FASHION

“本物は揺るがない”。 「ミリタリーパンツ」の名作と種類を知る 〜USミリタリー編〜

白雲浮かぶ青空、吹き抜ける爽やかな風に心躍り、街を彩る木々の新緑が目にも眩しい5月。このなんとも心地よい気候が、春先はまだ寝ぼけ眼だった洒落心に、目覚めの刻が来たことを告げる。

多様性だなんだと言っても結局、流行や定番という“世の普通”が求められる令和ニッポン。覚醒した洒落心もまた、これらの普通との握手を勧めてくるに違いない。しかし、この申し出を「他人と同じではつまらない」と固辞していては、まだ子ども。我々、“モノ好き”な大人は、しっかり握手を交わしつつ、軽やかに自分のスタイルへと組み込む。なぜならば、“本物”とはマジョリティの中にこそ存在する。そう知っているから。

そこで今回のテーマとなるのが、カジュアルファッションというマジョリティの中でも定番中の定番である「ミリタリーウェア」。この『knowbrand magazine』においても、これまで幾度か特集してきたが、今回はボトムスに注力。誰もが知らず知らずのうちに触れてきた「ミリタリーパンツ」を、2回に分けて深掘りしていく。まず、この前編では、王道中の王道、USミリタリーのパンツ6種にフォーカス。

そもそも「ミリタリーパンツ」とは何か? というハナシ。

……なんて見出しの必要があるのか?と脊髄反射的に疑問符が浮かぶくらい読んで字の如く。儀礼的な軍服から実用的な戦闘服まで多種多様に存在する、軍隊関係の衣服。その総称がミリタリーウェアである。

本稿で取り挙げる「ミリタリーパンツ」は、軍隊での作業時や戦闘時に着用されたパンツを指す。その中で、陸軍用がアーミーパンツ、戦闘用がバトルパンツなど、運用先や用途ごとにさらに細かく分類される。ここ日本においては、軍パンやミリパンといった呼称が80年代後半〜90年代のアメカジブーム時に定着し、ジーンズと並ぶカジュアルボトムスの定番となって久しい。では、なぜこんなにも定番として普及したのか?

その理由を、モノの魅力と言い換えるならば、“機能美”の一言に尽きる。

そもそもミリタリーウェアの使命は、“生死がかかった戦場で任務を遂行し、無事生還すること”にある。ゆえにミルスペックという厳しい軍用規格に従って制作されており、機能美の結晶である無駄なきデザインには、優れた実用性が備えられている。これがストリートでカジュアルファッションに取り入れられ、今では1つのジャンルとして確立されているのは周知の事実。実際、国内外の様々なブランドが、ミリタリーウェアを模倣し、またクリエイティブの着想元としていることからも、優れたプロダクツであることの証明となっている。

となれば、我々“モノ好き”は、その源流たる本物にこだわりたい。こうして序文へと繋がるワケだ。

ミリタリーパンツと聞いて、誰しもが思い浮かべるのは、いわゆる「カーゴパンツ」。貨物船の乗組員が穿いていた堅牢な作業用パンツに由来するとされ、俗に「カーゴポケット」と呼ばれる大型ポケットを両太もも部分に配しているのが最大の特徴。

ミリタリーパンツとしては、1942年にアメリカ軍でパラシュート部隊の精鋭のみに支給された「M-42 パラトルーパーパンツ」がその嚆矢。パラシュートを装備して航空機から降下する際に、背負うことの出来ないバックパックの代わりに考案されたのが、装備品を収める大容量のカーゴポケット。この画期的アイデアを各国の軍隊が戦闘用パンツに採用し、波及していったとされる。これに倣い、最初の1本目は元祖カーゴパンツから。それではいざ、作戦開始。

【USミリタリー編 01】
「M-43」
シンプルにサイドポケット1本勝負。
黎明期ならではの潔さ

物事はシンプルであればあるほど良い。なぜならば、目的と手段、そして結果の結びつきが強固になるから。それでいえば、第二次世界大戦中の1943年に制式採用された、通称「M-43」は素晴らしくシンプルだ。制式名称は「Trousers,Special Herringbone Twill O.D.7」 。初期はチノトラウザー型だったが、装備を沢山収納して持ち運ぶなら最適解はサイドポケットと導き出し、このスタイルへと変わった。

アメリカ軍「M-43」。制式名称は「Trousers,Special Herringbone Twill O.D.7」。シンプルなデザインは、カーゴパンツ黎明期がゆえ。

最大の特徴であるサイドポケットは、太ももではなくウエスト近くに配置され、しかもそれ以外にはポケットを設けないという潔さ。高めに設定されたポケット位置には、歩きながらでもポケットにアクセスし易いという理がある。また一方で、縫製に手間の掛かるスラッシュポケットよりも生産効率が高かったことが、戦火の真っ只中にあって重要視されたからとも。ただし、ご想像通り、使い勝手はあまり良くなかったとか。そんなトライ&エラーも黎明期の1本であるがゆえ。

太ももの上部、ほぼ腰位置にデザインされたサイドポケット。実際に着用する兵士たちからの評価は芳しくなかったようだ。

フロントは、故障することがなく生産も容易なボタンフライを採用。初期は尿素練りボタンだったが、のちに通称「13スター」と呼ばれるメタルボタンに移行。表面に刻まれた13の星は、1777年にアメリカが独立した際の州の数を表し、同国が苦難の末に得た自由の象徴ともいえる数字を冠しているとか。自由と闘争がワンセットになっている辺りも、実にアメリカらしいではないか。

なおボディに使われているは、コットン素材のヘリンボーンツイル。テーラードからワークウェアまで多様なテイストに用いられるこの生地は、薄手でありながらハリがあり耐久性も高く、ミリタリーウェアにも多く用いられる万能ファブリック。同素材の頭文字から取って、このモデルは「HBTパンツ」とも呼ばれる。

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フロントは、13個の星が表面に刻まれたボタンフライ仕様。

バックポケットも設けない潔すぎるバックビュー。

登場から80年以上経たアイテムだけに、リユースマーケットにおいても希少性は増すばかり。だが、同年代のジーンズを比較対象とするならば、いまだ手の届く範疇と言って差し支えないので、狙っているならば早めの行動を推奨する。あとはHBT(Have Buy This)の報告を待つ。

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【USミリタリー編02】
「M-51」
無骨すぎる極太シルエットと、
6ポケットが織りなす妙味

国家の威信を懸けて開発されるプロダクツには、当然ながら最先端の技術が導入される。ミリタリーウェアもまた然り。素材にパターン、ディテールと技術の進歩に合わせて進化し続けた結果、1951年、我々が思い描くいわゆるカーゴパンツ型のミリタリーパンツが姿を現した。通称「M-51」。

主戦場は1950年から始まった朝鮮戦争。同地の厳しい冬に備えて開発された防寒用野戦服一式に付けられた型番で、通称「モッズコート」と呼ばれる「フィッシュテールパーカー」や「フィールドジャケット」とも共通。ここで紹介するのは、そのトラウザーというワケだ。

これぞミリタリーパンツといった様相の「M-51」。大型のサイドポケットは太もも部分に配置。

先述のM-43との大きな違いといえば、両太もも位置にまで下がった大型のサイドポケットだろう。これにフロントとヒップに追加されたフラップ付きポケットが4つで、計6つのポケットを装備。現代にまで受け継がれるUSミリタリーパンツの基本デザインは、ここで確立されたといわれる。

続いて細部に目を移す。フロントは、急な有事にも対応しやすいジップフライ。納入コントラクターや年代によって数種類が存在しておる、こちらは〈CONMER コンマ―〉製。生地はコットンサテン。無骨さ極まる極太シルエットは、ウールパイル地のライナーが装着出来るよう設計されているため。とはいえライナーを装着すると重量が激増し、ベルトのみで支えるのは些か困難。そこで活躍するのがサスペンダーボタンだ。備えあれば嬉しいな。とはこのこと。

フロントポケットは、中身の落下を防ぐフラップ付きでスナップボタン式。内側にはサスペンダーボタンも装備されている。

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フロントジップはコンマー製。これ以外に〈TALON タロン〉や〈WALDES ウォルディス〉などが存在する。

バックポケットにもフラップ付き。日常生活においては不必要なディテールだが、オーバースペックが男心をくすぐるのもまた偽らざる事実。ウエスト部にはベルトを使わずとも若干のフィッティングが調節可能なサイドアジャスターが。これを使ってギュッと引き絞ることで腰回りの丸みが強調され、重厚感に拍車をかける。

バックにもフラップポケットがあり、開閉も同じくスナップボタン式。サイドアジャスターはベルトなしで穿けるので、あると便利。

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ポケットのスレキには、制式名称である「TROUSERS, SHELL, FIELD,M-1951」の文字がスタンプされている。

アウトシームとインシームはともに巻き縫いのダブルステッチ仕様で、タフな仕上がり。また、膝部分は可動域を広げるためのアクションプリーツが施され、脚の屈曲に合わせた立体的構造に。太く無骨なフォルムをキープしながらも、優れた運動性を発揮する。さらに裾部分のドローコードを絞ることで、より動きやすくアクティブに。

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可動域を広げるためのアクションプリーツが膝に。アウトシームとインシームともにタフなダブルステッチ仕様。

あえて触れずにいたが、実はサイドポケットにも“ならではの”特徴が隠されている……のだが、アクションプリーツよろしく話が広がりすぎてしまう恐れも。ドローコードをキュッと絞って収束させつつ、次なるモデルへとバトンを渡す。

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【USミリタリー編 03】
「M-65」
軽く、乾きやすく、タフな
USミリタリーパンツのアイコン

なんとも既視感。だが、別にタイムリープしているワケではなく、ただ似ているだけ。先ほどのM-51と瓜二つのこちらは、1965年に制式採用された後継モデル。通称「M-65」。見た目にも差異はほぼなく、いかに前モデルの時点で完成されていたかが伺える。

ただし、生地はさりげなくアップデート。コットン100%からコットン50% × ナイロン50%の混紡ファブリックとなり、見た目は変わらずとも軽量性と速乾性、強度が大幅に向上(ただし、後期型M-51には混紡ファブリックも存在する)。その反面、コットン100%に比べると経年変化が感じづらくはなっている。一長一短、結局はアナタのお好みで。

カーゴパンツの代名詞といえば「M-65」。正直、見た目におけるM-51との差異はほぼない。

先に述べた本体の軽量化に加え、内側に装着可能な寒冷地用ライナー自体も、軽量なキルトライナーへとスイッチ。これにより重量問題解消のために設置されていたサスペンダーボタンが存在意義を失い、廃止。若干腰回りもスッキリしたように思える。

基本ディテールはM-51と同様なので、フロントのフラップ付きポケットも継続。

バックも基本的に変わらず。サスペンダーボタンは廃止されたが、サイドアジャスターは健在。

なお、内タグに明記された正式名称は、「TROUSERS, COLD WEATHER, COTTON AND NYLON, WIND RESISTANT SATEEN OLIVE GREEN, ARMY SHADE 107」。やたらと長いが、羅列された文字がすべてを物語っている。フロントはジップフライを継続。ここでは〈SERVAL サーバル〉製ジップを搭載したモデルを紹介する。

内タグを調べれば、コントラクトナンバーから製造年を判読することも可能だ。「DSA 100-74-C-0084」の74は1974年製を指す。DSAとは、アメリカ国防兵站局の1961年から1977年までの呼称「Defense Supply Agency(国防補給局)」の略なので、時代的にも正しい。このように歴史を紐解いていく楽しさも、ヴィンテージを掘る醍醐味といえる。

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フロントジップはサーバル製。引き手部分に装着されたジッパータブのおかげで、トイレに間に合わず暴発することもない。

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内タグに記された、長すぎる制式名称。ついでに1974年製ということも読み取れる。

膝部分のアクションプリーツも健在。縫製がこれまでのダブルステッチから、ほつれにくいインターロック縫製になっている点も見逃せない。これにより作業工程の簡略化に成功し、さらなる大量生産が可能となった。M-51とM-65を判別する際にも分かりやすいポイントなので、この機会に覚えておこう。

前項でも触れたサイドポケットの内部には、左右2本ずつストラップを格納。ポケットを外から縛って中の物を動かなくしたり、股下のループにくぐらせ太ももを縛ることで止血をしたりと多用途に使用される。M-51を象徴するディテールであり、当然後継モデルのM-65にもしっかり継承されている。

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膝のアクションプリーツはM-51から継続。アウトシームとインシームは、ともに作業効率の良いインターロック縫製に。

サイドポケット内に格納されたストラップは汎用性が高く、様々な用途で使われた。

ちなみに同型番のフィールドジャケットも有名。これらはM-51同様、一式での運用を想定しているため、ジャケットのみならずフィッシュテールパーカーも用意されている。M-65と聞いて、セットアップで脳裏に浮かぶあなたは本物だ。ウンチクついでにM-51とM-65の間にも、名作カーゴパンツが存在することも知っておきたい。その名は「ジャングルファティーグパンツ」。いずれにしろ過去に詳しく紹介しているので、興味があればぜひご一読を。

(→「M-65」のパンツをオンラインストアで探す)

(→「M-51」「M-65」のジャケットに関する他の特集記事はこちら)

(→「ジャングルファティーグパンツ」に関する他の特集記事はこちら)

【USミリタリー編 04】
「OG-107」ベイカーパンツ
シンプルで使い勝手抜群。
ビギナーにもやさしい1本

よく似たカーゴパンツが連続するとゲシュタルト崩壊を起こしかねないので、趣の異なる1本で気分を変える。一般的に「ベイカーパンツ」の通称で親しまれているこちら。制式名称は「TROUSERS, MEN’S COTTON SATEEN OG-107」。OGは「Olive Green オリーブグリーン」の頭文字で、107は米軍のカラーコードとされる。

その歴史を紐解くと意外に古く、少なくとも1940年代に原型となるモデルが完成され、1950年代からマイナーチェンジしつつ1970年代まで採用された。

ベイカーパンツこと「TROUSERS, MEN’S COTTON SATEEN OG-107」。その歴史は意外に古い。

世間的には、実用的なパンツを意味する「UTILITY PANTS ユーティリティーパンツ」、または作業パンツを意味する「FATIGUE PANTS ファティーグパンツ」として認識されることが多いが、実際には、件のジャングルファティーグの前身にあたり、入隊後の基礎訓練から熱帯戦まで幅広く使われていたという、まさしく軍パンの正統系譜に連なる1本。

シンプルながら抜群に使い勝手が良く、奥深きミリタリー道に足を踏み入れたばかりの初心者が、最初に選ぶ軍パンとしては最適解。また何より目を引くのが、フロントとパックにあしらわれたパッチポケットの存在だ。

フロントの大型パッチポケットがアイコニック。サイズ調整のアジャスターベルトがないからか、シンプルで美しい。

バックポケットはフラップ付き。平面的な作りは、座った際のストレスを感じづらいという利点も。

すべてのポケットが別布を貼り付けるパッチ式なのは、手間が掛からず生産性が高く、かつ丈夫で壊れにくいことが理由と考えられる。これも軍パンという性質上、より大量供給が必要だったとすれば理に適った考察。ここで紹介するモデルは1969年製。第3世代までのボタンフライからジップフライ仕様に変更されており、第4世代に属する。

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第3世代まではボタンタンフライだったが、第4世代に属するこちらはジップフライ仕様。〈RAPID ラピッド〉製だけあって、緊急時にもスムーズな上げ下ろしが期待出来そうだ。

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内タグを見れば、制式名称と1969年製ということが判別可能。注目したいのがサイズ表記。1964年製造の第2世代からS、M、L式がウエスト×インシームのインチ表記に。より個々の体型に適したサイズが選べるようになった。

インシームとアウトシームともにインターロック縫製だが、こちらも例に漏れずステッチやボタンの種類など、細かなディテールの変遷が確認されており、掘れば掘るほどマニアック。シンプルなデザインも美しく、かつまだそこまで高騰化していないので、恐れずハマってみるのもよろしい。

最後に、ベイカーパンツという通称についての一考。同デザインの白いタイプをパン職人が穿いていた、パッチポケットが食パンのように見える……など、その由来には諸説あるようだが、どうも1990年代に生まれた和製英語という説が有力。なぜならば、食パン起源という説をアメリカでは“耳”にしないから。……お後がよろしいようで。

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【USミリタリー編05】
「M-45」チノトラウザー
質実剛健にして汎用性高し。
風格漂うマルチボトムス

パンの話を引きずるワケではないが、ミリタリー色の強いオリーブカラーにもそろそろ飽きた頃合いと見て、全軍ベージュカラーに転進。となれば話の主役は、ご存知チノパン。紹介するモデルは通称「M-45」だ。

「45 KHAKI 45カーキ」なんて呼ばれ方もされており、正式名称は「TROUSERS,COTTON,KHAKI」。本モデル以前にも「M-41」「M-43」といずれ劣らぬ名作が存在し、その奥深さからチノパンに特化したコレクターも数多い。

「M-45」こと「TROUSERS,COTTON,KHAKI」。世に言われる“チノパン”の代表例がこちら。

チノパンという通称は、ボディに用いられたコットンツイル生地=チノクロスから取られており、真っ直ぐ伸びる膝下のラインと太めのシルエットが、堂々たる風格を漂わせる。しかもパッと見はシンプルだが、その実、見どころ多数。

たとえばフロント部分。プラスチックが登場する以前に使われていたユリア樹脂で作られた、いわゆる尿素ボタンを用いたボタンフライ仕様。いかなミリタリーウェアといえどもラフに扱えばボタンも紛失して当然。なのでこちらの個体も下2つはリペア済み。こういった欠けたピースからストーリーを妄想し、面白みを見出すというヴィンテージならではの楽しみ方も出来ると考えれば、それもまた魅力として輝きだす。

今は見ることのない尿素ボタンも、ヴィンテージならではのディテールだ。

バックポケットは片玉縁仕様。これ以前のモデルは両玉縁仕様なので、年代を見分ける際のポイントとなる。

また、アイビースタイルの鉄板アイテムであることからもお分かりのように、泣く子も黙るヘビーデューティー。質実剛健でありながら、日々の装いに取り入れやすいのが魅力。モノ好き目線で語るならば、間違い探しのように細かく、しかも多岐にわたるバリエーションも興味深い。再び一例を挙げるとすれば、インシームとアウトシームのダブルステッチ。この仕様は1950年代初頭まで。かようにヴィンテージ好きを唸らせるディテールを満載したチノパンは他になく、魅了されればあとは沼が待っている。

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両サイドともダブルステッチ。このディテールもまた1950年代初頭に姿を消す。

最後にはなるが、「ベージュなのにカーキ?もっとグリーンじゃないの?」と違和感を感じる人もいると思うので、少々説明を。

そもそもカーキとは、ペルシャ語やヒンズー語で“埃、チリ”を指す。1848年、インド駐留の英国軍が兵士の制服を川の泥などで保護色である茶褐色に染めたのが始まりとされ、染め上がった色を現地語のカーキと呼んだことが由来だとか。この生い立ちを考えると、土埃や砂の如きベージュ色が正しい。では、なぜまったく色味の異なるスモーキーなグリーンと混同されるようになったか。これには、迷彩柄が日本に輸入された頃、すでにチノパンが軍パンの代名詞となっていたことから、カーキ=軍服の色という勘違いが発生。転じて、迷彩柄に使われる色もカーキと呼ぶようになったという説がある。以上、真偽のほどは定かでないが、ちょっと役立つトリビア。

ついでに、チノパンという名称についても補足。こちらは素材のチノクロスから取られており、同生地を中国から調達したからとも。チノはスペイン語で中国人を意味するためだ。当然こちらも諸説あるようなので、何が正解かを自らの手で調べてみるのも一興かと。

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【USミリタリー編06】
スノーカモ パンツ
アレンジ・着こなしともに楽しい、
純白のキャンバス

ミリタリーパンツ特集の割に、カモフラージュ(迷彩)柄を纏ったモデルが登場しないことに消化不良気味の人もいるかもしれない。ならば最後くらいは……と言いつつフタを開ければ白一色。決しておふざけではなく、これも立派なカモフラージュ柄の1つ。通称「スノーカモ」。その名の通り、雪上における迷彩効果を狙ったもの。

スノーカモパンツこと「TROUSERS,SNOW,CAMOUFLAGE」。オーバーパンツとして設計されているため、シルエットは容赦なく極太。

一般的にカモフラージュ柄といえば、複数の色によるパターンで構成された分割迷彩を指すが、実は一色のみでパターンを持たない単色迷彩も存在する。ODの略称で知られるオリーブドラブや、このスノーカモが代表例。一面の銀世界の中では白一色でも風景に溶け込み、十分な迷彩効果が期待出来るという。

生地は、軽やかな質感のコットン×ナイロンシェルで、シルエットは股上深め&極太。これは通常の冬季装備の上から着用するオーバーパンツとして設計されているがゆえ。よってサイドポケットも貫通式で、中に穿いたフィールドパンツに直接アクセスすることが可能。

サイドポケットは貫通式。これにより穿いたままの状態で、中に着用したパンツにもアクセス可能だ。

内タグには制式名称の「TROUSERS,SNOW,CAMOUFLAGE」の文字が。ウエストは31〜35インチ、インシームは29 1/2〜32 1/2インチという表記は、ドローコードで調節する仕様だから。

フロントは大きく開閉するジップ仕様。ウエストと裾には、フィッティング調節用のドローコードがあしらわれている。その上、内装にはライナー取り付け用のループやサスペンダーボタンも装備するなど、必須ディテールのみを備えたミニマルな作り。バックには右側にポケットが1つ。デジタル化によってスマホがサイフも兼ねるミニマリストであれば、日常生活はこれで十分賄える。

ジップフロントでウエストにはドローコード。オーバーサイズで着用してギュッと絞ることで、立体的なシルエットが生まれる。

バックにはフラップ付きバッチポケットが1つ。こちらは貫通式ではなく、通常の仕様。

近年のオーバーシルエット人気が追い風となり、リユースマーケットでの需要も急増。さらにポケットのカスタムや黒染めを施すケースも多く見受けられる。加えて、本モデルをサンプリングしたニュープロダクツも様々なブランドからリリース続出。だがしかし、本物の風格には決して敵わない。今ならまだ手に入りやすいので、冬将軍の訪れまでに確保しておくことをお勧めする。

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なぜ、「ミリタリーウェア」にこんなにも心惹かれるのか。
その理由は、人間の肉体や精神が、目に見たものの影響を強く受けるという性質を備えているからだろう。
生死がかかった戦場で任務を遂行し、無事生還するために磨き抜かれた機能性。
それは、生命の尊厳を守るという大義の具現化に他ならない。
ゆえに、その機能美の結晶たるミリタリーウェアに我々は惹きつけられるのだ。

さて、次回は【ユーロミリタリー編】と題し、舞台もアメリカから大西洋を渡ったヨーロッパへ。フランス、イタリア、イギリスの各国で生まれた名作ミリタリーパンツ6本が、 USミリタリーの名作を迎え撃つ。

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