飛び出したのが、1988年の登場から今年で35周年を迎えるスタンダードモデル「996」だ。通常であればブランドを象徴するグレーカラーが選ばれるのが常だが、今回は真紅のフルグレインレザーを纏ったUSAメイドの高級感溢れるモデルをピックアップ。
その最大のウリが、当時最先端だったソールテクノロジーにある。耐久性の高いPU素材に衝撃吸収性に優れたEVA素材のクッションを封入したミッドソール。そこにEVA素材を圧縮成形し、クッション性能の持久力を大幅にアップさせる「C-CAP シーキャップ」を組み合わせることで、革新的な安定性とクッショニングによるハイレベルな走行を可能とした。
また同モデルは、ランナーたちの評価が高かっただけでなく、米国のスポーツサプライ・チェーン店「フットロッカー」の別注モデルとしてカラバリが発売されたことで、著名人も愛用する人気の1足に。中でも印象深かったのが、スチャダラパーのBOSE氏。ア・トライブ・コールド・クエストのメンバーがニューバランスを履いているのを見て影響を受けたという彼のアイコンが、この996の赤だった。
ちなみに、“ストリートのゴッドファーザー”として今なお強い影響力を持つ藤原ヒロシ氏は、996のレギュラーカラーであるグレーメッシュを愛用していたという。裏原宿ムーブメントにドップリ浸かっていた世代にとって、“あの頃”を象徴する1足が今も手に入るとは、実に嬉しいではないか。
オススメ名作ランニングシューズ②
〈NEW BALANCE ニューバランス〉
「990 v3」
さらに99Xシリーズのスタートライン「990」の名を冠して、2012年に登場した「990 v3」が続く。まずは初代990について知ってもらいたい。同モデルが、惜しみなく時間と費用を投入し、最新技術で最高のランニングシューズを作ることを目的に開発が始まったのが1978年の春。その後、4年間にわたり研究とデザイン開発を重ね、1982年ついにデビュー。「M.C.D.」と呼ばれるヒールスタビライザーを装着することで安定性とクッション性を両立するなど、当時最先端の機能性を確保し、掲げられたキャッチコピーは“1000点満点中990点”。1ドル=約280円の時代に約100ドルという挑戦的プライスでも話題となった。
その後、1986年に「995」、1988年に「996」とここから約2~3年ペースでモデルチェンジを重ねていき、1996年に「999」が登場。1998年にはナンバリングが一周し、990のアップデート版=バージョン2こと「990 v2」がデビュー。このネーミングシステムは後も継続し続け、初代誕生から30周年を迎えた2012年に誕生したのが、この990 v3である。
アッパーは、上質なピッグスキンスウェードと軽快なメッシュ素材のコンビネーション。軽量かつ優れたクッション性と安定性を誇る「ENCAP エンキャップ」と耐久性のある「REVLITE レブライト」を組み合わせた高水準ソールが、機能性をさらに高めるポイント。走りの根幹たる機能性を突き詰めることで、定番を超える最上を更新し続けている。
また同モデルは、前作の990 v2よりも大幅な軽量化に成功し、シュータンの独特なダイヤモンドパターンやパイピングがあしらわれたNロゴといった特徴的ディテールで、今も根強くファンに支持されており、コラボレーションのベースモデルとしても高い指名率を誇っている。そして2022年には、第6世代の「990 v6」も登場。その進化のゴールはまだまだ先にあるようだ。
オススメ名作ランニングシューズ③
〈NEW BALANCE ニューバランス〉
「992」
99Xシリーズのタスキは、ブランド設立100周年を迎えた2006年に誕生した記念碑的モデル「992」へと渡る。衝撃吸収性・反発弾性・耐久性に優れたミッドソール素材「ABZORB SBS アブゾーブ SBS」に加え、アウトソールに耐摩耗性の高い素材「Ndurance Nデュランス」を採用し、シューズの寿命も向上。当時の最先端テクノロジーを搭載したフラッグシップ機種であり、アッパーの複雑なパネル切り替えとミニマルなNロゴが、高機能を視覚的にも表現している。
また同モデルといえば、かのアップルコンピュータ―社の共同創立者スティーブ・ジョブズが愛用し、〈ISSEI MIYAKE イッセイミヤケ〉の黒のタートルネックと〈Levi’s リーバイス〉の「501」とともに、彼のトレードマークとしても知られる。ファンからの熱い要望に応え、2020年2月に待望の復刻を果たすも、それも即市場から姿を消した希少モデルでもある。ただでさえ入手困難だが、今回用意したのはさらにレア中のレア。東京のストリートシーンを牽引し根強い人気を誇る〈W TAPS ダブルタップス〉とのコラボレーションにより、復刻版992争奪戦の熱狂冷めやらぬ3か月後、2020年5月に発表された「M992WT」だ。
ニューバランスを象徴するグレーのパーツと、ミリタリーを得意とするダブルタップスらしいオリーブドラブのグラデーションカラーにより、両者のDNAの結合が図られている。加えてミッドソールには、ダブルタップスのアイデンティティカラーのオレンジをひと挿し。しかもUSAメイドとくれば死角なし。
アウトソールに挿されたティール(青緑色)も印象深く、歩行時にチラリ。さらにはシュータン、ヒール、インソールと随所にダブルタップスのブランドネームを刻んでダメ押し。これまでニューバランスが「自社以外のブランディングを表示するのは異例中の異例」だったようだが、以降はカナダのデザインスタジオ〈JJJJound ジョウンド〉とのコラボなどでもブランドネームが入るようになり、慣例化。その偉大なる先例という意味でも価値ある一足だ。
またシュータンとヒール部分のシンセティックレザーの型押しは、ディレクターを務める西山徹氏がプライベートで愛用していた「998」のディテールから取られている。希少モデルゆえプレミア化しているが、“Placing things where they should be.=あるべきものをあるべき場所へ”がダブルタップスのブランドコンセプトであると考えるならば、あえてランニングで履くのが正しい在り方かと。
オススメ名作ランニングシューズ④
〈NEW BALANCE ニューバランス〉
「993」
ここまで流れるように繋いできた99Xシリーズのタスキも一旦ストップ。ランナーは、前出の992をアップデートして2008年に誕生したシリーズ第10作「993」。同モデルの特徴としては、992に比べて進化した軽さが一番に挙がる。ピッグスキンスウェードと組み合わせたメッシュパーツの面積が広くなったことで、より通気性と屈曲性が増し、ランニングシューズにとっての最重要課題である軽量化と履き心地の良さにも一役買っている。
992と同様に993のNロゴも大人に嬉しい控えめサイズ。通常のアブソーブよりも高いクッション性を持つアブゾーブTDSを採用。着地から蹴りだしまでの一連の流れをスムーズに行えるような設計にアップデートされ、より足への負担を軽減。さらに耐摩耗性に優れたNデュランスをヒール部分に採用している点も同様。以上のポイントから、993の直系モデルであることがよく分かる。シュータンに誇らしげに刺繍されたMade in USAの文字と、ヒールに配された星条旗がオジさん世代にはたまらない。
同モデルは2012年に廃盤となったが、ブランド40周年のアニバーサリーイヤーである2022年に復活。海外ではオリジナルカラーのグレーが展開され、〈Aimè Leon Dore エメ レオン ドレ〉とのコラボモデルも発売されて話題となった。リユースマーケットを探せば、実際にランニングで履ける個体を見つけることも比較的容易。この機会に99Xシリーズを履き比べて、ニューバランスの進化の歴史を辿ってみるのも一興かと。
(→〈NEW BALANCE〉に関する別の特集記事はこちら)
オススメ名作ランニングシューズ⑤
〈adidas アディダス〉
「micropacer マイクロペーサー」
本記事も折り返しの4足目。続くランナーは欧州とアジア圏で圧倒的人気を誇る〈adidas アディダス〉から、クラシックでありながら斬新なモデル。その名は「micropacer マイクロペーサー」。世界初のマイクロコンピューター搭載のランニングシューズとして1984年に登場。ちなみに、先述のジョブズ率いるアップルが、初代「Macintosh マッキントッシュ」を発売し、スペースシャトル・ディスカバリーが初の打ち上げに成功したのも同年のこと。
そんな時代の匂いを敏感に感じ取ったのか、シルバーをメインにブルーとレッドで構成されたカラーリングとシューレース部分をカバーパーツで覆ったデザイン、左足に搭載された液晶モニター付きマイクロコンピューターの機能性。マクロ(全体デザイン)とミクロ(ディテール)の両方向から、スペーシーな未来感を視覚化した同モデル。ただし、日付、時間、ストップウォッチ、走行距離の測定を可能としたこの先進的機能を、どれ程のユーザーが使いこなせていたかは定かでない……。ちなみに右足の甲部分はコインポケット。小銭を入れておけば、運動後にドリンクを買ってひと休みなんて時にも便利。現代でいうところの、履いて走れるスマートウオッチ感覚。
同モデルのユニークなコンセプトは、コンピューターの世界でも評価され、米国ボストンの「コンピュータ歴史博物館」にも展示されているとか。オリジナルモデルの定価は、大卒男性の初任給が14万円の時代に5万8,000円とかなりの高価格。この令和の世に、かつての高級モデルに搭載された最先端のマイコン機能を使いこなし、ランを楽しむなんてのも、実に贅沢で酔狂な話ではないか。
オススメ名作ランニングシューズ⑥
〈adidas アディダス〉
「ZX8000」
アディダスからの第二走者は、1989年生まれの「ZX8000」。ナイキが1987年に「AIR MAX 1 エアマックス1」をリリースしたことで、1980年代後半にスポーツシューズ業界で巻き起こったクッショニング戦争。各社がランニングシューズの衝撃吸収性能を追求する中、アディダスが送り出したのが同モデルであった。
独自のクッショニングテクノロジー「TORSION SYSTEM トルションシステム」の採用が、本モデル最大の特徴。これは前後に分割されたアウトソールを、合成樹脂製の棒状パーツ「TORSION BAR トルションバー」で結合することで、中足部のねじれをコントロールし、走行時に裸足に近い足の動きを実現すると共に安定性を高めるという仕組み。ここで紹介するのは、そんな優れた機能を搭載したミッドテク期の名作と、東京のスニーカーシーンを世界に発信する〈atmos アトモス〉のセンスがマッシュアップして誕生したコラボモデルである。
オリジナルは爽やかなブルーを基調としていたが、ホワイトを基調にグリーンとグレー、ブラックのアクセントカラーを配置し、テックな印象を強めている。それもそのはず、このカラーパレットは1991年に“最高のモノ作り”を徹底追求するプロユース向けの最上位シリーズ「EQT」からデビューした、「EQT RUNNING SUPPORT エキップメント ランニング サポート」をサンプリングしたもの。当時のアディダスが誇る技術力を結集して作られた名作のDNAを令和の世に再び蘇らせるとは、スニーカーの歴史に精通するアトモスらしい計らい。
しかもポイントはそれだけにあらず。アッパー各所に、光を蓄えて暗所で発光するスネーク柄の素材「G-SNK」が配されている。パフォーマンスを追求して誕生したモデルに、さらに最上位シリーズの配色を落とし込んだと思ったら、すかさず遊び心をプラス。怪しく光る蛇柄を足元に纏い、春の宵にナイトランを楽しみ、そのまま久しぶりのクラブ活動でランニングマンに興じる。そんな粋な遊び方も可能だ。
オススメ名作ランニングシューズ⑦
〈adidas アディダス〉
「SEEULATER シーユーレイター」
なにも舗装されたコンクリートロードを走るだけがランニングではない。近年競技者が急増しているのが、林道など未舗装路を走るスポーツ、トレイルランニング。そこでアディダスの最後を飾る一足として、1995年に登場したトレイルランニングシューズ「SEEULATER シーユーレイター」を推す。オリジナルが発売された当時は日本での正規展開がなかったため、価格高騰。マニアの間では“隠れ(すぎ)た名作”として語られていたが、2016年にOG仕様で復刻され、ここで紹介するのは2020年リリースのシーズナルモデル。
出身は、同社のアウトドアラインである「ADVENTURE アドヴェンチャー」シリーズ。しっかりと地面を掴む凹凸のグリップパターンを採用したカンチレバーソールは、トゥとヒールのアウトソールを巻き上げることで多様な地形に対応。同様に、水や小石といった異物の侵入を防ぐブーティータイプの構造も特徴。そのユニークなモデル名は、トレイルランニングにおけるスピード感を表現するため、走行中に仲間を追い越す際に掛ける言葉“See You Later!”から取られたと開発デザイナーは証言している。90年代モデルらしい鮮やかなカラーリングも当時を知る世代には懐かしく、若者には新鮮に映るに違いない。
また同型ソールを搭載したものとしては〈SEEYA シーヤ〉というローカットモデルもかつて存在した。そちらも意味合い的には同じだが、脱ぎ履きしやすいローカット仕様だったからか、より砕けた言い回しになっている点も面白い。ちなみに現在は、リサイクル素材を使用したアップデートモデルが販売中。街を離れて自然の中を走りたくなったら、ぜひ選択肢に加えてもらいたいモデルだ。さて、ここまででかなり記事も長くなってしまったので、See You Laterと言いたいが、最後にもう1足だけ、お付き合いいただきたい。
(→〈アディダス〉のスニーカーに関する別の特集記事は、こちら)
オススメ名作ランニングシューズ⑧
〈Reebok リーボック〉
「INSTAPUMP FURY BOOST
インスタポンプフューリーブースト」
アンカーに選ばれたのは〈Reebok リーボック〉が90年代に輩出した名作、「INSTAPUMP FURY インスタポンプフューリー」……ではない。よく見ると何かが違う。こちらは2019年にインスタポンプフューリー誕生から25周年を記念して誕生した「INSTAPUMP FURY BOOST インスタポンプフューリーブースト」という異色作。スニーカーアディクトならご存知であろうが、リーボックは業績不振から2008年にアディダスの傘下に。そんな縁もあって、アディダスとリーボック、競合他社同士のテクノロジーを融合させたモデルが生まれた。
アッパーには、一体化したブラッダー(空気室)に空気を注入・排出することでフィット調節する、ご存知「インスタポンプ」システムを採用。そしてソールには、アディダスが2013年に生み出した「Boost Foam ブーストフォーム」を搭載。「E-TPU 発泡熱可塑性ポリウレタンビーズ」を一度発泡させてから成形するという新たな成型方法により、高次元の衝撃吸収性&反発弾性を確保するだけでなく、優れた耐久性を追求。さらにどんな温度下でも本来の機能性を発揮する。両ブランドのロゴマークが記された「ホールドバンド」、そしてヒールに入った「pump × BOOST」の刺繍といった希少なディテールもまた、唯一無二のコラボであることを主張している。
同じく2019年には、幻とされていた初期のプロトタイプモデルである「Instapump Fury Proto 94 インスタポンプフューリープロト94」もリリースされ即完売。かつてのハイテクスニーカーの代名詞が、不朽の名作として人々から愛されていることを、世界中のスニーカーファンたちに鮮烈に印象付けることとなった。
こうしてインスタポンプフューリーの開発チームが掲げた、“世の中に存在しないデザインを生み出す”というコンセプトをさらに進化させた唯一無二のマリアージュも、同社が2021年にアディダスの傘下から離れたため、再び味わうことはどうやら困難模様。でも、いやだからこそ履き心地が気になる。そんなモノ好きの諸君に告ぐ、リセールマーケットに今すぐ走るべし!
〈ナイキ〉〈アシックス〉〈ミズノ〉の前編に続いて、この後編では〈ニューバランス〉〈アディダス〉〈リーボック〉がタスキを繋げ、時に横道に外れつつも無事完走と相なったわけだが、いかがだっただろうか?
後編だけでも8000文字以上の道のりを並走してくれた読者諸氏に、ランニングシューズの魅力を届ける事が出来、かつお目当てを見つける支えとなったのであれば重畳だ。
あとは手に入れて歩み出すのみ、走り出すのみ。新たな季節、前へ前へと先走る気持ちを落ち着かせ、弾む足取りを支える最高の逸足とともにーー。