「スタジャン」とは何か? 定番・人気ブランド5選 ~“永遠のアメカジ”を知る~
今、我々の背中を力強く押す不朽の名作。“永遠のアメカジ”。シリーズ第一回目の主人公は「スタジャン」だ。時を経て再び注目されるアウターを、深く掘り下げていこう。
誉れの象徴として生まれ落ち、
カルチャーとして根付くスタジャン。
モノの魅力を探るなら本質の見定めが不可欠。まずは「スタジャン」のルーツから出発したい。言わずもがなスタジャンとは略称で、正確には「STADIUM JUMPER スタジアムジャンパー」とすべき代物だ。
しかしそれは和製英語であり、残念ながら“スタジアム用のジャンパー”という意味ではルーツから離れている。というのも、発祥の地であるアメリカにおいては「VARSITY JACKET ヴァーシティジャケット」「AWARD JACKET アワードジャケット」、もしくは「LETTERMAN JACKET レターマンジャケット」や「LETTERED JACKET レタードジャケット」と呼ばれる。
ヴァーシティは「(大学などの)代表チーム」を、アワードは「(人に賞などを)与える、授与する。または賞、奨学金」を、レターは「学校名の頭文字」をそれぞれ意味。つまり、スタジャンは単に着る場所を示すものではなく、本来は母校を代表する限られたエリートのみに与えられた勲章だったのだ。
原型となったのは、アメリカを代表する名門ハーバード大のベースボールチームが作った19世紀末のユニフォームだと言われる。その後、アメリカ東海岸の私立8大学である通称“アイビーリーグ”の選手間でムーブメントが拡大。1930年代に入ると定番化され、ウールボディにレザー製のスリーブ、スナップボタンフロント、首と袖口と裾のウールリブというデザインコードが根付いたそうだ。
一見してそれとわかる“誉れの象徴”を採用した学生スポーツは、なにも野球だけではない。スタジャンは次第にバスケットボール、アメリカンフットボールなどさまざまな競技でも取り入れられ、勢力を増していく。プロチームのロゴが入ったアイテムも出回るようになると、それを着てスタジアムで応援するファンも増加。この頃のファッションが日本に輸入されたという時代背景が、「スタジャン」と名付けられた理由のひとつだろう。
日本におけるスタジャンは1960年代から存在し、1980年代にはブームが到来。いわゆるアメカジを代表するアイテムとなった。そして、時代は巡り2020年代現在。再興する80年〜90年代カルチャーに勢いづけられ、リバイバルの波が押し寄せてきている。
スタジャンの定番・人気ブランド5選
①〈BUTWIN バトウィン〉
今に伝わるデザインコードを築いた老舗。
ここからは、スタジャンを知るうえで外せない5ブランドのアーカイブを紐解いていく。映えあるトップバッターは〈BUTWINバトウィン〉。アメリカ・ミネソタ州ミネアポリスにて1938年に産声をあげた老舗は、メルトンウールの身頃にレザースリーブを備えたスタジャンの元祖的立ち位置にある。
現在は〈RENNOC レノック〉というブランドの傘下でリリースを続けているが、20世紀中頃の作品はヴィンテージアイテムとしての価値が上々。年代ごとに移り変わるタグの仕様も楽しく、ファンのマインドをくすぐる。
今回紹介するモデルは、1960年代頃に用いられたタグが付く。誠実さと上品さが香るネイビーのメルトンボディは、しっかりとした強度も魅力的。その左胸には御多分に洩れず、立体的なアルファベットが誇らしげに鎮座する。
スタジャンとは切っても切り離せないこのあしらいはシニール(シェニール)ワッペンと呼ばれ、フランス語の「毛虫」を語源とする。フェルト生地の上に施されたパイル地状の刺繍は、キュートでいて存在感たっぷり。本来はスター候補用の学生ユニフォーム的アウターなだけに、毛虫から変体を遂げた蝶の華麗なる飛躍まで示唆するかのようだ。
ちなみに、最初期のスタジャンことヴァーシティジャケットはワッペンによる装飾は控えめで、東海岸のアイビーリーグにおける厳粛なアイテムとして捉えられていたそう。袖などの派手なデザインは、主に70年代以降の西海岸で見られるようになっていく。
(→〈バトウィン〉の「スタジャン」をオンラインストアで探す)
スタジャンの定番・人気ブランド5選
②〈DeLONG デロング〉
西海岸で勢力を増した
米国屈指のスポーツウェアカンパニー。
1856年。クリミア戦争の終結と同年、日本ではまだ徳川幕府が存在した時代に創業したのが、アメリカ屈指のスポーツウェアカンパニー〈DeLONG デロング〉だ。2009年に一度は倒産したものの、他社との合併や統合などを経て今なお現役。生まれ故郷のアイオワ州を離れ、現在はドミニカ共和国に工場を置く。
スタジャンの製造は70年以上の歴史を誇り、品質の高さは特筆だ。タフネスを備えながらも、驚くほど軽量。着心地の良さで他とは一線を画し、北米の高校・大学のスクールオーダーにはじまり、MLB・NBA・NHL・NFLに所属する多くのプロチームからも絶大な信頼を獲得してきた。
ここで紹介するのは、90年代製と想定される逸品。グリーンカラーのメルトンボディとブラックレザーのスリーブが、硬派なイメージを印象づける。おなじみのシニールワッペンは、胸ではなくハンドウォーマーポケット上にオン。アクセント的なホワイトカラー、やや傾いたデザインに遊び心とセンスが滲む。
背面にも大胆なシニールワッペンが施されるが、そこから読み解くに「ヨーク・コミュニティ・ハイスクール」に通うレスリング部のための1着だったようだ。右胸には、人名とも取れる「Schulte」の刺繍。そうやって出自をあれこれ深読みするのも、ヴィンテージならではの愉しみといえよう。
なお前章で派手な装飾のスタジャンは西海岸由来としたが、かつてその多くがアメリカ北西部アイオワ州発のデロング社製だったらしい。まさに歴史的名家、その面目躍如といったところか。
スタジャンの定番・人気ブランド5選
③〈SKOOKUM スクーカム〉
モダンファッションに通じる
ルードでスマートなムード。
続いてのブランドは、1939年スタートの〈SKOOKUM スクーカム〉。1年先輩のバトウィン同様、スタジャンフリークから一目置かれる名門である。
ブランド名のスクーカムは、「究極の」「他に類を見ない」を示すインディアンの言語を由来とする。名は体を表し、看板に偽りなし。シニールワッペンなどの装飾を削ぎ落とした今作を見ても、独特のオーラは健在だ。
こちらは日本で通称「ファラオジャケット」と呼ばれるタイプで、ブラック×ゴールドの配色からはルードな香りが漂う。それもそのはず、かのジョージ・ルーカスが監督を務めた1973年の映画『アメリカン・グラフィティ』に登場する不良少年たちが、今作と似たタイプのジャケットを着用。彼らのチーム「ファラオ団」からとったネーミングなのだ。
リブニットのショールカラーやラグランスリーブは踏襲しながらも、いわゆるスタジャンの王道とは異なるデザインが見どころとなる。裾にはリブが付属せず、丈もミドル〜ロングレンジに。『アメリカン・グラフィティ』の舞台となった1960年代当時はクルマにエアコンがなく、防寒用としてこのジャケットが好まれたことから「カーコート」の異名も持つ。
いずれにせよ、ソリッドでいながらゆったりした丈のジャケットは、デコラティブなスタジャンとはひと味違った洗練をも表現。モダンなシルエットはリラックス感も演出し、今のトレンドにもすんなりフィットするだろう。
2019年に一度はブランドが廃止するも、日本の愛好者たちよって再建がなされたスクーカム。そんな背景を含め、肌で温もり感じてほしい。
(→〈スクーカム〉の「スタジャン」をオンラインストアで探す)
スタジャンの定番・人気ブランド5選
④〈VAN ヴァン〉
あの大スターも認めた
ジャパンアイビーの記念碑。
日本のスタジャンを語るなら、絶対に避けては通れない。むしろ、スタジャンという呼び名はここから始まったのだから。〈VAN ヴァン〉。アパレルだけでなくライフスタイルそのものを提案した、本邦初のメンズファッションブランド。その功績は、あまりにも大きい。
手掛けたのは言わずと知れたゴッドファーザー、石津謙介氏その人だ。「スタジャン」の名付け親にして、アメリカのカルチャーやスタイルを日本に持ち込み、いわゆる「アメトラ」を確立した張本人がブランドを立ち上げたのは1948年のこと。1960年代のアイビーファション隆盛とともにスタジャン人気も加速し、一大ムーブメントとなっていく。
その確かな品質は日本人のみならず、母国アメリカの伝説的スターからも絶賛。キング・オブ・ポップスことマイケル・ジャクソンとのエピソードを以下で紹介しよう。
マイケルとスタジャンといえば代表曲「Thriller スリラー」での共演が思い起こされるが、1987年の「BAD World Tour バッド・ワールド・ツアー」での来日時にもスペシャルな出会いが実現した。マイケルが東京・麻布十番のスタジオを訪問した際、当時近辺に事務所を構えていたヴァンの社員が自社のスタジャンをプレゼント。それをマイケルは大層気に入り、以後のツアーで愛用し続けたという。
写真のアイテムは、マイケル着用とほぼ同様のモデル。VANの頭文字「V」のシニ―ルワッペンの上にアメリカンフットボールチーム風の別ワッペンが付けられているが、マイケルのほうはアメフト選手の装飾だった。とはいえそれ以外、差は皆無。しかも貴重な当時のオリジナル(型番JW-10502)で、サイズもLLと恐らくMJが着たものと同じなのだ。
背中にはブランドロゴとともに、ヴァンの有名キャッチフレーズ「for the young and the young-at-heart」が。年齢に関わらず精神的若さを持つ人間は、いつの時代も輝いている。
スタジャンの定番・人気ブランド5選
⑤〈STUSSY ステューシー〉
スペシャルな限定を
シニールワッペンが賑やかに祝福。
ラストは、泣く子も黙る〈STUSSY ステューシー〉の登場。世界的人気ブランドの傑作になら、“スタジャンバトン”を受け取るアンカーを安心して任せられる。とはいえ、ステューシーにとってのアパレル事業は、実はサイドビジネスだったのをご存知だろうか。
カリフォルニアのラグナビーチでサーフボードのシェーパーとして生計を立てていたショーン・ステューシーは、1980年に自身のブランドを設立。その皮切りはファミリーネームであるSTUSSYを殴り書きしたロゴプリントTシャツだったが、当時はあくまでサーフビジネスを軸に据えていたのだ。
さて、さっそくステューシーのスタジャンを見ていこう。今回紹介するのはニューヨーク・ロンドン・東京・ロサンゼルという4つの大都市限定で1998年にリリースされた、通称「BIG4スタジャン」だ。
複数のカラーバリエーションが存在するレアアイテムのなかで、濃紺のメルトンボディと鮮やかなイエローレザースリーブの組み合わせは、とりわけストリートテイストを強調するもの。ロサンゼルスに本拠地を置く某プロバスケットボールチームをも想起させる、アイコニックな色使いである。
スペシャルな装飾にも注目すべきで、フロント右胸には刺繍とフェルトでBIG4の文字を施す。背面にも同じ文言を大きく入れ、賑やかなバックスタイルを形成した。そしてフロント左胸に、ブランドの頭文字「S」と19898を表す「898」のシニールワッペンを採用。まるでクルーの一員としてアニバーサリーを祝うかのような高揚感を享受できる。
実に刻の経過は早いもので、ステューシー創設から40年以上が経った。1988年製の今作を含めた“OLD STUSSY オールドステューシー”は希少価値が高まり、今後は一層の枯渇と高騰が予想されている。ぜひお早めに、リユースマーケットでお探しいただきたい。
(→〈ステューシー〉の「スタジャン」をオンラインストアで探す)
スタジャンと「スカジャン」の違いとは?
本稿の最後にもうひとつ。今回のメインテーマであるスタジャンと響きが似たアイテムとして想起されるスカジャンだが、当然ながら両者はまったくの別物。「横須賀ジャンパー」を短縮した和製英語という点ではスタジャン同様であるものの、スカジャンは富士山や鷹など日本的モチーフの刺繍を特徴とするレーヨン地のスタジャン風ジャンパーを指す。
なお、帰国する米兵たちの土産として重宝されたゆえに、「SOUVENIR JUNPERスーベニアジャンパー」と呼ばれることも。ただし正式には、朝鮮戦争の退役兵たちが着た「KOREAN VET JACKETコリアン・ベットジャケット」と称され、ベットはベテランの略で「復員軍人、退役 (在郷) 軍人」を意味するらしい。
スポーツシーンに軸足を置くと同時に、自らのルーツを高らかにアピールするアメカジの大定番、スタジャン。纏うだけで特定のコミュニティに帰属できるような感覚も、先行き不透明な時代の相棒としてまたとない効力を発揮するだろう。
スタジャンとは何か。その問いの答えは結局、実際に手に取る人によって千差万別なのかもしれない。それでも、自らの“好き”を纏う喜びを最大限に味わえるという点は共通の強みとして挙げられるはずだ。そして今それこそが、自分らしいライフスタイルを叶える最強ワクチンだとも思う。