その評判はホンモノ! 〈ワイルドシングス〉の定番人気モデル【後編】 米軍実物「ECWCS」、別注コラボアイテム
ストリートで圧倒的な支持を集め、ファッションアディクト、アウトドアラバー、ミリタリーフリークの3方から得た評判の高さは、四半世紀近く経った今も衰えることを知らず、むしろさらなる高まりを感じさせる。そして、かように有り難がられるからには相応の理由があると考えて然るべき。
【前編】では、その理由を“アウトドア生まれ、ミルスペック育ちの出自と、積極的に新たな素材・アイデアを取り入れてきた革新性”であると述べ、ブランドを代表する看板モデルたちにスポットライトを当てた。賢明なる読者諸氏においては、もう十分に巷でのワイルドシングスの評判に疑いの余地がないことがお分かりいただけたはずだが、ここで追撃の手を緩めるのは早計。せっかくならばもう一歩進んで、より理解と知見を深めてもらわねばならない。その一助となり得る傑作モデルたちを新たに招集し、今ここに【後編】の開戦を宣言する。
〈WILD THINGS ワイルドシングス〉
人気モデル⑤
×〈N.HOOLYWOO N.ハリウッド〉
「HIGH NECK BLOUSON
ハイネックブルゾン」
米軍特殊部隊御用達PCUのレベル4に
アウトドアとファッションをひと匙
まずは、国内外でも人気を誇る〈N.HOOLYWOOD N.ハリウッド〉が手掛けた2021年発表のコラボレーションモデルが先陣を切る。2002年よりスタートとしたN.ハリウッド。シンプルながらも、古着屋出身のデザイナー尾花大輔氏のカラーが色濃く出たラインアップで、世の服好きたちを虜にしてきたことで知られる。
こちらは2009年から始動した「TEST PRODUCT EXCHANGE SERVICE テストプロダクト エクスチェンジサービス」に属する。尾花氏のルーツとも言えるミリタリーアイテムをタウンユースに再解釈して展開するラインからの1着だ。
ミリタリーギアに造詣が深い人間であれば、すぐ分かるように【前編】の「MONSTER PARKA モンスターパーカー」でも触れた、アメリカ軍の特殊部隊のために開発されたレイヤリングシステム「Protective Combat Uniform(通称:PCU)」のLEVEL4「WIND SHIRT ウィンドシャツ」が元ネタと推察される。
オリジナル版では、プルオーバー仕様だったフロントをフルジップに変更。その上、全体をほぼ裏地なしの1枚仕立てにすることで、街着として気軽に羽織れる汎用性の獲得に成功した。
ラウンドしたテールと裾のドローコードで防寒性とフィット感を高めたボディには、この冬、俄然注目度を増しているフリース生地を採用。ボンディング(接着)された2枚の生地が表面に独特なハリ感が現出させるのみならず、身幅に余裕を持たせて可動域を高めたリラックスシルエットも相まって、通常のミリタリーギアとは異なるソフトな着用感とアウトドアライクな温かみが感じられるのも、本作の魅力。
また他方で、随所に切り替えを多用することにより、どこか構築的なモード感も。まさにミリタリー、アウトドア、ファッションが円陣を組んで生まれた1着と捉えて差し支えないだろう。
ただ一点、言及しておきたいが胸にあしらわれたスラッシュポケット。元ネタとなったウィンドシャツのデザインを踏襲したもので、本体が収納可能なパッカブル仕様とアナウンスされているが、実際に試してみるとなかなかに難しく、甚だ疑問が残る。本当に可能か、ぜひ手に入れてテストしてみてもらいたい。
(→〈ワイルドシングス〉×〈N.ハリウッド〉のアイテムをオンラインストアで探す)
〈WILD THINGS ワイルドシングス〉
人気モデル⑥
×〈WIND AND SEA ウィンダンシー〉
「READY PARKA レディパーカ」
歴史の波に飲まれ消えた軍用モデルが、
現代的にアップデートされて復活
誰しもが心躍るコラボレーションモデルの猛攻はまだ続く。スタイリスト熊谷隆志氏がクリエイティブディレクターを務めるブランド〈WIND AND SEA ウィンダンシー〉もまた、2022年にワイルドシングスとのシェイクハンドを実現させて、ファンの間で話題となった。
ベースモデルは、ワイルドシングスがアメリカ軍のために製造するミリタリーライン〈WILD THINGS TACTICAL ワイルドシングスタクティカル〉において、かつて存在した廃番モデル「READY PARKA レディパーカ」。
当然ながら、そのままロゴだけ載せるなんて野暮なことはしない。アーカイブには忠実に、それでいてボリュームや着丈を現代風に変え、首周りのチンストラップは削ぎ落してミニマルに。逆に背面にポケットを追加したことで機能性にも磨きをかけている。この絶妙なアレンジ加減もまた、ファッショントレンドの隆盛を、長年つぶさに見てきた熊谷氏のセンスの賜物。
アウターの顔である表地は、艶を抑えて無骨さを際立たせたナイロン素材。さりげなくも施された撥水加工が多少の雨なら余裕で弾き、水洗いも可能。タフな機能性と家庭でのイージーケアという真逆にも思える要望を両立させた。
また左胸で、WIND AND SEAを象徴するSEAロゴがリフレクターでキラリと光れば、対するワイルドシングスのロゴも、同じく左腕のベルクロ部分に同色で鎮座ドープネス。さらにフードにもサラリと。漫然とロゴを並べるのではなく、さりげなくコラボを匂わせるのが大人の粋というやつ。
表立って見えない部分にこそ、こだわりは光るというのが傑品の証。ウィンターアウターの命題である保温性を司る中綿には、プリマロフトシルバーインサレーションを採用。
太さの異なる2種類の繊維を組み合わせることで、伝家の宝刀「プリマロフト」の武器である、軽量性・柔軟性・撥水性・通気性といった基本機能に加え、収納時にもヘタリにくい耐久性を獲得。さらに裏面のポリウレタンコーティングにより防風性までも備える。要は“虎に翼”の如し。
さらに【前編】で人気定番モデルの一角として紹介した「MONSTER PARKA モンスターパーカ」と似ているという声も聞くので両者を並べてみた。パッと見は空目するも、前立ての有無にはじまり、フードの格納の可否や裾のフォルムといった差異も多い。とはいえ、レディ(美女)とモンスター(怪物)が似ている(英字の綴り違いはご愛嬌)という事実も興味深く、話のネタに準備(READY)しておくのも一興だ。
(→〈ワイルドシングス〉×〈ウィンダンシー〉のアイテムをオンラインストアで探す)
(→〈WIND AND SEA〉に関する別の特集記事はこちら)
〈WILD THINGS ワイルドシングス〉
人気モデル⑦
「HAPPY SUIT ハッピースーツ」1
超撥水×ハイロフトにより実現
米軍制式採用の最強アウター
二度あることは三度ある。なぜならば、次に紹介するアイテムも、ある意味ではコラボレーションと呼べるからだ。気になるパートナーはアメリカ軍。満を持して【前編】でも述べた「HAPPY SUIT ハッピースーツ」こと「PARKA, EXTREME COLD WEATHER」の登場だ。
同ジャケットは、アメリカ軍が開発した「拡張式寒冷地被覆システム=Extended Cold Weather Clothing System(通称『ECWCS エクワックス』」に採用された、硝煙の匂い漂う、まごうことなき“本物”のミリタリーギアである。
そもそもECWCSとは、1980年代に極端に寒冷な状況でも活動できるように開発された戦闘用衣類の総称で、3世代に分けられる。第1世代(1985年〜)、見た目には変化がないが軽量性と保温性が向上した第2世代(2006年〜)と続き、現在流通している第3世代は、レベル1(ベースレイヤー)からレベル7(アウター)まで設定された7種のトップス、5種のボトムスで構成されている。これらを気温や天候、任務に応じて、最適なレベルのアイテムを組み合せて着用することによって、あらゆる環境下に対応するウェアリングシステム。これがECWCSというわけだ。
またその開発・製造にアウトドアメーカーが関わってきた点も特記すべきだろう。よく知られているのは〈patagonia パタゴニア〉だが、ワイルドシングスもその1つに数えられ、ここで取り挙げるハッピースーツがまさにそれ。かつて名作「デナリジャケット DENALI JACKET」において、いち早くプリマロフトの有用性を証明したワイルドシングスの主導により開発されたこのハイロフトジャケットは、第3世代のレベル7に分類される。レベル1~3+5のウェアと重ねて着用することで、実にマイナス46℃まで対応可能。極寒のシベリアでも耐えうるというのだから、あな恐ロシア。
……失礼。冗句も程々に、各部ディテールへと視線を移すとしよう。シェルには、マイクロファイバーに薄いシリコンの層を含浸させることで、軽量・防風・防水・透湿・耐摩耗性と超撥水性を有する「エピックEPIC」を採用。これが中綿として封入されたプリマロフトと最高のコンビネーションを発揮する。なお後年は、シェルにエピックと同等のスペックを誇る「ミリケン MILLIKEN」社製の超撥水ナイロンが採用されるようになった。
また本物の戦闘服だけに、両胸には兵士の名前や所属を示すネームパッチを装着するためのベルクロがデザインされている点も見逃せない。
続いて襟元。スタンドカラーは吹き荒ぶ冷気の牙から、首元を守る心強き味方。内部にフードが格納され、急な天候変化に対応するだけでなく2つの顔で着まわすことも叶う。あとは、収納とハンドウォーマーを兼ねるジップ付きのサイドポケットがあれば他に何もいらない。
……なんて言った矢先で恐縮だが、内側には“備えあれば嬉しいな”のメッシュポケットも。転ばぬ先の収納はありがたい限り。
ちなみに、ハッピースーツというミリタリーギアには不似合いな通称は、ワイルドシングス社製の最初期モデルの品質表示ラベルに「スマイルマーク」がプリントされていたことに由来する。写真のモデルには残念ながらスマイルこそないが、背タグがしっかりその出自の正当性を物語っている。そういえば、人気俳優の菅田将暉氏もこのジャケットを着ていたとか。そう聞くと悪い気はしない。いや、むしろ思わず笑みが漏れるというもの。
また“ハッピー”といえば、【前編】において先陣を飾った「HAPPY JACKET ハッピージャケット」は、ハッピースーツをタウンユース向けにモディファイしたモデルであった。こうして両者を並べてみるとミリタリーギアらしい硬派な雰囲気は保ちつつ、絶妙なアレンジが施されていることがよく分かる。
なお「ハッピー“スーツ”と言うからには、ボトムもあるのでは?」と考えたそこのあなた。……そう、あるのだ。
(→〈ワイルドシングス〉の「ハッピースーツ」をオンラインストアで探す)
(→「ECWCS エクワックス」に関する別の特集記事はこちら)
〈WILD THINGS ワイルドシングス〉
人気モデル⑦
「HAPPY SUIT ハッピースーツ」2
ジャケットに劣らぬ圧倒的保温性と
凌駕する運動性をボトムスに込めて
先ほどのジャケットと対になる存在ということで、当然ながら同等のECWCS第3世代のレベル7。
制式名称は「TROUSERS,EXTREME COLD WEATHER」。
中綿にプリマロフトを使用。吸汗拡散生地を使用したベースレイヤー(レベル1~2)に、撥水生地を使用したソフトシェルボトムス(レベル5)や防水透湿生地を使用したハードシェルボトムス(レベル6)を重ねた上に、さらにレイヤリングして履くためのオーバーパンツとして開発された。故に正しくシステムを理解すれば、極寒の冷気の牙をも折り砕くほどの防寒性が手に入る。
ウエストはイージーな履き心地を生み出すゴム仕様。オーバーパンツとはいえ脱ぎ履きが不便だと困るので、フロントは開閉に便利なジップを使用。窮屈さを感じることなく楽チンと、屈強な海兵隊員も思わずニッコリ(妄想)。
写真中央に見えるタグには、第3世代を意味する“GEN3”の文字と正当性を示す“OFFICIAL”の文字が併記され、その下にはプリマロフトのタグも隠れている。ついついめくりたくなるのは男の性か。早る衝動を抑えて、視線は次なるディテールへ。
ヒザには、アクションプリーツをあしらい機動性を向上。しかもダブルニー仕様で耐久性は上々。ジップ仕様になった裾は、シューズを履いたままでもクイックな脱ぎ穿きを可能とし、サイド部分はダブルジップでフルオープンにも。これらギミックがすべてデザイン的アクセントも兼ねており、その魅力は機能美の一言に尽きる。
ファッションとしてだけでなく実用面においても、ダウンの約8倍の暖かさともいわれる圧倒的保温性を備えるプリマロフトは最大の武器となる。取り入れるだけで冬の装いのレベルアップに大きく貢献するだけでなく、電気代が高騰する昨今、防寒用室内着として上下で着用すれば、光熱費のプライスダウンにも少しは貢献する……かもしれない。
(→〈ワイルドシングス〉の「ECWCS第3世代レベル7」のパンツをオンラインストアで探す)
「私たちは、不必要なものだけが必需品である時代に生きている」
それまでの常識が過去のものとなり、世界が急速に変容し始めた、産業革命真っ只中の19世紀末に生きた、とある作家の言葉だ。次々と画期的な発明がされる一方で、人間らしい生き方を見失っていた当時の状況を嘆きつつ、端的に表している。
これを現代に生きる我々は見方を変えて、“都市生活にはややオーバースペックともいえるウェア&ギアに心惹かれた我々を肯定するもの”と捉えてみてはどうだろう。そこに同じ作家の別の言葉をレイヤリングする。
「人生は複雑じゃない。私たちの方が複雑だ。人生はシンプルで、シンプルなことが正しいことなんだ」
人は考えすぎて、シンプルな答えを複雑にしてしまう生き物だ。だが、なにも難しく考える必要はない。シンプルに生きるのが正解だ。マリーとジョンならきっと「寒ければプリマフロトを纏えばいい」と言うだろうし、ヨーコとジョンならこう締めくくるだろう。「Happy Xmas(War is Over)」と。