〈ウィンダンシー 〉という名のエンドレスサマー【定番モデル編 】
〈WIND AND SEA ウィンダンシー〉。それは、我々を解放へと導く自由なる旋律。シンプルでいてパワフルなメッセージは、同じところにとどまらず進み続けることの尊さをも唄う。
2022 年の夏は、もう終わった。海と風が一年で一番似合う季節に別れを告げ、しっかりと前を向きたい。大切なのは、現在と未来を楽しむこと。だから、こんな服が欲しくなる。
デザインは当然のこと、
ブランド戦略でも鋭さを魅せる。
前編となる今回はブランドの根底をなす定番モデルを、続く後編では多彩なコラボレーションモデルを紹介していく。が、その前に。ウィンダンシーのこれまでを振り返っておきたい。
ブランド創立は 2018 年2月。立ち上げたのは日本ファッション界の重鎮、熊谷隆志氏だ。言わずと知れた超一流のベテランスタイリストであり、いまや映画やドラマなどで大活躍のスタイリスト伊賀大介氏らの師匠としても尊敬を集める“熊谷組総大将”。フォトグラファーやクリエイティブディレクターとしても辣腕を振るう才人は、サーフィンやゴルフをこよなく愛する多趣味の人でもある。
そんな彼が「純粋に作りたいものを作ること」をコンセプトにブランドを起こしたのだから、評判を集めないはずがない。かつて自身が手掛けていたブランド〈GDC ジーディーシー〉をも彷彿させるマインドは、復権の兆しを見せていたストリートファッションのトレンドとも合致。東京・駒沢公園通りにあった同名の雑貨店からスタートしたプロジェクトは、オリジナル T シャツのリリースを皮切りにビッグウェーブを巻き起こしていく。
デザイン・コンセプト面で鋭さを見せるウィンダンシーだが、特殊なブランド戦略も持ち味のひとつ。従来のアパレルメソッドに捉われず、流通量を極限まで絞っているのだ。事実、東京・中目黒のオフィシャルショップとオンラインストアではほぼ毎週新商品が入荷されるものの、その多くが瞬く間にソールドアウト。その結果、商品価値が向上し、在庫のリスクを避けることもできるという。
まさしく“目ウロコ”の発想だが、この新戦略を立てたのは実は熊谷氏ではない。熊谷氏の立場はあくまでクリエイティブディレクターであり、ブランド経営にはもうひとりの傑物が携わっている。その男こそ、恋愛・婚活マッチングサービス「Pairs(ペアーズ)」を仕掛けたエウレカの創業者、赤坂優氏だ。
2017 年 10 月にエウレカの取締役を退いた赤坂氏は、知人を通じて熊谷氏と運命の出会いを果たす。ブランドビジネスへの船出を目論む赤坂氏と、ウィンダンシーをさらに成長させたいと願った熊谷氏。ふたりの想いが合致し、ブランド誕生からわずか4か月後の 2018 年 6 月には、赤坂氏が経営を担うようになったそうだ。
(→スタイリスト伊賀大介氏に関する特集は、こちら)
「SEA S/S T-shirt
シーS/S T シャツ」
ブランド創立のきっかけにもなった
マスターピース。
ある意味で特殊な背景を秘めるウィンダンシーは、ブランドを支える両雄の広大な人脈も後押ししてか俳優やアーティストの愛用者が多い。以下で取り上げていくアイテムも、洒落者として知られる著名人の着こなしが複数目撃されている。
さて、まずは最もアイコニックなアイテムの登場。大胆かつ潔くブランドロゴを押し出した「SEA S/S T-shirt シーS/S T シャツ」は、熊谷氏の「また T シャツをちゃんと作ってみようかな」という創業時からの熱を帯びたマスターピースだ。
フロントに「SEA」バックには「WIND AND」が記される、文字通りに名刺がわりの1枚。キャッチーなビジュアルはʻ90 年代的ストリートカルチャーのオマージュとしても機能し、熊谷氏自身が溺愛するキング・オブ・ストリートブランド〈Supreme シュプリーム〉とも通ずる。そんなカルチャーと共鳴するように、かの木村拓哉氏も着用。ファンならずとも、押さえておいて損はないだろう。
ところで、耳触りのいいブランド名はカリフォルニア州サンディエゴ市ラ・ホーヤに位置する「Windansea Beach ウィンダンシービーチ」に由来する。綴りこそ異なるものの、世界的なリーフブレイクとリンクしたブランドには、サーファー垂涎の響きがあるのだ。
(→〈Supreme〉に関する別の特集記事は、こちら)
「LONG SLEEVE CUT-SWEN TIEDYE
ロングスリーブカットソー タイダイ」
特大のインパクトを誇る、
タイダイ&ロゴの二重奏。
来たる秋に大活躍するであろうロン T もブランドのロングセラーのひとつ。なかでも 2019 年 6 月に発表された「LONG SLEEVE CUT-SWEN TIEDYE ロングスリーブカットソー タイダイ」は、圧巻のインパクトを誇っている。
生地を「絞って(tie)染める(dye)」ことで唯一無二の表情を生むタイダイは、1960 年代のヒッピーたちによって作り上げられたものとされる。型にはまらず、自由を愛する。そんな主張を持つ柄は海との親和性も高く、ウィンダンシーのロゴとの収まりもいい。
「SEA Hoodie シーフーディ」
タフで使い勝手抜群の、
ストリートスタイルよりの使者。
続いては、ジップのないプルオーバータイプのパーカ「SEA Hoodie シーフーディ」をご覧いただこう。バックとフロントのロゴデザインで、オーセンティックなアイテムを見事に昇華。オーバーサイズに着こなすことで、インスタントにモダンなストリートスタイルが完成する。
ルーズなシルエットだけでなく、絶妙なカラーパレットも物欲を刺激する要因に。今年 2 月に計 10 カラーでラインアップされたなかで、今回はバーガンディ×メイズをピックアップした。メイズとはすなわち、「トウモロコシ」のようなイエローを意味。コントラストの強い配色ながら、どこか懐かしい温かみすら感じさせてくれる。
肉厚なコットン製で、タフに着回せるのもうれしい限り。着用を重ねて古着のような質感を味わうのも、また乙であろう。
「COACH JACKET
コーチジャケット」
“クルー”への加入を促す、
ユニフォーム的1着。
先立ってブランドのスタート時期は 2018 年2月と紹介したが、実はそれより以前に公式 Instagram へのポストは始まっていた。初投降となったのは、2017 年 10 月 18 日。そこには今作「COACH JACKET コーチジャケット」を羽織り、スケボーで街を駆け抜ける男性の後ろ姿が写っている。
ビビッドなオレンジボディに、光沢のあるプリントでブランドロゴをオン。いささか不良的で集団的な側面を持つコーチジャケ ットだけに、着用した途端ウィンダンシーの“クルー”となったような気にさせる。特有のラフさも心地良く、スタイルに抜け感を生んでくれるはずだ。
なお、フロントのロゴをよく見ると「SEA」の「E」と「A」がセンターにかかる前合わせのデザインとなっている。こんな芸の細かさも、ワンランク上のセンスを感じる所以だろう。
「WIND AND BEYOUTH (S_E_A) Varsity Jacket
ウィンダンビユース
ヴァーシティージャケット」
クラシカルなアイテムは、
若き精神性をも示唆?
前編のラストを飾るのは、いわゆるスタジャン。ただし、スタジャンと呼んで通じるのは日本語圏内だけ。英語での正式名称はバーシティージャケットで、もともとは大学のスポーツチームが採用したユニフォームを指している。
この「WIND AND BEYOUTH (S_E_A) Varsity Jacket ウィンダンビユース ヴァーシティージャケット」は、フロント裾の 03 のワッペンが示すように、ブランド創立 3 周年を祝った特別モデル。左胸の SEA ワッペンの脇にも、3 周年を意味する3つの星があしらわれている。
ボディはウール、スリーブはレザーのベーシックな仕立て。そんな王道のデザインからは、熊谷氏のスタジャンにかける譲れぬ情熱が伝わってくるかのようだ。というのも、熊谷氏が 1998 年からディレクションした人気ブランド〈GDC ジーディーシー〉においてもスタジャンはキーアイテム。言うなればアイコンとしての地位を確立していた。
そうなると、新たなブランドであるウィンダンシーのスタジャンに付けられた「ビユース」というモデル名には、より一層の深みが感じられるのではないか。いずれにせよ、「純粋に作りたいものを作る」というコンセプトをこのスタジャンが体現しているのは間違いなく、だからこそ代表作と言えるのかもしれない。
T シャツやパーカをはじめ、題材となるのは昔から変わらないベーシックアイテムばかり。ただしそこにロゴの力が加わることで、まったく新しい価値が付随する。それも服の面白さであり、それを知り尽くす熊谷氏ゆえに、かくも鮮やかなクリエイションが生まれた。
2018 年より始まったウィンダンシーの物語は、まだ序章に過ぎないのかもしれない。シンプルでキャッチーなデザイン、計算されたブランド戦略には単なるアパレルの枠を超えた、さらなる期待を抱かずにはいられない。これから先、どんな楽しい未来を見せてくれるのだろうか。
続く後編では、そんな広がりを早くも感じさせる他ブランドとの合作が登場。ぜひご一読を。
(→【コラボレーション編】は、こちら)